私にとって将棋のnoteを書くとは何か

 先日、将棋の終盤力に関する記事を書いた。ガスボンベさんに反論していただいたこともあり、少し話題になってうれしかったものである。ただ、この記事をはじめとして私の将棋に関するnoteの記事がどのような性格を持っているのかについてを明らかにしておくべきな様な気がした。なぜこのようなぼんやりした書き方になっているのかは本稿を閉じる頃には明らかになるだろう。現時点では、書くべきだという結論しかない。

 まず取り上げたいのはにっしーさんによる以下のツイートである。

 お褒めいただき非常にありがたいが、実際のところこれは順序が逆である。これは、私が展開した論理を適切に伝えるために後から考えたメタファーではない。私はまず最初にこのメタファーを思いついていて、そのあとにこのメタファーが成立するように論理を構成し始めたのである。にっしーさんがせっせと敷いたレールをゆーげんさんが爆破して裸足で走ってゴールしたら面白いではないか。まず最初に面白いレトリックを思いついてから、そのレトリックの面白さをしっかりと伝えきれるように論理を後付けしているのである。

 もちろん、論理の部分も全く0から生み出しているものでは無い。なんとなくは元から考えていたことではある。ただ、ちゃんと綺麗にまとまっていたわけではない。なんとなくのアイデアを綺麗な形に文章化するというこのプロセスこそが、文章を書くという行為の本質だと言っても良いであろう。そしてこのプロセスが起動するきっかけは内容の精緻化というよりは良いレトリックが降ってくるかどうかに掛かっているのである。畢竟、理論的精緻化のプロセス自体もそのレトリックに向かって走り出すことになる。前回の記事のみならず、私がnoteで書いた将棋に関する記事(マガジン「将棋の思想」に収録されている記事)のほぼ全ては、このような過程を経て書かれたものである。私が書く将棋記事は、大抵「これはただの思い付きである」だの「私自身本気で言っているわけではない」のような注釈が付いているが、それはこのような理由に依っているのである。

 このような私の立場に対して、非理論的だとか非科学的だとかそういう批判はあり得よう。だが、それは当たらない。というのも、私にとって将棋に関して考えるということは極めて内省的な行為だからである。重要なのは、私にとって将棋とは何か、将棋にとって私とは何かということなのである。おそらく、以前ガスボンベさんが私の「棋理」という言葉の使い方に違和感を覚えていたのもここに由来するものであろう。私にとって、客観的にあるいは超越的に存在するものとしての棋理はどうでも良い。重要なのは、そのような棋理と私がどのような関係にあるかである。すなわちそれはどこまで言っても主観的な営為なのである。

 したがって、先ほど私が「思いつき」と評したものは、直観的な閃きあるいは天啓というべきだろう。問題の所在が私と将棋の関係にある以上、私がそこでつかみ取ったものは重要である。私がこれは面白いと、これを軸にして一本書けると思えたということは、それは即ち私にとって将棋とは何か、将棋にとって私とは何かという問題に関して重要な示唆を含んでいるであろうと考えられるからである。面白いレトリックを思いついたならば、きっとそこに何か答えに近づくヒントがあるはずだ。この確信が私の筆を導く。

 私が何かしら考察めいた記事を書くとき、それは論理を一つずつ積み上げていくような作業ではない。それは結論かもしれないし、中盤の見せ場のような比喩表現かもしれないが、とにかく明確なゴールが先行して存在するものである。そこに向かって筋が通りそうな論理を構成する、というよりも発見する作業が文章化なのだ。いわば、結論ありきの文章なのである。したがって、私が毎回自らの文章に自信が無いのは理由の無いことではない。私が最も確信している部分、例えば前回の記事でいうにっしーさんに褒めて頂いたメタファーなどに関しては、そこは確かに自信がある。だが、そこに至る道筋に関してはほとんど自信がない。ゴールが正しいのは確信しているがそこに至る道は暗中模索といった感じなのである。きっとこれが正しいルートなのだろうと、そう信じながら。

 私にとって将棋のnoteを書くとは何か。それは、頭の中で十分に構成された論理を外部に出力するというものではない。書くことによってはじめて、私自身が何を考えているのかを発見することができるというプロセスなのである。結論は分かっている。しかしそこに至る道筋は分からない。何が正しい道筋なのかを考え抜き、きっとこういう理由でこの答えは正しいのだろうと納得出来たらそれは記事になる。その時間こそが、私が将棋に、自分自身に、向き合う時間なのである。私にとって、将棋のnoteを書くという行為はそのようなものとしてある。

 


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