人は常に面白いものを求める

率直に言えば、自分は日々の生活も仕事も含めて基本的に快適性や利便性、あるいはスピード性を求める傾向にある。つい最近までは自律神経をやってしまったので、作業がゆっくりになって随分時間を費やしてしまった生活を送っていたものの、基本的に時間は有限なのでできる限り無駄にしたくないという気持ちも強いし、できる限りほかのことにも時間を使いたいので…便利なほうがいいのは言うまでもない。

とはいえ、不便が生まれるから便利なものが生まれて「ビジネスになる」のは確かだと思う。でなければ、インターネットもスマートフォンも生まれなかっただろうから…かつてはFAXやポケベルもその1つであったのも確かだし、故にそれが「不便を解決するものでなくなる」と残念ながら、淘汰されてしまう現実も存在する。

あるいは、スポーツの世界においては不便を逆手に競技に昇華してしまう例もある。障害物競走などもそうだろうけど、モータースポーツにおいては「ピットストップ」も醍醐味だが、NASCARというアメリカ最大のレースシリーズ(トヨタも参戦、デイトナUSAのモデルになった)では、あえてハイテクな機器や装備に頼らない機器や設備の中での作業をいかに済ませるか、というのも見ものになっていたりする。通常レースカーとホイール(タイヤ)をつなぎとめるホイールナットの数は「1つ」にまとめられていて、これは時間短縮のために必要最低限で交換時の効率を考えたものになっているけど、NASCARではあえて市販車と同じ「5つ(6つかもしれない)」にこだわっていて、これも「不便」さをあえて残すことで競争を面白くしているのだという。

F1シリーズにおいても、一時期は電子アシストが多く活躍する時期もあったけど(現在はもっと増えていると思うが、ドライバーの肉体的負担は性能アップによって増大したとのこと…)ドライバーの腕の良しあしが分からないという意見が出てきたことから、一部を禁止にした時もあったけど…あれも「不便」を逆手にとって盛り上げようとする一例だと思う。ちなみに、「当時電子デバイスがあるからまともに走れてるんじゃないの」って嫌味な批判を受けていた「ロバート・クビサ」というポーランドの名ドライバーが、そうしたアシストなしでもメチャクチャ速いパフォーマンスを見せて、そういう批判を全部黙らせたってエピソードは本当に今振り返っても痛快なんだよね…。

で、どうして自分が「不便」だの色々書いているのかというと…↓の木村リョーさんの記事を拝読させて頂き、個人的に色々思い浮かぶことだったりがあったので…少し便乗させて頂いた形かな(笑)

個人的に…現代の若者にあるノスタルジーブームというのは、根本的に若い世代の方々が「自分たちが知らないもの」に触れてみたい、それが「面白い」という気持ちが強いのだと感じる。デジタル世代といわれる位様々なものに触れることができるし、何でも触れる環境にあるからこそ、より違う何かを求める貪欲さというのかな…デジタルでは体験できないものもそうだろうし、未来が見れるのなら過去にも行きたくなる感覚…。恐らくだけど、自分たちの世代以上に若い世代は色々なことに関心が強いのだろうと思うし、現に↓に映像を貼らせて頂くけど、近年Youtube界を賑わせるクリエイター集団「フィルムエスト」の皆さんのような、彼らが恐らくリアルタイムでは見たことのない「昭和世代のテレビ的文脈」も含めた「自分たちが知らない時間軸の文化」をサンプリングして、新しい形の映像コンテンツとアートを提示してくるような、非常に感受性豊かな若く優れた、デジタル世代から生まれるクリエイターは今後増えていくように思える…。

にしても、↑の映像には本当に何度も癒されたことか…単に昭和風に再現した映像なら、おそらくここまで爆発的な人気と熱狂的なファンが生まれなかったのではないかと思う位、動画の1つ1つが極めて味わい深く暖かい…。結局のところ、コンテンツや創作物というものは、強いこだわりと深い愛情と敬意が感じられるものこそが愛されるのだろうし、自分もそういうものを愛すると同時に、そういうものを提供してくれるクリエイターを深く敬愛していることも間違いない。

