2014/01/20 サカナクション - SAKANAQUARIUM 2014 "SAKANATRIBE"

行きたかった初日に行けず、2日目はゲスの極み乙女。の初ワンマンとバッティング。Mステのライヴ観覧に行けていなかったらやきもきしていただろうが、それらもすべて終わり良ければすべて良し、ということで。個人的にはサカナクションを観てきた中で、過去最高のサカナクションを観た。

「今年のベストアクトはPhoenix」という思いは、長いこと彼らの来日を待ち望んで焦がれに焦がした恋情もあって変わりはしないが――今思い出しても『If I Ever Feel Better / Funkey Squaredance』のリミックスはエフェクトを通したThomasの声に叙情性が滲んで無類の一曲だった!――今日、川崎で観たサカナクションはそれに匹敵する好演で、ある瞬間においては上回っていたかもしれない……今年に限ってはPhoenixを贔屓したいのでそこは否定したいが。

会場に向かう空は仄暗く、空気はよく冷えて、外套の隙間から肌をつねってくるような。どこか新宿歌舞伎町に似た、薄汚い気配を孕む川崎の街並みは見た目にも冷たくて寒々しい。ライヴハウスに行くときは、あまり厚着ができず、かと言って軽装で出歩くには辛い時節なのでもどかしいが、幸い、番号が比較的早めだったので、フロアの中程で人混みに紛れて暖を取る。

ステージ背後のVJを見やると、モノクロの街並み(すなわち『モノクロトウキョー』の歌う背景を映したもの)と草花のカラー写真が入れ代わり立ち代わり投影され、人工物と自然物(=相反するもの)の対比を表していた。アンコールのMCで「0と100を表現したかった」と一郎さんが言っていたが、この「0と100」というのも言わば〝両極端〟であり、〝無〟と〝有〟であり、〝相反するもの〟である。

サカナクションの音楽と、その根底における表現の(僕にとっての)魅力は過去につらつらと記してきたが、1stアルバム『GO TO THE FUTURE』のアートワークから既にその要素が見て取れるように、彼らが「相反するものの融和」を謳うコンセプチュアルなバンドであること――山口一郎がそういう表現者であること――は未だに一貫して守られている。というか、これが変わってしまったら僕は観聴きしなくなるだろう。

さて、内容はと言うと、本編については期待値を上回るようなものはなかった。Twitterで騒がれていたほどの真新しさや圧倒的なアレンジもなく、途中のインストのセッションももう一工夫欲しいところで、『アイデンティティ』からの『ルーキー』の流れはもう流石に聴き飽きてるし、総じて悪くはないが、サカナクションに期待されるのに過分ないサウンドと演出が続いただけで、これだけだったら危うく「懐かしのあの曲が聴けて嬉しい」というだけの感想に帰結するところだった。(彼らへの期待値が高すぎると言うのもある)

ただ、『ネイティブダンサー』がセットリストから外れていたところには膝を打った。どの曲が各人に取り〝キラーチューン〟や〝最高の一曲〟であるかは意見の分かれるところだが、サカナクションのリスナーに取って『ネイティブダンサー』は須く〝名曲〟ではある筈。その鉄板あるいは屋台骨を外し、ライヴに望んだその意図は、待ち兼ねていたと言うか、以前どこかで言った「サカナクションはそろそろネイティブダンサーから卒業すべき」という酷く私的な見解が通じたようで、独り勝手に感嘆した。「定番を失って尚強い」、「定番を持たない」という彼らを今後見たいのだ。

さておき、「本編」という名の〝前座〟が終わっていよいよ「本命」のアンコール、一郎さんの言葉を借りれば〝アフターパーティ〟の時間。はっきり言って今回のアンコールは、これを観るためだけに安くはないチケット代を払ってライヴに臨んだと言っても過言ではないし、最早、本編観ないでアンコールから会場入りしても良いくらい。そのくらいの価値が十二分にあった。

前回ツアー時に「ガンダム」と称されていたセットが大幅にアップグレードされ、全面にLEDライトを設置、ついでにそのライトの色も多様なものになり、前回のセットが急にチンケなものに感じられるくらい凄いものになっていた。初代ガンダムから一気にストライクかフリーダムぐらいになっているんじゃないか?(適当) とにかく「チケット代の大半はこいつに注がれているんだな」と勝手に納得できる、このままヨーロッパに輸出したいくらいのカッコ良さ。

それから、このセットが良かったのがステージ前方に迫り出してきたときに、背後にそのまま置かれている楽器とセットが透けて見えて、空間に奥行きを感じられたところ。自分の立ち居地の影響もあったかもしれないが、新しいガンダム(笑)に搭乗したメンバーを見上げていると、まるでフロアの中央の高いところでプレイしているように見えて、クラブにいるような感覚が助長された――あの感覚のために何度も観たいと思える! しかもLEDのエフェクトがカラフルで格好良い。

そして肝心の楽曲。2曲目(?)の即興曲のような曲が、あの1曲だけを延々とループさせて欲しいくらいに完璧なクラブミュージックで、ここでサカナクションのライヴ過去最高値を記録。独り、とにかく盛り上がった。多分後ろに立っていた人からしたら「コイツ突然どうした?」というくらいに。あれは音源化されないのかなあ。今回のライヴ音源がダウンロード販売されたらあの1曲のためだけに即刻購入する。

セットの演出も相俟って文句なしに素晴らしい時間で、あの数分間は間違いなく過去最高のサカナクション。その後、次の曲になった瞬間、自分もサカナクションもいつものそれに戻ったけど、滅茶苦茶に楽しめた。久しぶりにライヴ観てて口角上がった。

と、今年はライヴ減らすって宣言したのに、2週間でもう5本……先が思いやられる。


#サカナクション

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