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【ネタバレなし】雪組fffの予習メモ/考察 〜一度しか見られない友人へ〜

宝塚歌劇団雪組「fff-フォルティッシッシモ- 〜歓喜に歌え!〜/シルクロード〜盗賊と宝石〜」東京千秋楽まで残りあと2週間。

「ネタバレはしないでほしい、でも予習がしたい」

一度しかこの公演を観られない友人にそう言われてネットの海を漁ったものの、感想や考察記事は数多あれど宝塚にも歴史にも詳しくない友人に適したものが見つからず。

彼女に少しでも公演を楽しんでもらうために書いたメモがうっかり3000字超の大作になってしまったので、せっかくなので公開します。

宝塚初心者に向けて書いたので基礎的すぎる説明もありますし、ネタバレを避けるため断片的な情報の羅列になってしまっていますが、終わった後に読んでも思考の整理に役立つかもしれません。

大千秋楽に向けて毎日熱気あふれる舞台が繰り広げられている中、「今更かよ」ではありますが、参考になれば幸いです。

なお、なるべく調べながら書いていますが、もともと友人に宛てた文章のため情報に誤りがあったらすみません。

▼はじめに

今回の雪組はお芝居「fff(フォルティッシッシモ)」とショー「シルクロード〜盗賊と宝石〜」の二本立てです。
そして雪組で4年ほどトップを務めた望海風斗(のぞみ ふうと)さんと真彩希帆(まあや きほ)さんの退団公演でもあります。
お芝居fffは、ベートーヴェンとその時代を生きた人々についての歴史ミュージカルです。
もちろん望海さん真彩さんの歌声に酔いしれるだけでも十分楽しめますが、概念的なことが多かったり、時代背景を理解した方がより面白く観れると思うのでいくつか解説します。

宝塚歌劇公式HPの解説はこちら↓(人物相関図なども乗っています)
https://kageki.hankyu.co.jp/revue/2021/fortississimo/info.html

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン。
音楽史に革命を起こし、今や不滅となったその男の名前。しかし男の名は、あらゆる不運に彩られている。
失恋、孤独、失聴…。それでもなぜ彼は、至上の喜びを歌う「第九」を完成させることができたのか。
聴力を失い絶望する天才音楽家の前に姿を現した謎の女。女の不可解な存在にいらだちながらも、
いつしか彼女を人生の旅の友としてゆくルートヴィヒ。
やがて二人の不思議な関係が生み出した音楽とは──。
フランス革命後の混沌のヨーロッパで、ナポレオン、ゲーテ、そしてベートーヴェンが歩む覇道が交差する。
誰もが知る伝説の男たちについての、新しい物語…ミュージカル・シンフォニア!
(公式HPより)

▼主な登場人物


・ベートーヴェン:望海風斗(トップスター)
言わずとしれた天才音楽家ですが、歴史上初のフリーランスの作曲家とも言われています。
モーツァルトなどそれまでの作曲家は宮廷や貴族のサロンで召抱えられていましたが、ベートーヴェンはいろんな人から作品を受注して稼いでいました。
また当時宮廷に出入りしつつも革命を支持する自由主義者、人間主義者であり、平民コンプレックスがある一面も。
すぐ貴族の若い娘に惚れて、身分違いでフラれがち。

・ナポレオン:彩風咲奈(2番手/次期トップスター)
フランスから革命を起こしヨーロッパ全土、さらにはロシアまでを統一しようとする人。
自由主義を掲げていたはずなのに、自らフランス皇帝となったことでベートーヴェンから恨みを買っている。
軍服が死ぬほど似合う足の長い人です。

・ゲーテ:彩凪翔(3番手男役)
ドイツの詩人、小説家、政治家。
ベートーヴェンやナポレオンより年上で、二人ともゲーテのファン。
特に「若きウェルテルの悩み」は、ナポレオンは戦場にも持っていったし、ベートーヴェンは自分で曲をつけてゲーテに贈るほど。
様々な分野に造詣が深く豊かな教養を持ち、ナポレオンはゲーテと初めて対面した時、感動のあまり会うなり「ここに人あり!」と言ったというエピソードがある。

・謎の女:真彩希帆(トップ娘役)
ベートーヴェンだけに見える黒装束の謎の女。
劇中ではすぐピストルを手渡し彼を自殺させようとするが…?

▼主題

ベートーヴェンは耳が聞こえない不幸に見舞われながら、なぜ第九(歓喜の歌)を作ることができたのか?
ベートーヴェン(音楽の力)、ナポレオン(権力、暴力)、ゲーテ(知性の力)人間、そして時代を動かすことが出来るのは一体誰なのか?
ということをDon’t think!Feel!って感じでバシバシ伝えてくるミュージカルです。

fffの難しくて面白いところは、明確な起承転結があるようでないところにあると思います。ベートーヴェンが耳聞こえなくなる→それでも曲を作り続けて第九にたどり着く、というストーリーは芝居で観るまでもなく観客が知っている歴史の事実だからです。しかしタイトル「ミュージカル・シンフォニア」の名の通り、上記の主題や副旋律が織物のように幾重にも編み込まれて進んで行くことで、様々な解釈が出来る素敵な余白を生み出しています。

