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干支法話(2022 寅年)

昔むかし、あるところに、一人の王子がいました。

鷹狩りが趣味だった王子は、その日もたくさんの家来を連れて、鷹狩りを楽しみました。
十分に鷹狩りを楽しんだその帰り道、王子は森の中で一匹のキツネを見つけました。胸を張り、誇らしげに悠々と歩くそのキツネに、森の動物たちが深々と頭を下げ、キツネが通り過ぎるのを待っています。キツネの天敵であるオオカミや犬猿の仲であるタヌキまでも、キツネに深々と頭を下げているではありませんか。

これはいったい、どういうことだろう。

王子は不思議に思いましたが、キツネの後ろに一頭のトラがいることに気が付きました。
トラはキツネの背中を見つめながら、離れることなく、キツネのすぐ後ろを付いて歩いています。そのトラの眼差しには、キツネを慈しむような、それでいて哀れむような、悲しそうでもあり、嬉しそうでもあり、なんとも言えないあたたかさがありました。

ふーん、なるほど。このトラはキツネを守っているのだな。しかしキツネは、どうやらトラの気持ちに気付いていないらしい。それどころか、トラを従えたつもりでいるようだ。なんと愚かなキツネだろうか。
それにしても、不思議なトラがいるものだ。そんな愚かなキツネを守ってやるなんて、、、

王子はキツネを哀れに思いながらも、けれども少し、羨ましくも思いました。

森を抜け、お城のある街へ着くと、人々は立ち止まり、深々と王子に頭を下げ、王子が通り過ぎるのをじっと待っています。いつもと変わらぬ風景でしたが、王子はふっと何かに気付いたように後ろを振り向きました。
後ろには、阿弥陀さまが立っておられます。森の中で見たトラのような、慈愛と悲哀に満ちた、なんとも言えない眼差しで、阿弥陀さまはまっすぐに王子を見つめておられます。

振り返って前を見ると、深々とこうべを垂れる街の人々の、その一人一人の後ろにも、阿弥陀さまが立っておられます。

ああ、そうか、そうだったのか。
森の中で見たあのキツネは、私だったのだ。そして、全ての人もまたキツネなのだ。大きくあたたかな眼差しに包まれ、守られていたのだ。

そこからお城へ戻るまで、王子はすれ違う人たちその全てに、深々と頭を下げました。
王子の後ろの阿弥陀さまが、にっこり微笑んでおられたようにも見えました。




新年、明けましておめでとうございます。
本年もどうぞ、よろしくお願いいたします。

合掌

令和四年 元旦
ショーユー

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