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連載/デザインの根っこvol.04_松本直也

 建築家やインテリアデザイナーにインタビューを行い、衝撃を受けた作品などのインプットについて語っていただく連載「デザインの根っこ 」。今回は「商店建築」2018年9月号掲載、松本直也さんの回を公開します。


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理屈だけではない明快な意思が共感を生む

 大学生の時に知った、デザイナー倉俣史朗さんに大きな影響を受けました。倉俣さんの考え方に触れるまで、私はデザインを「意味があるもの」や「説明で理解できるもの」だと捉えていました。そう考えていたからこそ、倉俣さんのような人がいたこと自体が私にとって衝撃的でした。夢の世界や個人的な記憶といった、「説明できないもの」を掘り下げ、アウトプットするつくり方を知り、ものの見方が大きく変わったのです。

 それまでの私にとって、イスは座るもので、テーブルは何かを置くものだと捉えることが当然でした。ところが倉俣さんそうではない世界観で考えていた。イスという形を借りて、デザインという言葉に置き換えて表現するという行為そのものに驚き、興味を引かれたことを覚えています。極端に言えば、イスは座ることができれば良い。倉俣さんのデザインは、座るという機能よりも大事なものを、大きく表現することで世界観をつくり上げている。私の中でデザインの枠が広がりました。

 また、倉俣さんのつくるものは、「何をやりたいか」が非常に明快です。それゆえに、そこに至るまでに深い思考があるということ、そして思考そのものを伝えることができるという点に感銘を受けたのです。

 私がデザインに取り組む際に意識しているのは、「共感できる」ということ。誰にでも愛されるものをつくるのは非常に難しい。特に商業デザインの場合、それぞれ立地条件やターゲット、業態などが異なり、ハードルは更に上がるのですが、やりたいことが明快であれば、共感してくれる人は増えると考えています。その意味で、複雑な思考を明快な形にアウトプットする倉俣さんには、大きな影響を受けています。

『ミス・ブランチ』倉俣史朗(1988)

異なる文化の中で知った、受け入れることの重要さ

 もう一つは、野井成正デザイン事務所在籍時の経験で、バリ島に「シロ スシ アンド サケ バー」(13年5月号)を設計した時の出来事です。依頼主は外国の方で、20坪の敷地にすし店をつくってほしいというものでした。私にとって海外での仕事は初めてで、実務を通して何度も衝撃を受けました。プロジェクトが進み、敷地を見に行くと、すぐ隣に大工達が家を建てていた。使用する予定だった資材を盗んでつくったもので、約30人の大工が住んでいました。聞くと、職人たちは皆移民で、プロジェクトの度にこうしているという。それを皮切りに、躯体が建ち上がった時には現場の電気やガスを使ってカレーをつくったり、テレビを見たり、フロントで寝ていたりする。溶接作業は半裸で行っている。根性があるなと感じると同時に、自分とは近いようで遠い存在だなと痛感しました。オーナーに「怒らないんですか」と尋ねると、「怒っても何も生まれないよ」という答えが返ってきました。怒るぐらいなら進めた方が良い、と。たしかに、怒らないことで物事はスムーズに進むと感じました。

 その他にも、現地に滞在するうちに驚いたことは多くあります。砂浜に魚を並べて市場をつくっていたり、職人達の日当がローカルのスターバックスのコーヒー1杯と同じ金額だったりと、目の当たりにした多くのことに、自分の価値観を何度もひっくり返されました。またその時私は27歳と若く、舐められたくない、という思いがありました。「怒っても何も生まれない」と言われてから意識するようになったのは、相手の話を聞くこと。対立は何も生まない。デザインへの取り組み方も生き方も、大きく変わった出来事でした。〈談/文責編集部〉

デザインの根っこ松本直也さん

バリ島の海岸に並ぶ市場(画像提供/松本直也)


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まつもと・なおや/1982年大阪生まれ。成安造形大学卒業後、設計施工会社や野井成正デザイン事務所を経て2013年松本直也デザイン設立。最近の仕事に「満照山 眞敬寺 蔵前陵苑」(18年5月号)や「ARUBEKKI HAIR」(18年1月号)など
※内容は商店建築2018年9月号発行当時のものです。

紹介作品一覧

1.『ミス・ブランチ』
倉俣史朗(1988)
2.バリ島の海岸に並ぶ市場
(画像提供/松本直也)

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