湯煎温子という才能/――「凸凹シュガーデイズ・もう1回!」に寄せて
生きていると疲れる。
マスク越しの不自由な呼吸に慣れないことや、「閉店しました」というそっけない紙が貼られた飲食店のシャッターを見るたび、とみにそう思う。
水の中で息を止めていると、一分、二分と時間が経過するごとに少しずつ苦しくなることに、今の状況はとても似ている。
ずっしり重い単三電池がだんだん軽くなっていくのと同じで、疲労というのは肉体そのものを削り取る。だからこういうふうな、ささやかな摩耗が岩に穴を開けていくような疲労を感じている人は多いのではないかと思う。
そんなときはコレである。
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説明の必要はないのかもしれない。当社調べで銀河イチ熱いラブコメ作家こと湯煎温子先生の新作コミックである。
疲労時のエナジードリンクは根本解決にはならないし、生活習慣を変えないまま通い続けるマッサージなど一時しのぎしかならない。やはり疲れたときはストレートに脳汁を出す方が体にいい。
「必ず健康体になれる」「病気の細胞が消える」などというと薬事法の観点でブタ箱に住所を移す必要が出てくるので(ファンとしても、作者本人に迷惑がかかることは避けたい)直接的な言い方は控える。
だから、これは個人の一意見だ。
湯煎温子先生の漫画は体にいいのである。
もう一度言うが、これは一個人の意見だ。
湯煎温子先生の漫画はメチャクチャ体にいいのである。
別に私は「必ず病気が治る」とも「必ず健康体になれる」とも言っていない。
ただ一個人の意見として「体にいい」と言っているだけである。この言い方がダメなら入浴剤メーカーの営業マンもサプリメント剤の営業マンも私と一緒にまとめて地獄行きだと思う。
まあそれはさておき、外出自粛中でいい加減頭がおかしくなりそうなので、この「凸凹シュガーデイズ もう1回!」がめちゃくちゃ体に良かった、私が持病を抱えていれば恐らく持病も完治していたのではないか……という話をしていきたい。(※あくまで個人の感想です)
そもそもこの「凸凹シュガーデイズ もう1回!」という作品は、2018年に発行された湯煎温子先生のデビュー作「凸凹シュガーデイズ」の続編にあたる作品だ。
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1作目にあたる「凸凹シュガーデイズ」というのがまあまた最高で、「幼少期に出会った、女の子のようにかわいい受を一途に思い続けたまま高校生になる攻のとろあまハッピーBL」という王道のストーリーに「注※ それはそうとして女の子のようにかわいい受の身長は186センチまで伸びました」という爆弾を落としていくところから一話が始まる。
攻である超武闘派の硬派な柔道男子、松風雄二郎(165センチ)は、幼少期から思い続けている運命の相手・花峰涙(はなみね・るい)に対して素直になれない自分に悩み、「オレのこの感情は恋だ」と自覚しながらも、同性同士であるということや、異性同士で交際する周囲の空気もあって一歩踏み出せないでいる……というところから物語は動き出すのだが……
まぁ~~~~~~~~この2人がカワイイ!! 本当にカワイイ!!
なんというか、世に言う「ざまあ系」や「デスゲーム系」のグロテスクな広告ばかりが目に付く昨今のなかで、これほどまでに優しく、ピュアで、王道のラブコメを真っ正面からすさまじい技量で描かれると、本当に圧倒されてしまうと「凸凹シュガーデイズ」を読了した時は天を仰いだ。
そうして、紆余曲折のはてに結ばれた雄二郎(ゆうじろう)と涙(るい)の、いわゆる「ハッピーエンドのその後」を描いたのが、「凸凹シュガーデイズ もう1回!」になる。
今作でも、素直になれない部分がしぶとく残った雄二郎と、心優しいが気弱で押しの弱い涙はさまざまな問題に直面するのだが、その一つ一つを丁寧に、粘り強く和解に導いていくストーリーを追っていると、心の底から、不器用なふたりを応援したい気持ちにさせられる。
優しさというのは薬のようなもので、健康なときに摂取するのと、弱っている時に摂取するのとではまったく意味合いが違ってくる。
湯煎温子先生の作品には、その根底にいつも、泉のようなあたたかい慈愛が流れていると思う。
「凸凹シュガーデイズ もう1回!」でも、不器用で言葉足らずな雄二郎と、優しいが気弱で押しの弱い涙のすれ違いには本当にはらはらさせられたが、衝突の根元にはいつも、お互いを不器用に思い合うあたたかい慈愛があり、それはストーリーを追う読者のことも、ラストでそれぞれの歩む未来を肯定し合うふたりと同じように「大丈夫、きっとうまくいく」と安心させてくれる。
優しさというのは強さだ。強さというのは、人を傷つけもするし、だめにもするし、悲しませもするし、救いもする。
この世界は優しくない。弱いものは強いものに食い尽くされ、食い尽くされた弱いものは、自分より弱いものをさらに囓ろうとする。
なんだかいまいち国民のほうを向いている気がしない政治家のみなさんに振り回され、飲食業やイベント業界の人々が涙を呑むシーンを、この一年で何回見ただろう。
病院、物流、空港検疫……。
狂乱の最前線で必死に戦うひとびとが迫害され、家にも帰れずホテルで冷たい食事をつつく映像に、どれほどの人の胸が痛んだことだろう。
この世界は優しくない。
でも、それは、やさしく生きていくことを放棄していい理由にはならない。
湯煎温子先生の、どこか不器用で、損な性分をかかえながらも、ひたむきに誰かの幸せを祈る人々の物語は、こんな時代だからこそ色んな人に(言われずとももうメチャクチャ色んな人に読まれているヒット作ではあるが)触れてほしい作品だ。
大切なことは何度でも繰り返して主張すべきだ。
素直になれない松風雄二郎が、勇気を振り絞って花峰涙の手を取ったのと同じように、大事なことは何回繰り返したっていい。
湯煎温子先生の作品は体にいいのである!!!
いずれ病気にも効くようになるだろう!!!!
買ってないやつはこの週末に読め!!!!!!!
頼んだぞ!!!!!!!
(※あくまで個人の感想です)
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