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返信Wow!【ショートショート】

 一月ほど前のことだ。人類はついに地球外生命体とのコンタクトに成功した。異星人からと思われる電波信号を受信することに成功したのだ。

 実は,四十年以上前にも一度だけそれらしい信号を受信したことがあった。その時は,それ以降何の音沙汰もなく,受信はぬか喜びに終わっていた。やはり,この宇宙に存在する知的生命体は,我々人類だけなのか,そう考える科学者も多くいるなかで,ついに新たな信号を受信したのだった。

 使われていた周波数は,1420.406MHz。恒星間の通信に使われると予想される周波数そのものだった。そして,今回は途切れることなく電波信号は届き続けており,おかげで電波の発信源も特定された。地球から約五千光年の距離にある恒星系の第三惑星と分かったのだ。
 遙か五千年の旅をして,異星からのメッセージは届いていた。信号は,ある特定のパターンが何度も繰り返されていた。何を伝えようとしているのか,この一ヶ月というもの,人類は持てる科学力を総動員して,この信号に込められたメッセージの解読を試みていた。
 自分たちとは別の知的生命体からのメッセージを受け取ったのかも知れないのだ。人類の意識は,有史以来初めてと言ってもいいほどに,一つにまとまっていた。我々は,この宇宙の孤児ではなかったという確信が,そうさせているのかも知れなかった。
 人々は,恋人からの手紙を待ちわびている乙女のような落ち着かない心持ちで,解読成功の日を今か今かと待っていた。

 そうして,初めて信号を受け取ってから一ヶ月。ついに,メッセージは解読された。
 内容は,全世界に同時中継で発表されることとなり,解読プロジェクトのリーダーがメッセージの代読を行った。

「遙か五千光年彼方に存在する同胞よ。
気の遠くなるような距離を超えてメッセージを送 ってくれたことに感謝する。
我々は長い間,この宇宙に存在するかも知れな い,知的生命体の存在を求めて探索の努力を続 けていた。我々はこの宇宙に唯一の孤独な存在 なのか,どこかに我々同様仲間を求めて,探索の 努力を続けている知的生命体がいるのではない か,その思いだけで探し続けていたのだ。
そして,ついに努力は報われた。我々は孤独な存 在ではなかった。あなた方がそれを教えてくれた のだ。
五千光年という距離に隔てられ,直接会うことは 叶わないが,この宇宙に志を同じくする同胞がい ると分かっただけで,我々はこの宇宙に存在する 意義を感じることができている。時間と空間が我 々とあなた方をどれだけ隔てようと,この結ばれ た絆はこれからも絶えることなく続くと我々は確 信しているし,できればあなた方にもそう感じてほ しい。
最後に,あなた方に幸多からんことを祈る」

 感動的なメッセージだった。
 人類は,五千光年彼方に友人を得ることができたのだ。このメッセージに触れて,多くの人類は感激し,我々は一つにまとまらなければならないという世論が盛り上がった。事実,各地の国際紛争は目に見えて減ってきていた。また,異星の友人の感動的なメッセージに,我々も返事を送ろうという国際的なプロジェクトも立ち上がった。

 だが,多くの人類が感動している一方で,このメッセージの奇妙さに気がついている者もいた。
 こんな感じに。
「おかしいだろう。このメッセージが正しいとすると,これは返信ということになる。じゃあ,一万年以上前,最初にメッセージを発信したのは,一体誰だったんだ?」

 たいていの者は,些細なことと気にもとめていなかっようだが…。
 

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