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妖狐異聞録『おかたんのしゃむしょ』第肆譚「ご先祖とともに怨霊も帰ってくる江戸時代のお盆」

あらすじ

埼玉県にある古い神社の娘、花子はある日、江戸時代に地下室にあらわれたという妖狐の化身、おかたんを封印からときはなってしまった。
“おかたんの封印解けるとき、埼玉県と近県に災い的な何かがもたらされる“
という言い伝えを聴いていた花子は、神主から授かった狐面の妖力によって、再びおかたんを面に封じることに成功し、おかたんは、花子のそばでしか具現化できない中途半端な存在になったのだった。

狐面は、花子が本気で恐れおののき、怖がれば壊れるという。
ついでに憑依体質となったクマのぬいぐるみとおかたんは、
はたして、感情の起伏があまりないクールな花子を怖がらせることができるのか。二人のオカルト談義が、今宵も始まる…。

おかたんのしゃむしょ

第肆譚「ご先祖とともに怨霊も帰ってくる江戸時代のお盆」

(ポリポリポリポリポリポリ)

何をポリポリと一心不乱に食うておる

キンキンに冷やしたキュウリだよ
お味噌とマヨネーズで味変してるの

そうじゃった、もうお盆じゃからの
余ったキュウリがあれば迎え盆に精霊馬をこさえるとよい
花子のご先祖がそれに乗って帰ってくるからの

あれ、"しょうりょううま”っていうの?知らなかった
他にナスもあるよね

I,カトリシ, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons

ウム、キュウリは迎え盆、つまりご先祖がこっちに帰ってくるときに早くくるために馬に見立てているのじゃ
対してナスは送り盆、あの世にゆるりと却ってもらうために牛に見立てておる

そういう意味があったんだね
お父さんが前に野菜でつくったガンダム精霊馬も飾っていたけどそれは?

ご先祖がいちばんうまくガンダム精霊馬に乗れ…しるか!
モビル野菜に乗ってやってくるご先祖は見たくないわ!

どちらかいうと、野菜スーツじゃない?

どうでもええわい!

ついでに仏壇に一膳飯、つまり山盛りした白飯に
お箸をつき立てたご飯も供えるとよい

・・・・・山盛りの・・・白いごはん・・

ちがうぞ!たぶんちがう!
花子が考えているものは一膳飯ではない、
それはセクシーコマンドーのほうじゃ
お箸を上にぶっさすほうじゃ

それ前にやったらお父さんにすごく怒られたの
ちょっとふりかけ取りにいく間だけだったのに

精霊馬をガンダムにするくせにそこはうるさいのか…
それはな、"逆さごと”という風習でな、この世とあの世は逆の世界じゃから、隔てるために橋渡し、つまり箸が橋の役目としてぶっさしておるのよ
じゃからまぁ普通の食卓でやると縁起が悪いもんになろうて

お供え用には
消費期限が危ないからって
災害時用のアルファ米使ってたけど

パパ上殿はなかなか常人には理解しがたいラインを持っておるの

精霊馬はなんでナスとキュウリじゃないといけないの?
色的な問題かしら?それとも、やっぱり野菜スーツにできないと
ダメなルールでもあるのかしら

お盆の風習はガンダムよりも古いことだけは言っておくぞ
別に決まりはない。昔は、夏野菜といえばナスとキュウリでな、
全国的に採れたから広まったと聞いておるぞ

そうなんだ!ならトマトとかレタス、アボカドでもいいんだね

現代は年中採れるものも増えたからの
でもそれらは割りばしをぶっさすとちょっと汁とか垂れてきそうなタイプじゃからの、ぼたぼたと何か垂れてる乗り物にご先祖も乗りたくないじゃろ
ゴーヤなんかどうじゃ

ゴーヤ…!ゴーヤはやめて…
ゴーヤに前足と後ろ脚をつけたら…あああああっ!!!やめてー!!!
ノーモーションで噛みにくるの…ゴーヤ…怖い、ゴーヤ硬い…

何かゴーヤに対して強烈なトラウマを抱えておるようじゃの
精霊馬はこのへんにして、ひとつお盆にぴったりな怪談でもしてやろうかの

ゴーヤで思い出す某モンスターで十分怖くなったけど
興味はあるわ


そうじゃろ?江戸時代にバズった怪談での「牡丹燈籠」という

あるとき、浪人の萩原新三郎という男がおった
新三郎は、ふとしたことから旗本飯島平左衛門の娘、お露と知り合うのじゃ
時待たずしてふたりは良い仲になってな、お露は夜ごと牡丹灯籠を下げて新三郎の元を訪れ、逢瀬を重ねるわけじゃ
若い二人のリビドーはとめられんからの

『ほたむとうろう』(月岡芳年『新形三十六怪撰』)
※パブリック・ドメイン

"牡丹灯籠”ってなに?
下げるものだからお盆とか?

