期間の計算は難しい。

はじめに

法律に関する業務を扱っていると、実に多くの場面で、期間の計算を行うことになります。

例えば、契約の有効期間について自動更新条項が定められている場合、「期間満了の1か月前までに通知しない場合」と定められる場合があります。
「1か月前まで」とはいつまでなのでしょうか?

株主総会の招集について、会社法第299条第1項では、「株主総会の日の二週間……前までに」招集通知を発しなければならないと定められています。
「発しなければならない」というところも見落とせません。

税制適格SOの要件について、租税特別措置法第29条の2では、「新株予約権に係る付与決議の日後二年を経過した日から当該付与決議の日後十年を経過する日までの間に」と定められています。
「二年を経過した日」や「十年を経過する日」とはいつなのでしょうか?
経過「した」と経過「する」とでは、言葉の意味もそもそも違いそうです。

期間の計算は難しい

もし、「1か月前は1か月前でしょ?」「何か難しいことある?」と思っていたら、そのうち落とし穴に思い切り落ちることになります。
実は、期間の計算は難しいのです。

民法のルール

期間の計算の仕方はとても大切なので、民法がルールを定めています。
案外知られていないのですが、法律にルールが載っているのです。

(期間の計算の通則)
第百三十八条 期間の計算方法は、法令若しくは裁判上の命令に特別の定めがある場合又は法律行為に別段の定めがある場合を除き、この章の規定に従う。

なお、この条文に規定されているとおり、他の法令などで別のルールが規定されていることもあるので、要注意です。
では、民法はどのようなルールを定めているのかを簡単に整理してみます。

起算日(スタートライン)

まず、起算日(スタートライン)についてです。
民法第140条は、以下のように規定しています。

第百四十条 日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。

原則として、期間の初日は算入しません(初日不算入)。
ただし、その期間が午前0時から始まるのであれば、初日も算入するとされています(以上について、民法第140条)。

計算の方法

次に、計算の方法についてです。
民法第143条は、以下のように規定しています。

(暦による期間の計算)
第百四十三条 週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。
2 週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。

第2項が大事です。
「週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。」の意味について、"2024年5月29日(水)の1か月後"の計算をしながら、確認します。

まず、起算日(スタートライン)ですが、初日不算入の原則によると、2024年5月29日(水)の翌日である2024年5月30日(木)が起算日になります。

2024年5月30日(木)が起算日ということは、「週、月又は年の初めから期間を起算しないとき」に該当しますので、「その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。」ことになります。

「最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日」はいつかというと、「その起算日」(2024年5月30日)に「応答する日」(2024年6月30日)の「前日」(2024年6月29日)が、満了日になりそうです。

2024年6月29日は土曜日です。
土曜日は多くの人はお休みです。土曜日を満了日にして良いのでしょうか。

満了日(ゴールライン)

民法第142条は、以下のように規定しています。

第百四十二条 期間の末日が日曜日、国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日その他の休日に当たるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間は、その翌日に満了する。

期間の末日が「日曜日、国民の祝日に関する法律に規定する休日その他の休日」であるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、その翌日に満了するということです。

2024年6月29日は土曜日ですが、土曜日は「その他の休日」に該当するかどうかを考える必要があります。
土曜日が「休日」に当たるかどうかについては、見解が分かれているようです。
ただ、少なくとも実務上はコンサバに対応する方が無難ですので、該当すると考えた方が良さそうです。
なお、我妻榮ほか「我妻・有泉コンメンタール民法-総則・物権・債権〔第7版〕」(日本評論社、2021)では、「休日」に土曜日が含まれるとの記載がなされています。

そうすると、土曜日である2024年6月29日を満了日とすることはできず、またその翌日である2024年6月30日も日曜日ですので満了日にできなくなり、結局、2024年7月1日(月)が満了日になります。
"2024年5月29日(水)の1か月後"は、意外にも、2024年7月1日(月)になるのです。
期間の計算は難しい(再)

租税特別措置法第29条の2の期間の計算

租税特別措置法第29条の2では、「新株予約権に係る付与決議の日後二年を経過した日から当該付与決議の日後十年を経過する日までの間に」という要件が出てきますが、これはどのように考えるのでしょうか。

「付与決議の日」とは、「ストックオプションの割当てに関する決議の日」とされています(国税庁「ストックオプションに対する課税(Q&A)」>「問6」>「②」>「(注)」)。
仮に、割当てに関する決議の日が、2024年6月14日(金)だったとします。

まず、「付与決議の日後二年を経過した日」です。
起算日である2024年6月15日(土)の2年後は2026年6月15日(月)ですが、この日を「経過した日」ですので、その翌日の2026年6月16日(火)です。

次に、「付与決議の日後十年を経過する日」です。
起算日である2024年6月15日(土)の10年後は2034年6月15日(木)です。
「経過した日」ではなく「経過する日」なので、2034年6月15日(木)のままです。

期間の計算は難しい(再)

