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連載/デザインの根っこVol.17_藤井 文彦

 建築家やインテリアデザイナーにインタビューを行い、衝撃を受けた作品などのインプットについて語っていただく連載「デザインの根っこ 」。今回は「商店建築」2019年10月号掲載、藤井文彦さんの回を公開します。

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感覚を重視して
空間をデザインする

 僕は設計をする際、「感覚」を大事にしています。居心地が良いとか、わいわい賑やかとか、ドキドキするとか、訪れた人にどう感じてもらいたいか、ということです。感覚から考え始めて、具体的な形にする時に理論的なアプローチを取ることはありますが、理論が前面に出ないように注意しています。例えば、隠れ家のような、奥まった居心地の良い空間をつくりたいと考えたとします。その時に洞窟や森などをコンセプトにつくったとしても、いわゆる洞窟のようなお店、森のようなお店にしたいわけではありません。それらはあくまでも居心地の良い空間をつくるための手法で、形が前に出過ぎると、「こう感じてもらいたい」と最初に考えたことが伝わらなくなってしまいます。感覚を大事にするということは、自分がインプットする時も同様です。僕が心を動かされる時というのは、理屈ではなく、分析しきれないような、直感的な良さを感じた時です。そしてその感動に理屈を与えるのではなく、感覚のまま持っておくのです。

理論や造形から感覚へ

 そう考えるようになったのは仕事として空間デザインを手掛けるようになってからで、今思えば建築を勉強していた学生時代はむしろ、理論や造形的なアプローチを意識していました。卒業論文のテーマはオランダの、デ・スティルの作家リートフェルトの研究です。彼のインテリア的なアプローチというか、線と面や色使いの構成が居住性を併せ持つようなつくり方は魅力的に映りました。

 彼の、造形から感覚をつくる手法、また当時その点に魅力を感じていた自分と、今僕が意識している、感覚から形を導くアプローチは正反対です。納まりを考える時に、リートフェルトの造形や考えが役立つことはあっても、それはあくまで引き出しの一つだと考えています。自分がつくった空間が実際に使われることを考えると、自ずと感覚を重視するようになりました。今の自分のデザインを、学生の時の自分に「かっこいい」と言ってもらいたいわけではなく、訪れた人に「良いお店」だと言ってもらいたいのです。

心を動かされる瞬間

 例えば、僕は今の季節だと花火が好きで、休みができるとどこかで花火大会がやっていないかを調べて、時間が合えば見に行ったりします。花火大会の雰囲気や花火の美しさ、音が身体に響く感覚がとても好きで、それがインテリアに生きるかと考えると難しいとは思いますが、理屈を超えた魅力を感じます。最近だと他にも、京都・建仁寺の襖絵や新潟・清津峡トンネルの先に広がっている渓谷の風景など。当然、海外視察などでの経験はとても刺激的ですが、割と身近な多くのことに心を動かされています。共通点は自分の想像を超えたもの、と言えるかもしれません。そういった感覚がインプットとして自分に残っていて、空間をデザインする際、あの時のようなイメージというように、感覚として出てきたりするんです。
〈談/文責編集部〉

熱海の花火(画像提供/藤井文彦)
新潟県十日町市の清津峡トンネル(画像提供/藤井文彦)

ふじい・ふみひこ/1976年生まれ。法政大学大学院修了後、インフィクス、ワイス・ワイス勤務を経て2010年fan Inc.設立。最近の仕事に「USHIDOKI TOKYO」(19年9月号)や「志村電機珈琲焙煎所」(19年7月号)など。
※内容は商店建築2019年10月号発売当時のものです。

紹介作品一覧

1.シュレーダー邸
(設計/ヘリット・リートフェルト)
2.熱海の花火
(画像提供/藤井文彦)
3.新潟県十日町市の清津峡トンネル
(画像提供/藤井文彦)

掲載号の「商店建築」2019年10月号はこちらから!


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