見出し画像

マザレス番外編 烙印の報復 高和山にいそげ! 没エピ 望月衣知子編② スピンオフ



 東和台駅前ロータリー、望月衣知子もちづきいちこは運転してきた小型のEV車を路肩の駐車スペースに停車させた。腕時計に目をやる午後十時四十二分。最終電車が出たあとの駅構内は閑散として静まり返っている。雨は上がって駅ビルの上に青白い月が出ていた。衣知子は車を降りるとコンコースを巡回していた駅員を呼び止めた。薄いブルーの夏用の制服を着た若い駅員は怪訝けげんな顔をして立ち止まった。衣知子は手早く名刺を渡すと騒動の事を尋ねる。しかし駅員は関わり合いになりたくないのかなかなか口を開かない。駅員からやっと聞き出したのは、

 ───暴漢集団は、親子四人と連れの少年の乗る車を襲撃。しかし少年の抵抗にあって子供の拉致に失敗。黒服隊の到着前に逃げ去ったらしい。家族の乗った車もおっつけ立ち去った模様である。父親と連れの少年は暴行を受けてかなりの怪我を負ってる可能性がある。暴漢集団は居住区の北側に位置する高和山方面へ逃走した。───ここでこれ以上の情報は得られそうにもなかった。衣知子は携帯でデスクの鮫島に報告をいれた。鮫島から聞いたところによると、高和山中腹には数年前大量殺人を目的として大胆な破壊行動おこし最高裁判所より解散命令の下った宗教団体の建設した施設がある。現在その施設はマザーレスチルドレンのアジトとして利用されているらしいとの情報があること。

 ───連中は恐らくその施設に拉致した児童を一時的に監禁してる。

 だがこれ以上深追いするな、という鮫島の忠告に衣知子ひとまず了解してこのまま直帰することを約束して電話を切った。程なくして衣知子は車を駐車していた場所に戻った。噴水の前にまだ割れたウインドウガラスの破片が散乱している。この場所で一家は暴行を受けた違いない。その時外灯の明かりでキラリと何かが光った。よく見ると路上に何かが落ちている、衣知子は、それを拾い上げるとジャケットのポケットに突っ込んだ。

 車に乗り込むと、ヒトミはポケットからそれを取り出した。見覚えのあるシルバーのネックレスだった。


それは弟のユキオが大事にしていたクロムハーツに間違いなかった。
 ───大変だ、ユキオがこの事件に関係してる……。ユキオを連れ戻さなければ、悪い連中から救い出さなければ。

 衣知子は車を急転回させると高和山を目指して疾風のごとく走り去った。

↓本編はこちら


この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?