2014/06/03 TAICOCLUB'14
赤松と白樺に覆われた山間の国道を走っていると"キャンプ"が連想されるのは、幼少期の原体験が深く刻み込まれているからだろうか。湿った空気と腐葉土の匂いがそれを助長して、高揚する気分を更に囃し立てる。
帰りの渋滞さえなければ車の旅も良いんだけどなあ。
2年ぶり2度目のTAICOCLUBは、テントを持たず、決して大きくないバックパックひとつ分の荷物で臨んだ。誤算だったのは深夜の冷え込みで、"夜の帳が下りる"というより"朝の帳が上がる"とでも形容したくなる開放的な夜がやってくると、気温は瞬く間に落ちていき、到底ウインドブレーカーひとつで耐えられるようなものでなくなった。とにかく寒い。
そんな気候の話はさておいて、開場時間を少し回って会場に到着し、まずはRBMAの一郎さんの様子を見に。定番の2年前のTAICOCLUBの話――観客のひとりが「御免、見くびってた」と叫ぶ――から、いつもの音楽談義というか音楽思想論というか、サカナクションファンにとっての音楽説法的な有難い御言葉に耳を傾けるファンを傍観。
恐らく、いつも各種メディアで言っているようなことを言っているのだろう、などと思いながら、声のあまり届かないところから遠巻きに窺っていると、もうそろそろ終わりというところでエジ&モッチが後ろの方にやってきた。で、終了後にもっちさんと軽く雑談。相変わらず、何度相対しても「どうも、はじめまして」みたいな空気になる。
それからメインステージのフロアの隅の方に荷物置き場を確保し、キャンプ椅子に凭れながらMoodmannとLightning Boltを眺める。Lightning Boltは、敢えてステージではなくフロアにブースをセットしてパフォーマンス。異様に盛り上がっている。
PA前に移動してみるも、人だかりに埋もれ、その姿を見ることは叶わない。と思っていると、隣に先ほどまで説法を説いていた全身黒ずくめの音楽好きの兄ちゃんがふらりとやってきた。サウンドに乗って軽快に身体を揺らしている。
「おお! 来たの!?」
笑顔の上にサングラスの蝶番が輝く。TOM FORDだ。THOM BROWNEの眼鏡に加えてこんなものまで。「ブルジョワ集まれ!」の声のもとに集まった信者達の上納金が、彼をさらなるブルジョワに仕立て上げているというのは、なんだか宗教法人の構図のそれに重なる。
「なんか変な英語の手紙出したろ?」
投函した本人も忘れていた、ニューヨークから出そうとしたふざけた手紙のことを出し抜けに突っ込んできた。てか、手紙ちゃんと読んでるんですね。
「どう? 元気?」
モルディブの水上コテージとあたり一面熱帯魚だったという話をしたら案の定――
「マジか。釣りした?」
やっぱりそうなるよね。釣りはできなかったことと、むしろ最近の一郎さんの体調はどうか尋ねると、少し声のトーンが落ちた。
「うん、最近はね。でも、頑張るよ……てか、他のスタッフ達ステージから観てるじゃん。ちょっとオレも行ってくるわ」
――というようなやり取りを経て、凄まじい盛り上がりを見せたLightning Boltが終わった。さて、一郎さんが目的としていた次のBibioは、ライヴの感じよりも、部屋で音源を聴く方が個人的には好みのサウンドだった。あるいはバンドセットで観てみたい。当の一郎さんはというと、ひぐま君を連れて終始、PA横で楽しそうに踊っていた。
日も落ちて徐々に気温が下がり始めた頃合、着衣を全身1枚増やし、腹拵えをしつつ、高橋幸宏&METAFIVEを最後方から観賞。そして、そのままサカナクションへ。2年前はとりあえず手持ちの弾をありったけ撃ち込むようなセットリストだったけど、今回は紅白出場を筆頭に、一定の知名度を持って臨む余裕か、はたまたTAICOCLUBの雰囲気に合わせたのか、アレンジ主体のセットリストになっていた。
のっけからAme(B)のリミックスでレーザー全開――これでダンス、クラブ好きな観客の大半を掴んだように見えた――あとはSAKANATRIBEのツアーのセットリストをリミックス主体に再構成したような。もっと分かりやすいシングル曲を中心とした展開で来るのかと思いきや、意外とクラブ寄り。良いな。
2年前のTAICOCLUBで、最前列で観たときは、てっきりメインステージのフロア全体が踊り狂う人で埋まっていたと思っていたけど、今回最後方で観ていたら、後方の導線部分はさすがに興味のない人も散見されて(真澄の一升瓶を掲げて踊り狂っている外国人と、ファンと思しき店員の姉ちゃんが真澄の旗を掲げて踊っているのが見えた)、まあ、そりゃそんなもんだよな、と。
かくして盛況のうちにサカナクションが終わり、Pandabearの冒頭を一瞥してから別ステージのスチャダラパーへ。それもまた3曲くらい聴いてメインの方へ戻る。と、ちょうどバックステージへ戻る一郎さんとすれ違った。
「お疲れっした」
「疲れちゃった。声かけられ過ぎてもう外歩けない」
だいぶ草臥れた苦笑いを浮かべて去っていく一郎さんは、自称"芸能人じゃなくてただの音楽好きの兄ちゃん"ではあるが、それは結局、"有名人"であることに変わりはないわけで。心の底からの本音であろう言葉に、「ははは」と同情染みた笑いを返しながら手を振って応えた。体調不良に加えて余暇もままならないといった具合で、その後はフロアには戻って来なかった様子。Mount Kimbieも諦めたのかな。
その後、寒さに震えながら、翌日の運転のためになんとか眠ろうとするも――薄目にもっちさんがうろうろしているのが見えた――ついには根負けして食堂に逃げ込んだ。大学の大教室の授業中のように、大勢が机に突っ伏して眠っている。自分もそれにならって机に着いたら、気づいた時には日が上がっていた。おかげで夜中から朝方にかけての記憶はあまりない。肘と尻が痛い。
大分寒さが和らいでいたのでキャンプ椅子に移動して再度就寝。というわけで、Jon Hopkins、James Holden、Daniel Bell、The Black Dogはまともに観られなかったので割愛。深夜のアクトは悪夢のような爆音の印象ばかりが残っているが、振り返ってみると、その前あたりにやっていたMount Kimbieが1番ワクワクさせられたように思う。以前リキッドでワンマンを見たときにはそんなに良い印象は残らなかったのに、この夜はいやにカッコよかった。
朝方、Daniel Bellの終わりくらいで目が覚めると、徐々に気温が上がって今度は夏のように暑くなってきた。なんてヒトに優しくない気候なんだTAICOCLUB、というか長野県、いや薮原? 服を脱いで顔を洗いに行くと行列ができていて、順番を待つ間に、日差しに首筋をじりじりと焼かれた。
最後のアクトAkufenは、江島さん、草刈姉さん、岡崎さんも観に来ていた。終演後、それぞれと軽い雑談と江島さんに「先輩!」と呼ばれる茶番劇を経て帰路に就いた。面倒臭いことも色々あったけど、行く前に抱いていた「行きたくないな」という気持ちを払拭できる程度にはそれなりに楽しい1日を過ごせた。
――なんか書いている途中から思い出すのも面倒臭くて色々割愛してしまったが、細部を書き込む気力が湧かない程度に(サカナの)ライヴへのモチベーションが落ちている。今月は他にお高いライヴがあるのでCOLDPLAYも諦めた。最近は諦めが良くなったというか、物事に執着しなくなった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?