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〜ルッキズムに囚われた女〜

ルッキズム。
それは人の心を狂わす。
昔々、あるところに王国がありました。その端の村のはずれで女の子が生まれました。
「まあ、なんてひどい顔。」
「醜い。」
「化け物だ!」
その女の子の顔を見たものは皆そう言いました。幼い頃、女の子に友達はいませんでした。それどころか両親も女の子の顔をあまり見ようとしませんでした。女の子はずっと孤独でした。
しかし、女の子が十才になったあるとき、運命のものに出会いました。それは、お化粧です。お化粧をすれば、締麗になれる。そう思った女の子は毎日部屋にこもって、お化粧の練習をし続けました。
しばらくして、女の子は成長して世界一美しい女性になりました。もちろん、磨き上げたお化粧技術のおかげです。そして、この王国の宮殿がある都へ引っ越しました。もう、女性の本当の姿を知る者はいません。都につくやいなや、女性の美し
さに惹かれて都中の男性たちは女性に求婚しました。しかし、女性は自分の顔と釣り合うような美しい男性と結婚したかったので、その申し出をことごとく断っていきました。
ある朝、女性が待ち望んでた運命の男性がやってきました。それはこの国の王様でした。王様は凛々しく美しい男性でした。美しいだけでなく、優しく、たくましい素敵な男性でした。王様は王妃様を亡くし、大事な一人娘が寂しい思いをしていたので、新しい王妃を迎えようと考え、都で一番美しい女性を探しまわっていたのです。王様は女性を見てその美しさに一目惚れしました。女性も王様に一瞬で心を奪われました。
晴れて二人は結婚しました。そして、女性はこの国の王妃になりました。女性はとても幸せでした。かわいい義娘もいました。その義娘は王様によく似てこの世の者とは思えないほど美しい人でした。名を、白雪姫といいました。白雪姫も美しい女性が義母になって嬉しそうでした。女性は幸せな生活を送れることに感謝して王様と白雪姫のために一生懸命働きました。そして仲良く暮らしていました。ただ、お化粧を落としたところを見られたらいけないので、毎朝だれよりも早く起きてお化粧をしていました。
しかし、ある日事件が起こりました。その日は舞踏会があって朝早くから準備をしないといけなかったのです。それにもかかわらず、疲れが溜まっていた女性は王様と白雪姫が起きたあともずっと寝続けていました。なので、白雪姫は戸を叩いて、
「お義母様、もうこんな時間ですよ。」
と言いました。しかし、女性はまだ起きません。しかたなく、部屋に入り女性を起こそうと顔を覗き込みました。すると、寝ているのは醜い顔をした化け物ではありませんか!
「まあ、なんてこと!」
と白雪姫は叫びました。その叫び声を聞いて、女性は目を覚ましました。目の前には目と口が大きく開いてびっくりした顔をしてこちらを見る白雪姫がいます。最初、女性はなぜ白雪姫が驚いてこちらを見ているのかわかりませんでした。程なくして気づきました。お化粧をしていない!と。すると、白雪姫が
「あなた、私たちのことを騙していたのね!
そんな醜い顔を偽っていたなんて!人間じゃないわ!化け物よ、化け物!」
女性は絶望しました。全てが終わりました。そして、女性が顔を偽っていたことが王様にも知れ、女性は離婚どころか、「醜い化け物」として都を追い出されてしまいました。
女性はこの世はやはりすべて見た目なんだと落胆しました。そして、見た目のよさで幸せな生活を送っている人が恨めしいと思いました。そうだ、世界一で一番美しい人は世界で一番幸せだろうからその人に鉄髄を下してやろう。女性はそう企ん
で鏡に言いました。
「鏡よ、鏡。この世で一番美しいのは誰?」
鏡は答えました。
「白雪姫でございます。」
やはり、あの白雪姫か。いいだろう、私を幸せな生活から追い出した張本人だ。あいつが死んだら王様も悲しむだろう。
この哀れな女性の思いが天に通じたのでしょうか。次の日、都から白雪姫が女性のいる村にやってきたのです。白雪姫はその村の小さな小屋に泊まりました。女性はそのことを知り、誰もいない間を見計らって姿をマントで隠したまま、白雪姫がいる小屋の窓をたたきました。コンッコンッ。すると白雪姫が窓から顔を出しまし
た。
「お嬢ちゃん、美味しいりんごがあるんだけど、いただくかい?」
女性が聞くと、
「まあ、真っ赤で美味しそうなりんごね。」
と白雪姫が言いました。どうやら白雪姫は気づいていないようです。
「くださるの?」
「もちろんだよ、はいどうぞ。」
「ありがとう。」
そして、白雪姫はりんごをひとかじりしました。するとなんということでしょうか。
そのりんごには毒が塗ってあったのです。白雪姫は息を引き取ってしまいました。
女性はいい気味だと思いました。

一ヶ月後、女性の家に男性が訪れました。
「白雪姫殺害未遂で逮捕する。」
「え…(白雪姫は死んだはずなのに…なぜ生きているのだ)」
「白雪姫は小人たちが帰ってきたときにすでに亡くなった状態で発見された。たまが、白雪姫はたまたま通りかかった王子様のキスで目を覚まされたのだ。そのときのどに引っかかった毒りんごが口から出てそのりんごを調べれば、お前の果樹園で栽培しているりんごだと分かった。お前はあの『醜い化け物』だろう。殺害しようとする動機もあるな。」
女性は言葉を失いました。あの白雪姫が生き返ったなんて…しかも、王子様のキスで。

一週間後、女性は踊っていました。焼けた鉄の靴を履いて。
見物人はみな嬉々とした顔で、「醜い化け物が死ぬぞ!」と歓声をあげています。
「私の見た目だけでなく、心まで化け物にしたのは、ルッキズムに支配されたこの世界のあなたたちなのに…!」その悲痛な思いは誰にも届かぬまま、女性は息絶えたのでした。

#創作大賞2022

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