Otaku記事#10「吸いやすきもの、汝の名は羽反り!」
こんにちは!石川県山中にある木地屋、匠頭漆工です。
今回は以前のOtaku企画でご紹介した高台(Otaku”企画 vol.5▶)に引き続き、今回もお椀のある部分をご紹介。まさにお椀の「顔」でもあり「口」でもあり「性格」でもある、お椀にとって非常に大切な、そう『縁』のお話です。
お椀のフチは縁を運ぶふち
お椀を始め器の縁の正式名称は口縁[こうえん]。他にも 口造[くちづくり]や口辺[くりべり]とも言われます。ちなみに英語ではrim[リム]。皆さんも今まで色々な口縁と出会って来られたのではないでしょうか。
この縁という漢字、実はとっても良い意味で使われることが多い漢字。物事の起源や由来を表す縁起[えんぎ]、仏教においてお祭りを行う日を縁日[えんにち]、人と人との繋がりを縁[えん]。口縁と直接的な関係はないのですが、何だか“縁起”が良いですよね。
和食器だからこそ口縁は大事
テーブルに置いたままフォークやナイフを使うことが前提の洋食器とは異なり、直接手に持ち、直接口に運ぶ和食器にとってこの口縁は使い勝手や見た目も大きく左右する重要な部分。その厚みや高台へ向かうカーブの仕方、先端の反り具合などお椀によって多様な表情を見せてくれます。
それぞれの口縁には名前が付けられています。内側に向けて反らせたものを『寄せ口』、塩や味噌など調味料に使われた 塩笥[しおげ](*小さな壺のようなもので現在は日本酒の酒器などにも使われる)などに代表される一度内側にグッと窄まり先端が外側に開いている所謂壺口のものを『抱え口』と呼びます。
滑らかに美しく心地よく
今回皆さんに是非ともご紹介したいのは、その多種多様な口縁の中でも“可愛らしさ”と“使い心地”を兼ね備えた『羽反り[はぞり]』。端反りとも書かれます。写真を見て頂くとお分かりになるのですが、まさに口縁=フチの部分がチューリップの花のようにクッと外側に反っているもの全般を羽反りと呼びます。陶磁器よりも歴史が長い漆器。羽反りの形状はいつから存在したのかは定かにはなっておりませんが、歴史の漆器を見ていくと既に安土桃山時代に使用されていたとされるお椀には羽反りが!!!人間にとっての「使い心地」や「美しさ」は不朽のものなんですね。
この羽反りの形状は口元へそっと寄り添うように導かれたカーブから、汁物が口の中へスッと難なく入ってきます。羽反りで飲むのに特におすすめはお味噌汁などの熱い汁物。縁の薄さのおかげで口当たりが良く、汁がすーっと流れます。一気に口に入ることがないため「あちちっ!」となりにくいんです。
このほんの数度角度が外側に向くだけでこんなにも心地よさが増すのか!と最初に使った時は私も大感動しました。この感覚は本当に是非味わって頂きたい。百聞は一見に如かず、百読も一触に如かずとでもいいましょうか、是非とも実際にご体験頂けると嬉しいです。