テーブルから何かを下げたわけではない、手に持ってということじゃ
腰から下げるとかいうじゃろ令和キッズはこれじゃから…
灯篭とは、吊り提灯のようなものじゃ、今でいう懐中電灯じゃな
それに牡丹の絵柄が描かれていたということじゃ

柄のことね!
じゃぁトマトと玉ねぎとオリーブの柄だったらもしかしたら

だからといってポモ灯篭にはならん、続けるぞ!

しかして、そのお露の正体は怨霊だったのじゃ
怨霊に憑かれた新三郎は日ごとやつれてゆくばかりであった

あるとき、旅の修験者が新三郎の様子に気づいての、このままだと死んでしまうぞとお札を授けたのじゃ「家中の戸にこれを貼って期限の日まで籠もり、夜が明けるまで決して出てはなりませんぞ」と告げられた

新三郎は言われたとおりに閉じ籠もっていたが、お露は夜な夜なやってきては家の周りを回りながら、中に入れず恨めしげに呼びかけてくるんじゃ

「うらめしや~うらめしや~」

キャンプ場のテントとか、雪山の山小屋とか、
すごく聞いたことのあるパターンね

まぁ実際、牡丹灯篭もいろいろこの後のパターンがあるんじゃが、
バッドエンドしかない中でも最も恐ろしいのが、これじゃな

新三郎の家には、伴蔵という下働きをする部下のような男がおっての、こやつがまたがめつくて、お露にカネをもらって新三郎の家からお札を剥がしてしまうのじゃ

そして、お露は家に入れるのじゃが、翌朝、恐ろしいものをみた形相で亡くなっている新三郎と、傍らには首にかみついている女の髑髏が転がっておったのじゃ

出典:「円朝全集. 巻の二」三遊亭円朝 著(国立国会図書館ウェブサイト)

新三郎、もらい事故もいいところね
現代でいう、従業員から顧客データが流出する企業のようなものかしら

現代版はずいぶんと情緒が薄まったのぉ!

でもそれがお盆と何か関係あるの?
お盆の話のように聞こえなかったけど、野菜スーツも出てこないし

どっちであってもそれは出てこんぞ

もとより牡丹灯篭は、お盆の話といわれておる
盆には迎え火、送り火という文化もあってな、お露が下げておった牡丹灯篭がそもそもの迎え火の役目であって、新三郎の魂を連れて送り火とともにあの世に帰っていった、ということじゃ

あ、知ってる!五山の送り火っていうよね
山の中腹に「大」とか「妙」とか火であらわすのよね

ほお、良く知っておる、そのとおりじゃ
室町時代ぐらいからずっと続いているらしいが
このご時世、いつまで体裁を保てるやら

なにかトラブルがでたらたぶん、ドローンライトショーで
五山のOKURIBIみたいなイベントに変わるんだと思うわ

情緒がまったくなくなってしまうではないか
が、それはそれでちょっと見てみたくもある

グガ…我が子孫、花子よ

お、ちょうどいいタイミングで返ってきたご先祖がクマに憑依したようじゃ

お、ほんとだ先祖きた
もう精霊馬かたづけちゃって、
お父さんが供えたやつしかないと思ったのに

チャンスは最大限に生かす、それが私の主義だ

これなんか別のが憑依しておらんか
せっかくじゃ花子、なんぞ質問でもしてみろ

先祖はなんで死んだんですか?

・・・坊やだからさ

花子、パパ上殿が供えた精霊馬をちょっと見てこい
すごく嫌な予感がするぞ

赤茄子を使った野菜スーツだった
失敗作だっていってた

認めたくないものだな。若さゆえの過ちというものを

赤茄子だから専用になったっぽいの…
しかし花子、これはおそらくアレじゃなく
沼ったまま死んだどっか別の爺さんの霊じゃ

どうりでなんかキャラがくどいと思った!
さっさと出ていってもらおうか

全面的に賛成じゃ、このまま居座られてはいろんな意味で厄介じゃからの
こやつに効く呪文はこれじゃ

亞・婆尾・亞・苦ゥゥゥゥゥ!!!!

/プシュー\

ララァァァアァァァッ!!!!

なんかさっきからあんたには
通じているくさいのよね

/おもしろかったら「スキ」を押してね!\

※第壱譚は↑。ひとつ前は↓から。


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