相続と事業承継

 相続も事業承継も「後世へつなぐ」という意味では同じなのですが、立場や方法が変わります。また関連する業者も不思議なくらい全く変わるため取り得る対策も大きく変わります。

 特に相続は税理士、事業承継は公認会計士あたりが専門といえば専門なのですが、当該スキルがある人材が限られているばかりか、商品を売る利益相反セールスマンがうじゃうじゃいるのが現実です(積極的に提案されるほとんどはこの筋だったりしますので、電話やDMなどには要注意!)。

 具体的にいうと相続の場合は「相続税の節約になります」と様々な商品を提案されます。それは一括贈与だったり財産の貸し不動産化などがメジャーどころです。これらは一見目先の節税になるのは確かなのですが、その分「大きな責務」が課されます。国は決して「金持ち優遇」している訳ではありません(累進課税などは分かり易いですね)。昭和市場は(一社)相続事業承継研究所と深い連携をしていますので相続の仕組みはもちろん、業界慣習やトラブル事例など幅広く把握していますが、むしろ避けた方が良いケースというのが多分に存在します。特に昭和時代に一世風靡した「自分の土地に、借金してアパートを建てる」という手法は、今やリスクだらけでとても勧められたものではないのですが未だに提案業者は後を絶ちません。

 結局業者はその時点で利益は確定しますが、本人はずっとそのツケを払い続け、さらに末代まで負担を押し付けてしまっているのです。相続された側は、借金と抵当付きの土地、老朽化したアパートと住民流出、クレーム対応など「負の遺産」を全て負わされます。そしてこれらは自身が生きているうちには顕在化せず、10~20年後に発覚します。その頃には売るに売れない物件になっている場合もあり、まさに詰んだ状況になっている不動産が多くある事は絶対に理解しておいてもらいたいです。これらのツケを払わなければならない分、相続時の評価額軽減制度がある、という認識を持っておけばあとで後悔するリスクは下がります。提案業者はそんなことは言わずに「時価1億の不動産の評価額が5000万円まで下がり、税額が大幅に減ります!」という話をしてしまいます(もちろんこれは嘘では無いため、詐欺ではありません)。知らないと取り返しのつかないことになります。

 そして事業承継の方も今後の大問題です。関連業者も「ブローカー」とよばれる「転売業者」が跋扈しています。転売業者は「安く買って高く売る」という鉄則を守ってきますので、手放す側(経営者)の足元を見てきて安く買おうとします。場合によってはタダ同然で奪っていくケースさえあります。手放す側も「従業員を守ってくれるなら・・・」との思いで譲るものの、その後転売先の会社に切られる事例も多々起きています。知らないと取り返しのつかない事になります。

 大企業であれば十分専門家との連携で防御できるのですが、中小企業、特に個人事業主の場合、実は味方があまりいません。事業承継には高度な専門知識が必要になるため、簡単に公認会計士を雇うことができない事も原因ですが、公認会計士の中でも事業承継について熟知している人は多くありません。下手な専門家を高額報酬で雇っても逆に売り渡しの時期を早めるだけになる場合もあります。

 そして昭和市場が最も強調したいのは、これら個人事業主や中小企業の経営者は、「相続と事業承継」両方を同時に抱えている場合がほとんど、ということです。つまり両方意識した策を考えなければ「結局大損をする」ことになりかねません。具体的には事業承継で高く売る事ができたとしても、その財産はすべて相続に影響し累進課税の最高税率55%が待っています。また相続対策を意識しすぎるために、自社株の整理を早めた結果ガバナンスが死に事業自体が倒産してしまう、なども起きてしまいます。中小企業の場合は特に持ち株の評価や短期貸付金などの問題は実は深くて大きいのです。財産のうち持ち株評価額が占める割合が高い場合や、経営者個人が会社を維持するために「貸し付けている」お金はすべて経営者の財産です。つまり現金はもうほとんど残っていないのに相続税評価額だけは高額になり、その分高額な納税をしなければならなくなる、そんな機序です。

 このように、中小企業や個人事業主にとって、その経営者個人の観点から見ると「相続対策」はもちろん「事業承継対策」もまた合わせてトータルバランスを考える必要があります。専門家でもこれら両方の知識を持つ方は多くないため、顧問や業者の言いなりになって、結局トラブルになるケースが今後確実に増えてきます。

 これもひとつの「生前整理」ですし、特に頭が聡明なうちに、自らベース知識を持ちプランニングしていくことで防げるリスクが多くある、ということを知って頂ければと思います。もちろん昭和市場ではこれらも踏まえた生前整理のサポートを実施して参ります。

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