▼プロローグ

いきなり登場してくるのは、真っ白で可愛い天使ちゃんと、智天使ケルブ様(階級が上の天使)。
天国にやってきたモーツァルト、テレマン、ヘンデル(真っ白な音楽家3人組)を天国の入り口で足止めします。
なぜ3人が天国へ入れないのか?と尋ねると、天使たちの説明が始まります。
それまでの作曲家(バッハとか)は教会音楽で、神様のために曲を作っていた。
だがモーツァルト達は時代が進んで貴族のため、ひいてはお金のために曲をつくるようになった。
そんな低俗なことはとんでもない、だからまだ天国行きは「保留」なのだ、と。
天国行きかはたまた地獄行きかは、彼らの後を担う音楽家がどんな曲を作るのかを見届けてからまとめて判断する、と言い渡された3人組。
別に悪いことをした訳じゃないのにそんなことを言われても...てか俺たちの後輩って誰よ?…と考えていると、地響きが鳴って音楽が始まります。(ベートーヴェンの行く末を見守るため白い音楽家3人はその後ずっと舞台をうろちょろしています)(かわいい)


▼なぜ耳が聞こえなくなったのか

交響曲の中で大砲を使ったり、野外コンサートをしたりと前例のない音楽を作りまくっていたベートーヴェン。
この作品の中では、天国の智天使ケルブ様が地上の騒ぎを「うるさーーーーーい!」と怒り、ベートーヴェンの耳に天国の雲を突っ込んだので耳が聞こえなくなったという設定になっています(かわいい)


▼ベートーヴェンとナポレオン

ベートヴェンは、遠いフランスで階級を廃し共和国を作ろうとするナポレオンに強く共感します。
そして彼に捧げるために交響曲を書くも(交響曲第3番:英雄)ナポレオンが自ら皇帝になったため勝手に裏切られた気分になります。
嫌いだ地獄へ落ちろといいつつも、彼の革命思想には共感し、気になって仕方がないベートーヴェン。
だが当時オーストリアとフランスは敵同士。ナポレオンを支持するベートーヴェンは次第に宮廷から遠ざけられてゆくことになります。

▼ベートーヴェンとゲーテ、そしてウェルテル

ゲーテの書いた「若きウェルテルの悩み」は当時ヨーロッパ中で大ヒット。
青年ウェルテルが村の娘ロッテに恋するも、叶わない恋を儚んで自殺する話。
「自分の望む時に現世という苦しみの牢獄を去ることができる」
ヨーロッパではウェルテルに憧れた人の中で自殺が流行して社会問題にまでなりました。
またウェルテルのファッション(黄色いベストに青いジャケット)も大流行。
お芝居の中にも青いチョッキのウェルテルが登場しますが、自殺願望の象徴というようなイメージです。

ベートーヴェンはゲーテのファンで一方的に曲を送りつけていましたが、やっと対面できたボヘミアで「人間は平等であるべきなのに皇帝におじぎをした(権力に屈した)」という訳わからん理由で勝手にゲーテに幻滅します(実話)
そのボヘミアでゲーテから「あなたが歌うべきことを歌っていますか」と投げかけられたことが第九へと繋がっていくのかな?と私は解釈しています。

ちなみにゲーテを演じる彩凪さんも今回で退団するのですが、彩凪さんが昔初めて主演公演をした時の演目が「若きウェルテルの悩み」を
題材にした「春雷」。その時もゲーテとウェルテルを演じたので、ファンは配役発表されただけで泣きました。

▼小さな炎

ベートーヴェンにしか見えない謎の女と同じように、彼の周りに現れるのが黄色い服の小さな炎です。
生きる希望とかモチベーションやインスピレーションの象徴だと考えていいと思います。

▼4

4という数字も地味にキーワードです(音楽の基本も4拍子ですし)
ベートーヴェンといえば「交響曲第5番:運命」の有名すぎる4音のメロディ「タタタターン」。
実はタイトル「運命」というのは通称で正式な曲名ではないのですが、弟子に「この最初の4つの音は何を意味するのですか」と聞かれたベートーヴェンが「運命は、このように扉を叩く」と答えたというエピソードからそう呼ばれています。(諸説あり)
このお芝居の中でも、何かを「叩く」アクションは全部4回になっていて、気づくとニヤっとできます。笑

▼啓蒙思想

特にお芝居の中で出てくる訳ではないのですが、この時代の活動家の下地になっている考えです。
ベートーヴェン、ナポレオン、ゲーテも例外ではなく、貴族も平民もすべての人は理性的で、学び続けて豊かな人間になるべき、と思っていました。(超ざっくり)
ちなみに教養を意味するCultureはCultivate(=耕す)から来ており、劇中での「よく耕された精神」というセリフはこのCultivateから来ていると思われます。
あくまで個人的な解釈ですが、ベートーヴェンの中に啓蒙思想があったからこそ最後の交響曲である第九は、音楽だけでなく歌詞のついた合唱つきで作曲され、しかも誰でもわかるドイツ語で書かれていたのかな?と考えています。

▼第九「希望の歌」

第九の合唱はこの作品では「歓喜の歌」「歓びの歌」と言われていますが世間的には「希望の歌」とも呼ばれることがあります。
望海さんと真彩さんの退団公演でベートーヴェンがテーマになった理由の一つが「」海風斗と真彩「」帆で希望コンビとも言われていたことです。
また2人のお披露目公演でも第九を編曲し日本語詞をつけた「希望の歌」を歌っていました。
なので、この演目をやること自体が今の雪組を振り返る総集編のようになっています。作品としてだけでなく、メタ的にも楽しめる今作品、最後の大団円は毎回涙なしには観られません。

▼おわりに

ややこしいことを長々と書いてしまいましたが、何も考えなくても「すごい」作品です。でも、理解が深まれば深まるほどもっと「すごい」と感じるようになりました。読んでくださった方にも、思考の整理の一助になれば嬉しいです。
そして望海さん率いる雪組が無事に完走できますように!どっせい!

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