期間の計算は難しいのです。

過去に遡る方向での期間の計算はもっと難しい

民法にルールがない

今まで整理してきたルールは、将来の期間の計算に関するルールでした。「1週間後」や「1か月後」、「1年後」がいつなのかに関するルールです。

「はじめに」で記載した例のように、「1か月前」や「2週間前」のように、過去に遡る場合も頻繁にあるのですが、その場合はどのように計算すれば良いのでしょうか。

民法には規定がありません。
ちなみに、民法改正時に検討されていたらしいです、知りませんでした。。

中間的な論点整理第35,2[110頁(273頁)] 一定の時点から過去に遡る方向での期間の計算については,他の法令における期間の計算方法への影響に留意しつつ,新たな規定を設ける方向で,更に検討してはどうか。その際には,民法第142条に相当する規定を設けることの要否についても,結論の妥当性が確保されるかどうか等に留意しつつ,更に検討してはどうか。【部会資料14-2第1,2[2頁]

民法のルールを逆方向で適用する

計算の仕方については、民法のルール(上記)を逆方向で適用するという考え方があり、この考え方に従って整理していきます。

株主総会の招集通知の発信時期

会社法第299条第1項は、以下のように規定しています(一部省略)。

(株主総会の招集の通知)
第二百九十九条 株主総会を招集するには、取締役は、株主総会の日の二週間……前までに、株主に対してその通知を発しなければならない。

仮に、「株主総会の日」が2024年6月14日(金)である場合、いつまでに招集通知を発しなければならないのでしょうか。

起算日は、2024年6月14日(金)の前日である2024年6月13日(木)になります。初日不算入の原則です。

「その起算日」(2024年6月13日(木))に「応答する日」(2024年5月30日(木))の翌日である2024年5月31日(金)までに発信をしなければならないことになります。

ここで、「2024年5月31日(金)までに」の「までに」には、ふた通りの解釈があり得ます。つまり、2024年5月30日(木)の23:59までなのか、2024年5月31日(金)の23:59までなのかです。
一般的な感覚としては、後者、つまり2024年5月31日(金)の23:59までがしっくりくるかもしれないのですが、ここは前者です。
つまり、「2週間前」とは、丸2週間置くこと(中14日空けること)を意味しますし、株主総会実務もそのように運用されています(なお、古い判例ですが、大判S10.7.15民集14巻1401頁では、株主総会招集通知に関して、発送から会日まで丸2週間置く必要がある旨を判示しています。)。

したがって、「株主総会の日」が2024年6月14日(金)である場合、招集通知は、中14日空けた、2024年5月30日(木)中に発送しなければいけないことになります。

(補足)
株主総会の招集通知は、期間内に発信(「発し」)することが求められているため、発信時期を検討すれば良いのですが、何かしらの意思表示をする場合は、到達主義ですので、到達日がいつであるかを検討しなければいけません。つまり、「1か月前までの通知」という条件を満たすためには、1か月前までに通知が相手方に届かなければいけないので、仮に相手方が遠方にいるのであれば、到達までのリードタイムを勘案する必要があることになります。

期間満了の3か月前までの通知

契約の自動更新条項が設定されている場合において、自動更新させたくないのですが、どのような通知書を作れば良いですか?という質問がたまにあります。
もちろん、内容も大事ですが、見落とされているのが、通知書の到達時期なのです(※発信すればOKと勘違いされていることもあるのですが…)。

例えば、2024年8月31日(土)が有効期間満了日であり、自動更新したくない場合は、「その3か月前までに」通知をすることが義務付けられていると仮定します。

この場合はどのように考えればよいのでしょうか?

まず、第一案(初日不算入型)です。
2024年8月31日(土)の前日である2024年8月30日(金)が起算日となり、その「その起算日」(2024年8月30日(金))に「応答する日」(2024年5月30日(木))の翌日である2024年5月31日(金)までに到達しなければならないことになりますので、2024年5月30日(木)中に通知書が到達する必要があります。
中3か月確保されています。

次に、第二案(初日算入型)です。
契約更新させないことが目的ですので、2024年8月31日(土)24:00の時点で、契約終了させればよいわけです。
ここで、民法第140条のただし書きです。

第百四十条 日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。

第140条ただし書きを過去に遡る型に使うと、2024年8月31日(土)を算入できることになりますので、2024年8月31日(土)が起算日となり、その「その起算日」(2024年8月31日(土))に「応答する日」(2024年5月31日(金))の翌日である2024年6月1日(土)までに発信をしなければならないことになりますので、2024年5月31日(金)中に通知書が到達する必要があります。

第1案(初日不算入型)は、契約終了の効力発生時点が、2024年8月31日(土)24:00以外のどこかであることが前提で、第2案(初日算入型)は、上記のとおり、2024年8月31日(土)24:00で効力発生することを前提とするものです。
実態や素朴な感覚に合っているのは、第2案(初日算入型)です。
株主総会の招集通知との対比で言うと、株主総会は、会日の24:00に開催することはないので、第1案(初日不算入型)になるということと理解すれば、整理はできそうです。

実務的には、コンサバに、第2案(初日不算入型)を取りつつ、第1案(初日算入型)でも良いという心の余裕を持つイメージでしょうか。笑

おわりに

期間の計算は難しいのです。
※このnoteを書くに当たり、特に過去に遡る型の期間計算で、多方面の弁護士の方々にご意見いただき、大変勉強になりました。

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