連載/デザインの根っこVol.13_吉田 昌弘
建築家やインテリアデザイナーにインタビューを行い、衝撃を受けた作品などのインプットについて語っていただく連載「デザインの根っこ 」。今回は「商店建築」2019年6月号掲載、吉田昌弘さんの回を公開します。
どんな形でも良い。
記憶に残る空間をつくる
衝撃を受けたものが何かと考えると、より「記憶に残っているもの」がそうだと思います。良いから記憶に残っているのではなく、記憶に残っているから良いという考えです。私はデザインをする際、「記憶に残る場所」をつくりたいと意識しています。そしてそのためには、どんな形だって良いと考えています。振り返ると、私には強く記憶に残っているものが二つありました。
まず一つ目は、大阪にある「PLの塔(正式名称:大平和祈念塔)」です。PL学園で有名なパーフェクト リバティー教団が建てた塔で、子どもが粘土でつくったものがそのまま大きくなったような形をしています。近くでは、夏にPL花火という大きな花火大会があり、幼い頃から毎年家族で見に行っていました。その時の思い出とPLの塔がある風景はセットになっています。気付いたらそこにあったような感覚です。なので、当時は特別なものだと思っていなかったのですが、大学で建築を学び始めてから、ある種異様な、すごいものだと気付きました。大人になってからも家族で毎年花火を見に行くのですが、今見ても強烈です。この塔からは、通常なら建築にあるはずの理論や条件を感じず、自由さを感じます。これが許されるなら何でも許されるだろうとも思っています(笑)
光をコントロールしただけの空間
もう一つ、強い印象を受けたのが、ベルリン・ユダヤ博物館の中にある「ホロコースト・タワー」という部屋です。建築家ダニエル・リベスキンドが設計した施設で、大学2年生の頃、バックパックを背負ってヨーロッパを巡っていた時に訪れました。建築そのものがユダヤ人の過去を表現した施設で、ホロコースト・タワーは天井が高い空間の、上部に空いた小さな開口からのみ光が差し込む空間です。施設ではツアー客のおばちゃん達がガヤガヤと喋っていたのですが、この部屋に入りドアが閉まった途端、皆が喋るのを止めました。真っ暗な部屋で、急に静かになった時、全身に鳥肌が立ちました。デザインというより、光をコントロールしているだけの空間に「これも建築なのか」と衝撃を受けたのです。同時に、「建築家になろう」と強く決意した瞬間でした。ホロコースト・タワー以外の部分は、正直「写真で見た通りだな」という印象だったのですが、この部屋では視覚だけではない、身を置かないと分からない強烈な体験がありました。
写真には写らない空間の質
デザイナーの中には、「この場所から奥を見て」というように、映画のような、見どころを設定するつくり方をする人もいると思います。私はそうではなく、どこから見ても、空間として美しいものをつくりたいと考えています。つまり、写真で見るよりも、そこに行った方が綺麗だと感じる空間です。細かい部分に手の温もりを感じる仕上げを施したり、遊び心を加えることで、写真には写りきらない懐かしさや温かさを感じてもらいたいのです。そのために、建築を考える時も中にいる人ありきで、手の届く範囲から考え始めて、そこから拡大していくようにデザインしています。小さな印象を重ね、訪れた人の「記憶に残るデザイン」を目指しているのです。PLタワーの独特の形や、ホロコースト・タワーの光をコントロールしただけの空間は、ある意味対照的で、どちらも私の中で強烈に記憶に残っています。直接的にはデザインの参考にはなりませんが、根底の部分で大きな影響を受けています。 〈談/文責編集部〉
よしだ・まさひろ/1977年生まれ。2001年、京都工芸繊維大学卒業後、タカラスペースデザインに入社。07年にKAMITOPENを設立。最近の仕事に「北前そば 高田屋 池袋西口店」(19年2月号)や「甘味茶屋 七葉 沖縄デパートリウボウ店」(18年11月号)など。
※内容は商店建築2019年6月号発売当時のものです。
紹介作品一覧
1.大平和祈念塔
2.ホロコースト・タワー
(2点画像提供/吉田昌弘氏)
※掲載号の「商店建築」2019年6月号紙版は品切れです。
購入の際はZINIO、Fujisan他、電子書籍販売サイトをご利用く
ださい。
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