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生活しやすくて、生きづらい国。

インドへ行ってきた。10年前、留学の時に1年間住んで以来だ。この10年、インドの経済は成長し、人口は中国を抜き、目覚ましい発展を遂げているというニュースを見ることが多かったので、その変貌を目の当たりにすることを楽しみにしていた。

私がかつて留学していた都市ハイデラバードは、デリー、ムンバイ、バンガロールほど有名ではないが、インド国内のみならず、世界の都市の中でもトップと言われる成長率を誇る。インドの変化を見るには最適な再訪場所だ。

確かに、10年の変化は大きかった。当時、まだ何もなかった母校の周辺にはグローバル企業群のオフィスビルが立ち並び、IKEAや超大型ショッピングモールができ、街には渋滞する自動車の上を高架メトロが走り、道を歩いている牛の数はずいぶん減った。車窓から街中の風景を眺めていると、かつてのどこがどこだかわからないほどで、街の切れ目には建設中の巨大な建物が続く。勢いのある都市というのはこういうものか、と思わされずにはいられない。

しかし、むしろ重大な変化は、外見には現れないところにある。DXだ。道端にゴザを敷いて野菜や日用品を売っている青空マーケット、ゴザの上にあるQRコードで、支払いは電子決済。これが、リープフロッグ現象か。インドのキャッシュレス経済は、日本よりもはるかに先行していると言われる。

また、ライドシェアサービスの普及もすさまじい。タクシーだけでなく、オートリキシャも、さらには二輪バイクも、アプリで呼べる。乗車地点と行き先をスマホに入力すれば、数分で乗り物が目の前に到着する。現地の言葉が一切わからなくても目的地まで運んでいってくれるのは、とても便利だ。ライドシェアの便利さは、インドではまた特別な意味を持つ。ドライバーと顔を合わせる前に金額が合意されているので、料金交渉が不要になるのだ。これまで必須だった「300ルピーだ」「いやいや、これくらいの距離ならせいぜい100でしょ」「わかった。200でどうだ」「いやいや、それもまだ高い」「じゃぁ、150でファイナルどうだ」「・・・もう面倒だからそれでいいよ」という押し問答から解放される喜びは、インド旅行経験者ならわかってもらえるはずだ。

とはいえ、変わらない部分もたくさんある。特に田舎の方へ行くと、日本人が珍しいのか、インド人たちは「一緒に写真を撮ろう」と声をかけてくる。長距離バスの待合室では「一緒に食べよう」とお菓子を分けてくれたり、とにかく人懐っこい。保守的なインド人に言わせれば「最近の人はずいぶんmaterialistic(物質主義的)になってしまった」と嘆くのかもしれないけれど、日本から行くと感じさせられるインド人らしい愛嬌と信仰深さは、未だ健在だ。

滞在中、インドに家族で長年住み続けている日本人の友人と再会のお茶をする機会があったので、暮らし向きを尋ねてみた。

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