後悔をのこす
ダボス会議でマイクロソフトCEOのサティヤ・ナデラが「OpenAIのChatGPTが今後2〜3年ですっかり世界を変えてしまう」というような話をしていたと思ったら、帰国後、マイクロソフトがChatGPTに約1兆3000億円の追加投資を行うというニュース。彼の本気を感じた。
ChatGPTとは何か。
「ChatGPTは、OpenAIによってトレーニングされた大規模な言語モデルです。入力テキストに基づいて自然言語生成を行い、対話的な問題や情報の要求に応答することができます。」
上記の文章自体、ChatGPTに「ChatGPTとは何か。」と尋ねた結果、出力されたものだ。定型分を吐き出しているわけではなく、その都度、AIが考えて答えているので、尋ねるたびに答えは変わる。黎明期のインターネットのように、今はまだ「へー、面白いね。でも、実用にはまだもう少しかな(特に日本語では)」という段階だけれど、あっという間に追いつくだろう。
英語で使うと、すでにだいぶこなれたやりとりが可能となっている。
例えば、
「How can we become better ancestors?」
と尋ねると、かなり真っ当な答えが出てくる。それをGoogle翻訳が訳してもまた、真っ当だ。
こうしたAIの登場が社会に何をもたらすか。パターン化された(少し高度な)情報を操作するだけでもっともらしいアウトプットをするだけのホワイトカラーは、世の中から一掃されることになる。もともと、世の中の仕組みを少しややこしくすることでブルシットジョブを無理やり作り出して生きながらえてきたホワイトカラーを養えるほど、今の地球に余力はないから、そうした流れは歓迎したい。そう言っている自分の中にも、AIに一掃される部分が出てくるだろう。それならば、AIにできないことをやればいいのだし、それこそ、私も望むところだ。
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未来の住職塾の松崎香織さんが主宰している、uposatha(ウポーサタ)という「仏教の布薩の伝統に学び、習慣を整える」会がある。毎回いろんな素晴らしいご導師のお経と法話を聞けるのが楽しみで、今月は、真宗大谷派の速水馨さんがゲスト導師を務められた。速水さんのお話もまた、AIの話題から。最近、将棋を「見る」のが楽しみだという速水さんは、AIのおかげで将棋解説に「優勢度」が表示されるようになり、観戦者にも戦況がとてもわかりやすくなったという。
その上で、現在進行中の、羽生善治さんと藤井聡太さんの対局について、熱く話された。特に、羽生善治さんが、最近は勝率が3割程度まで下がっていたところに、復活をし始めているという話。AIの読みからしても、悪手とされる手を積極的に打って、対局者を揺さぶっていくのだという。そんな羽生善治さんが、あるインタビューで「豊かな人生とはどんな人生か」と問われた際に、「後悔の多い人生じゃないですかね」と答えたということを、紹介された。たくさん失敗して、たくさん後悔することがあった方が、豊かな人生だということなのだろう。
速水さんは、そこから、親鸞聖人の言葉を続けた。
「願わくは深く無常を念じて、いたずらに後悔を貽す(のこす)ことなかれ。」
この文言だけ見ると、あたかも、親鸞聖人と羽生善治さんはまったく真逆のことを言っているように見える。でも、この「貽す(のこす)」という言葉に注目してほしいのだという。これは、読み方は「のこす」だけれども、ニュアンスとして、「(後世に)送る」という意味もあるらしい。
なるほど、そうすると、この言葉の意味が一変する。
つまり、後世の人たちに後悔を先送りすることないよう、自分でチャレンジしてたくさん失敗していこうじゃないか、ということにも読める。羽生善治さんと、一緒だ。
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