他、↑の記事で触れられていることについても幾つか…インスタントカメラも含めたフィルムカメラがまた流行し始めたというのも、恐らく「違った遊び方」を求めて、どちらかといえば懐かしさというよりは「新しさと面白さ」を求める形で流行しているのだと感じる。フィルムに撮って現像したものが「高解像度」で非常に優れた画像を提供するスマホやデジカメとは違う、新しい表現物を提供する要素として純粋に面白かったり、現像することでやっと形になると同時にデータ化されずに、バックアップもできない(スキャナでできなくはないが…)オリジナルの1枚ということで、持ち手に「緊張感」を与える側面もあるのだと思う。あるいは、「エモい」というような文脈に乗せれば若い衆が買ってくれるぞ、的な企業側のや広告系の戦略も見え隠れするといえばそうだけど…(笑)

同じような例としては、音楽アーティストがあえてカセットテープに自分の音源を入れて販売するということも流行しているらしいし、嗜好品傾向の強い日本では未だにレコードは勿論、CDですら流通しているのだから…不思議な現象に思えるよね。最も、CDについてはサブスク以上に音質の面では高いということも再評価されている側面があるのだろうね…。

銭湯については…なんだろう、一時期銭湯って本当に老朽化や利用者の減少でむしろピンチになってたけど、案外一人暮らしの若年層の利用が増えたってのも聞いたことがあるから…生活面でリアルに使ってる感が結果、銭湯文化を支えているような印象なんだよね。ちなみに自分も銭湯や日帰り温泉施設は好きだから、この一種ブームのような流れで存続する施設が増えてくれれば、それは非常にありがたいことなのだけれど…。

西武園ゆうえんちのリニューアルにしても、ノスタルジーブーム(昔は良かった、という浄化された記憶からの…)というよりは、競合他社にないアイデア故にシンプルに考えてたどり着いた結果だと思う。古き良きアメリカと自社キャラクターの圧倒的世界観で構成されるディズニーランド、アニメーションやゲームの世界も飲み込み今一番勢いのあるUSJ…それらに対する差別化としての「1960年」という設定は、確かに合理的であるといえるし理想なのかもしれない。特に高度経済成長期に観光事業で一世を風靡した西武鉄道故の強み…を改めて現代の若年層に向けて再構築するというのかな…。個人的には、エンターテインメントを純粋に意識する形でのレトロやノスタルジーは非常に面白いと思うから、完成が楽しみではある。

そうしたレトロをテーマにした遊園地といえば、池袋のサンシャインシティにある「ナンジャタウン」はそれを先んじる形で開業し、お子さんも遊べるコンセプトにすることで、高齢層が孫と連れて遊べるような幅広い年齢層の楽しめるテーマパークとして、当時…個人的には今もだと思うけど、大成功を収めているのではないかなと。にしても、西武の観光戦略は積極的で凄いね。西武秩父駅の温泉施設にしてもそうだけど、一度経営危機を迎えているだけにむしろ積極的に設備投資を行っているようにも思える…なんでもそうだけど、保守的になると物事は悪い方向に行くことも多いから、積極性は維持の面でも大事なんだなって思うよね…。

余談ですが、映画ALWAYSシリーズをご覧になられて「戦後の日本は貧しくも幸せだった」という印象を抱かれた方は、ぜひ北野武監督の「監督ばんざい!」の昭和ノスタルジーに対する痛快なアンサーが描かれているパートと、「仁義なき戦い」シリーズも含めた昭和の実録系任侠映画などをぜひご覧頂きたい。どちらもフィクションではあるけど、戦後の日本の混乱期をベースに描いているが故に、まるで印象ががらりと変わるはず…。あの作品はあくまで「昭和を再現したテーマパーク的バーチャル世界で起きる物語」だと思うので、それを単に楽しむのなら最適だと思うんだけど…。



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