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映画「3年目のデビュー」クライマックスにおけるカタルシスの正体

※ ネタバレありなので要注意です!

映画「3年目のデビュー」は予想に反して丁寧に構成された良作で、特にクライマックスに向けた魅せ方は印象に残りました。
その魅せ方とは、①メンバ増減による葛藤、②メンバ同士の支え合い、③日向坂が目指す姿、これら①~③のポイントを繰り返し見せながら、①~③を凝縮させた「青春の馬」(横浜アリーナ)をクライマックスにもってくることでカタルシスを演出する、というものでした。
以下、具体的に見ていきます。

①メンバ増減による葛藤

この映画の1つ目のポイントは、日向坂デビュー後のメンバ増減によるそれぞれの葛藤に焦点をあてていた、ということです。
それは、柿崎さん、井口さん、両名の卒業だけでなく、例えばドラマやモデル、取材の仕事で多忙を極めた小坂さんが体調不良で@JAM EXPO 2019に出られない時の葛藤であり、その小坂さんに代わりセンターに立つ丹生さん、河田さんの葛藤であり、唯一の3期生メンバとして追加された上村さんがさいたまスーパーアリーナで初めて全ての曲に参加することとなり必死に振り付けを覚えようとするも上手くいかない葛藤です。
彼女たちがもがき、涙しながら、なんとか乗り越えようと必死になる姿をこの映画ではこれでもかと映していました。

②支え合うメンバ

これらメンバの増減による葛藤や苦悩を、メンバ同士が支え合うことで乗り越える姿が2つ目のポイントです。
それは例えば、センターで孤独な小坂さんをセンターを経験した丹生さんが支えようとする姿であり、その小坂さんが振り付けを覚えられず苦悩する上村さんに寄り添いフォローする姿になります。
こうした姿を映すことで、メンバの口から繰り返される「メンバが好き」「メンバの絆」という言葉が空虚にならず、観客の心に説得力をもって響いていくことになります。

③日向坂として向かう道

「セルフ Documentary of 日向坂46」でも語られていたメンバが考える課題がこの映画でも語られています。
それは「日向坂46が目指す姿は何か」ということで、これが3つ目のポイントです。
この日向坂46が目指す姿をメンバが模索する様子を映した後、そのヒントが「青春の馬」を聞いた時に訪れます。つまり、この曲のように「聞いた人を応援できるようなグループになる」ということが彼女たちが目指す姿となります。
「青春の馬」を聞いたメンバが冗談のように同時多発的に涙を流しながら悟る姿はかなり印象的で、ここに至るまでに日頃からメンバがアンテナを立てていた様子を描写していたからこそ気づけたヒントであるという説得力がありました。

クライマックスにおけるカタルシス

これら①~③のポイントを集約し昇華させたものがこの映画のクライマックス、つまり横浜アリーナ「日向坂46×DASADA LIVE&FASHION SHOW」における「青春の馬」パフォーマンスでした。
すなわち、映画撮影の都合で急遽不在となった小坂さんの代わりに金村さんが葛藤しながらもセンターを務め(①)、休養から復帰した濱岸さんを佐々木美玲さんを中心としたメンバが支えながら(②)、これからの日向坂46の目標を象徴する「青春の馬」をパフォーマンス(③)するというものです。
それまで①~③の要素を積み上げた描写があったからこそ、この①~③が詰まったクライマックスがカタルシスとなり、より一層観客が感動することとなる、という構成になっていました。(金村さんを中心としたメンバ渾身のパフォーマンスももちろん大きいです)

その他

さて、この映画について、クライマックスに向けた構成を中心に解説しましたが、他にも以下のように気になる点はいくつかあります。
・最初の方がTV放送された「3年目のデビュー予告編」そのままで正直退屈でした。
・井口さんのスキャンダルで、メンバの(特にダークな)想いをもう少し聞きたかったです。これは作品のコンセプトから外れるため敢えて入れていないと思われます。
・途中突然挿入された東村さんと金村さんのプライベート(?)映像は意味が分からず蛇足に感じました。

ツッコミたいところはあるものの、日向坂46は2019年3月のデビュー以降大きな事件も無く順調に過ごしてきたこともあり、映画として成立させるのは苦労したと思います。
それをある程度の完成度でまとめた監督には素直に賛辞を送りたいと思います。

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