近くて遠い法務と経理

近くて遠い

今回は、コーポレート部門において重要な2つの機能である法務経理の関係性について、書いていこうと思います。

とあるきっかけで、インハウス時代に経理部門も見ることになったのですが、あの時、法務と経理の架け橋になれる人材の重要性を痛感しました。

ちなみに、自己紹介(前編)はこちら。後編は書けてないのですが、後編でこの辺を整理したいと思っています。

法務と経理は、どちらも専門性が高く、それゆえに、お互いに人材交流がほぼほぼありません。近くて遠い存在なのです。僕も経理に携わるまで、経理の人たちが何をしているのか全然知りませんでした。

ただ、やってみて痛感しましたが、法務と経理が連動すべき領域がたくさんあり、この2つの機能が連動すると、会社にとって大きな価値を生みだすことができます。逆に、この2つの機能が連動しないと、価値を生みだすことがないばかりか、損失すら生んでしまいます。

誰が連動させるのか

この2つの機能を連動させるためには、その架け橋になるべき人材が必要です。もちろん、勝手にメンバーレベルで連動して動ける組織もあるでしょうが、希少なのではないでしょうか。

端的に、この架け橋の役割は相当難しいです。
法務も経理(財務会計)も専門性が高く、最低どちらか一方の専門性は必須です。
スタートアップでは、その組織構造や成り立ちの経緯から、経理(財務会計)人材が、法務人材よりも先にスタートアップに入ることが比較的多いため、結果として、経理(財務会計)人材の専門家に架け橋を期待されることが多くなると思います。

その結果、公認会計士出身CFO経理部長が、法務機能を管掌するパターンをよく見ます。
ただ、法務畑系の人で架け橋機能を担うことができないわけではありませんし、全然できると思います。もちろん、勉強が必要ですけどね。

架け橋が求められているだけ

注意が必要なのは、あくまで架け橋が求められているだけということです。
自分の専門でない領域は、その専門の人にしっかり任せることが重要です(これが案外難しい)。
不得意な領域に、思い付きで口を出してメンバーに仕事を増やしてはいけません。笑

法務と経理が連動すべき領域

収益認識

早速ですが、1個目はこれです。
ナイル株式会社取締役の長澤さんがポストしているとおりです。

新規の事業や新規の施策、取り組みなどを開始する際、経理よりも法務に先に相談が来ることも珍しくないのではないでしょうか。

契約書を作ったりレビューしようとする際、事業や施策、取り組みについて細かくヒアリングをしていくことになるのですが、その際に、収益認識基準の基本的なことや、自社の経理(財務会計)で論点になっている事項(視点)を知っていると、「あれ、これ大丈夫かな?」とピクッとくるわけです、いや来てほしいわけです。

特に、四半期末や年度末は、予算達成に向けて事業部門の人たちは必死ですので、なんとかして売上を計上しよう!と思うわけです(これは悪いことではなく、とても良いこと)。
そして、監査法人もそのことは知っています。開示されることになる(将来開示することになる)四半期決算、年度決算の数字に影響するわけですから、当然、見る目も厳しくなります。

そのときに、「これって、経理知ってますか…?」、「計上のところ、経理に確認してますか…?」と問題提起してあげられると、法務パーソンとして100点なのではないでしょうか。

あとは、経理のプロたちがきちんとさばいてくれるはずです。
そして、その中で、座組の組み方や、契約書の文言について、会計処理を意識した連携をとっていくことが可能になります。

あなたが作っているその利用規約は、どんな数字になって事業に跳ね返ってくるかまで想像しながら作ってますか?」という長澤さんのコメントは、真実です。

もちろん、全て自分たちの都合の良いようには出来ませんが、全部知った上で判断するのと、何も知らずに判断するのとではえらい違いです。
予算達成できると思って契約書作ったのに、監査法人から指摘が入り、契約書の文言をチェックされ、結果、思っていた会計処理ができずに予算達成が全然できなかった…などのような悪夢はぜひ避けなければいけません。

ちなみに、当時の個人的なおすすめ書籍はこれです。これが一番読みやすかったです。

内部統制

IPO(上場)を目指す上で避けては通れないのが内部統制です。
上場後にはJ-SOXが適用されますが、J-SOXとは、財務報告に関する内部統制制度のことです。上場後は、内部統制報告書を作成し、提出しなければなりませんので、IPO準備段階からその対応が求められます。
これがだいぶ大変です…。

ざっと概要を掴むならこちら。

制度導入の背景となったエンロン事件を知るならこの小説。

J-SOX対応は、主に経理系の方が対応されることが多いのではないでしょうか。法務系の人で、3点セット(業務記述書業務フローチャートリスクコントロールマトリックス)を作れる人は相当珍しいのではないでしょうか。ただ、経理がやってるから大丈夫、と放置しているとなかなか厄介なことになります。

例えば、経理は、普段の経理処理や事業部門へのヒアリング等を通して業務記述書と業務フローチャートを作ることがあります。
業務記述書と業務フローチャートは、当然社内規程に沿っている必要がありますが、その観点の確認は、やはり法務系の人の方が専門性が高いのです。

また、両者に不整合がある場合、どちらか一方を修正しなければいけません。仮に、社内規程を変えようとする場合も当然、法務系の人の方が得意です。
細かすぎる文言にしてしまうと運用の柔軟性を欠いてしまいますし、言葉一つで解釈も分かれてしまいます。

決議事項・事前通知事項

あとは、経理に先に情報が入ってくる事項もあります。
その中に、取締役会決議事項株主総会決議事項が混じっていることもたくさんあります。

例えば、今度銀行からお金を借りようとする場合、銀行対応は経理が行うことも多いため、真っ先に経理に情報が入ってくるわけです。
金額によっては取締役会決議事項に該当しますし、株主間契約に基づく事前通知事項に該当することもあります。

この辺は、日ごろから業務を担当している法務との連携が必要になります。
そうしないと、決議や事前通知前に、いつの間にか契約締結して着金してしまうということもありえます。

定時株主総会

その他、年に一度の定時株主総会での連動も必要です。
招集通知は経理と法務が連動してが作るべきですし、スケジュール面も双方の連動が必要です。
例えば、監査報告はいつ上がってくるのかが分からないと、招集決議のための取締役会のスケジュールが組めません。

おわりに

近くて遠い法務と経理ですが、お互いに学ぶことはたくさんあります。
勉強しよう!という切り口で始めると、机上の知識を身に付けるスタンスになりがちですが、せっかく事業会社で生きた教材と生きた専門家が目の前にいるわけですので、日々の業務における連動をしながら、学習していくのが良いのではないでしょうか。

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