増資手続の手引き(実務担当者はつらいよ編)

はじめに

増資とは、会社の資本金を増加させることを言います。
資本金を増加させる要因はいくつかあり、①株式発行の際の払込みによるもの、②新株予約権の行使によるもの、③合併等によるもの、④準備金・剰余金を資本金に組入れることによるものです。

このnoteでは、①株式発行の際の払込みによる増資を取り上げます。
というか、増資という言葉から想起するものは、これですよね。

ちなみに、増資があれば減資もあります。
増資を経験したスタートアップは、主に税務上の観点で当然減資も検討することになると思います。減資手続の手引きは別のnoteでまとめようと思います。

手続の概要

そこまで複雑なものではありません。雑に言えば、
⑴投資家との間における契約締結
⑵既存株主対応(事前通知等)
⑶発行会社における決議(株主総会決議・取締役会決議)
⑷投資家による払込み
⑸登記手続
です。
なお、⑴~⑶は同時並行的に進んでいきます。

実務担当者はつらいよ

ケツは決まっている

増資は、たいてい、キャッシュがほしくてやるわけですので、当然、⑷の払込時期は決められます。
いつの間にか実務担当者の下に降ってきます。
みんな当然ここまでに終わらせに掛かりますので(むしろ、当然終わると思っている、いや思い込んでいる)、⑷のスケジュール遵守は必須です。
ここまでに、⑴~⑶を終わらせなければなりません。

スケジュールを組んで知る、時間のなさ

実務担当者は、⑷を起点にして、会社法や既存株主との株主間契約に基づく手続を整理して、スケジュールを決めることになります。

スケジュールを決めようとして気が付くのですが、思いのほか時間的に余裕がありません(あれ、もっと余裕があったはずでは……となります)。

余裕がない理由は単純で、この手の手続にはリードタイムが設定されているためです。例えば、「2週間前までに●●をしなさい」という手続上の義務が課されているのです。
この「2週間前まで」っていつまでやねんという話(期間の計算)を別のnoteに書いたので、ぜひ読んでください(宣伝)。

「2週間前までに」の手続があれば、必然的に、間に2週間挟まることになります。

また、手続の前後関係が決められているものもあります。例えば、既存株主との株主間契約において、増資をする場合は、2週間前までに事前通知せよとされていれば、まず事前通知をしなければいけません。
実務担当者が勝手に事前通知するわけにはいきませんので、社内決裁も必要です。

このように、色々な手続を全部守ろうとスケジュールを組んでいくと、時間がどんどん掛かる羽目になります。

スケジュールどおりに物事が動くほど甘くない

色々なハードルを踏まえてスケジュールを設定しても、スケジュールどおりに物事は動きません。

まず、当たり前ですが、⑴投資家との間における契約の交渉に思ったより時間が掛かります。
「主要なタームは合意できている」という甘いささやきは、決して信じてはいけません。

投資家との間での交渉に時間が掛かるのは予想できるとして、これに加えて、既存株主への説明(根回し)、社外役員への説明(根回し)も必要です。それぞれの立場から意見も出されますので、当然丁寧に説明しなければいけません。
投資家だけに向き合っているわけにはいかないのです。

また、ハンコ事情も見過ごせません。
大きな事業会社やVCのハンコが必要になる場合、たまに、「ハンコを貰えるのは毎週●曜日だけです」というパターンがあります。
調えたスケジュールどおりになんとか契約交渉も終わって安心していたら、ハンコ間に合いませんという悪夢が出現するときがたまにあります。
その時は、熱意をもって依頼するしかありません(熱意は通じます!)。

入金されるまでが増資手続?

その後、⑶さえ終わればもう大丈夫かと思いきや、やはり入金(⑷)があるまで不安なものです。
特に、払込期間が短く、入金がギリギリになることが想定されているケースはけっこうドキドキです。
経理担当者が入金報告をしてくれると、どっと緊張が解けます。

登記手続までが増資手続

入金まで済めば、経営企画・財務、経理の担当者はもうこの件から解き放たれているかもしれませんが、最後の最後、登記手続(⑸)が待ち構えています。法務担当者はまだ安心してはいけません。

ここまで来て、登記申請通りませんよ、は全然ありえます。
最後の最後に高いハードルが待ち構えているのです。
登記が通らなければ、全て水の泡です。

登記手続を侮るべからず。
僕の場合はビビりなので、⑴~⑶を進めながら、必要に応じて司法書士さんに確認を入れていきます。
商業登記に慣れている司法書士を早急に確保しましょう。

続編

続編で⑴~⑸の概要をまとめていきます。
なお、細かい中身は割愛予定です。


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