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シルビア・ペレス・クルスと申し訳ありませんと決壊した涙腺と

ブルーノート東京にシルビア・ペレス・クルス&マルコ・メスキーダの公演を観に行って、軽く2回は涙腺が決壊した。実のところ、マルコさんはおろか、シルビアさんに関しても前情報はほとんど無し。唯一みかけた、YouTubeの映像だけをたよりにとりあえず行ってみたのだ。

彼女は女優なだけあって(これも後から知った)、選曲と立ち回りの妙で飽きさせず、見る者の感情の起伏をうまく操っていたように思う。操った、なんていうと語弊がある。彼女自身はそんなことはちっとも思わずに、自然とそうしていたのだ、きっと。

それにしても、たった1時間ちょっとの公演時間だったのに、その何倍もの時間が経過したような気がする。まるで竜宮城の逆。時間どろぼうの逆。一瞬一瞬に、多幸感がつめられていたかのように。やっぱり、彼女は魔法を使ったのだ、きっと。

1回目に涙腺が崩壊したのは「Oración del remanso」(瀞場の祈り)という歌のとき。10年以上前にアルゼンチンの哲学者で歌い手のリリアナ・エレーロさんの名作、『風の告白』に収録されていた歌。うっすらと忘れかけていた記憶が、メロディが鍵になって、ぶわっと解放された心持ちになった。

2回目に涙腺が崩壊したのは、この歌のとき。レディオヘッド『OK コンピューター』から。

映画「モーターサイクル・ダイアリーズ」の挿入歌、「川を渡って木立の中へ」で、ウルグアイ人として初めてアカデミー賞を受賞したホルヘ・ドレクスレル氏。彼もレディオヘッドの「ハイ・アンド・ドライ」をカバーしていた。レディオヘッドは、昔のビートルズのように、最大公約数の歌として親しまれているのかな。

とまれ、この「No Suprises」。シルビアさんが歌っている歌詞の部分に注目したい。元の詞の一番部分を飛ばしているのだ。知ってか知らずか。

一番はこう。というか、元の詞の悲壮な部分は歌わない。

これがぼくの最後の発作
これがぼくの最後の痛み

彼女が英語詞をはっきり歌う部分はここだけ。

なんて綺麗な家だろう
なんて美しい庭だろう
不安もなく、驚かせるようなこともなく
不安もなく、驚きもない

まるで全体的に辛いムードだった「No Surprises」という歌を本歌取りして、幸せな結末を呼び込んだような。

オリジナルをもう一度見てみる。すると、少しだけ幸せな気になってくるから不思議だ。

最後に。この日本公演のためにシルビア・ペレス・クルス&マルコ・メスキーダで歌を作ってくれた。その歌は、朗々としたいい声で、シルビアさんが「申し訳ありません…」という歌。なんじゃそれは?と思われた方は、ぜひぜひ見に行くと、終始幸せな気分になれることうけあい。

ヒントは、この動画にある。


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