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連載/商業空間は公共性を持つか vol.6_「ユニクロ」の店舗空間を解読する

「UNIQLO PARK 横浜ベイサイド店(以下UNIQLO PARK)」とユニクロの取り組みについて、ファーストリテイリングの森泰彰さん、西野夏樹さんに聞いた。デジタル化が加速する現代においてもなお、リアルな商業空間を重視する同社。 “LifeWear(究極の普段着)”というコンセプトは店舗空間にどう結び付いているのか。UNIQLO PARKの建築的設えや店舗の姿勢から、グローバル企業の公共性を考える。

多目的化するユニクロ

西倉 先日UNIQLO PARKに伺った際、目的を持って訪れる店舗だと感じました。フラッと立ち寄るのではないという意味では、ユニクロが元々展開していたロードサイドの店舗と似ている気がします。

森 ディスティネーションストアをつくろうという議論が社内でありました。ロードサイドの店舗は、あくまで今居る場所から一番近い店舗に行くというお客様が多いですが、UNIQLO PARKに関しては「遠いけど行きたくなる店舗」を目指しています。

西倉 そう見ると、UNIQLO PARKは屋上空間自体もお客さんが来る目的になりそうですね。

森 はい。隣接するアウトレットモールは、20年間の営業を通して地元のお客様にも認知されており、マリーナに面することから散歩やジョギングで訪れる方も多いと伺っていました。ユニクロ、ジーユーとしては、より広域からも来店いただける象徴的な場所にしたいと考えました。

西倉 建築としてもアピールできる店舗にしたということですね。来店する目的を買い物に限らず多様化するという取り組みは、今後、商業空間が生き残る道筋のひとつですし、空間に商業目的だけではない余白があるという点で公共性があるとも言えます。

多様化するアクティビティーに線を引く

森 UNIQLO PARKの挑戦はまさに「公共性」でした。お客様がお買い物に加え、ゆとりある時間を過ごせるよう、建物全体を開放するというコンセプトです。「服を通じてあらゆる人の生活をより良くする」というLifeWearの中心的理念ともマッチしています。初期案では、建物全てが階段状で、頂部から地上まで一続きの、長い滑り台を計画していました。構造や必要面積などの検討を進める中で、段々状の外形や幅広の滑り台に変更され、結果、滞留できる場所が各所に生まれました。

西倉 滞留できる場所が体験できる行為を増やし、結果的に滞在時間を長くできますね。それにより客単価も上げられるかもしれませんし、アパレル以外のプログラムの付加も可能になります。一方、行為が多様化すると、店舗のガバナンスが複雑化するはずです。店舗内と屋上がフィックス窓によって視覚的にはつながりつつ、動線的にハッキリ分けられているのは、そういった複雑化に対処するためでしょうか。

森 そうですね。場所柄、紫外線による服の日焼けや、潮風などによる影響も懸念されたので、オペレーションの負担が増え過ぎないよう屋内外の線引きは慎重にしています。

実空間の店舗こそが戦略の拠点

西倉 学生時、「ユニクロ建築を世界中につくる」というテーマで卒業設計をしました。アパレルを軸に、さまざまな商業をまとった「ユニクロ建築」が世界中に展開されれば、国家レベルの公共性を持つという提案です。現実はそこまでではないにせよ、ユニクロの店舗空間には潜在力を感じます。COVID-19によりデジタル化が加速していますが、家の外で過ごしにくくなることで、逆に良質な実空間には新たな価値が見いだされると思います。

森 小売の場合、店舗がない場所ではブランド認知度の高まりが不十分で、ECも伸びなかったりと、リアル店舗には大きなメリットがあります。ユニクロでも出店店舗数は減らしていません。

西倉 街に店舗があるとブランドの宣伝にもなりますし、知っているブランドの店舗があるという安心感はある種の公共性です。

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西倉氏の卒業設計「明日の世界企業-ケーススタディ:ユニクロ-」。世界中にユニクロが運営する大小さまざまな相似形の建築(ユニクロ建築)がつくられることで、国境を越えた公共圏、帰属意識が現れるという提案(作成/西倉美祝)

「個店経営」が生むインパクト

西倉 店舗空間の運営において、店長に主導権がある「個店経営」はユニクロの強みだと理解しています。店長のシステムについて伺えますか。

西野 現場で起こる出来事を肌で感じているのは、スタッフであり店長なので、店長はお店の運営を始めとする全ての責任者です。本部は、店舗や店長を全面的にサポートする立場にあります。

森 現在、店長にはいくつかのグレードがありますが、それぞれ積極的なチャレンジに取り組みつつ店舗の売り上げを上げられれば、成果が大きく評価されます。また、グローバル旗艦店ともなると、オープン時には300人近くが働いていますので、中小企業並みの経営力が求められます。

西倉 中小企業規模のガバナンスというのは面白いですね。仮にガバナンスを店の外、Park-PFIや地域社会まで拡張できれば、中小企業の社長であり、自治会長でもあるという店長像が成立しそうです。

森 実際、これまで「個店経営」を前面に打ち出した店舗では、積極的に地域活動にも参加していました。子供のお絵描き教室を開催したり、その絵をTシャツにする企画なども実施していましたね。

西倉 好事例ですね。商業空間の公共性を議論すると必ず「その場所に責任を持てる人が必要だ」という指摘が出ますが、BtoCよりも、地域とリスクを共にするCtoC、つまり企業よりも個人経営の方が好まれる傾向にあります。しかし、ユニクロのように店長が自律的に活動できればBtoCにも可能性がありますし、BtoCが公共性に貢献できれば、よりインパクトがあると考えています。

マクロなレベルでのユニクロの公共性

西倉 雇用創生や資源活用など、さまざまなCSRを展開されていますが、企業全体の公共性について伺えますか。

森 LifeWearには「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」という意志が込められています。服をつくって社会の常識を変え、社会を良くするという企業の活動そのものが社会貢献である、という考え方です

西倉 社会に根付くことが企業の持続可能性だという考え方とも言えますね。店舗や店長の役割の多様性を鑑みると、アパレル産業以外の事業もできそうですが、その点はどうでしょうか。

森 あくまで服に関する商売に注力し、自分たちの専門性において、お客様に貢献するのが良いと考えています。

西倉 アパレルにこだわり続けることで、服の持つ潜在力を引き出すということですね。確かに、生活に密着している衣類の伸びしろは大きそうです。

西野 私たちは「服の民主化」という言葉をよく使います。ファッションにおいて、人に階層や差別があってはならないということです。

森 「UNIQLO TOKYO」の記者会見で、社長の柳井は「ユニクロは、マーケティングの存在を超えて、ソーシャルな存在を目指していく」と話しました。全ての人に長く着られる良質な服を提供し、店舗自体が地域に根差し、地域経済と共存共栄することで、ソーシャルな存在を目指しています。


掲載号の「商店建築」2020年10月号はこちらから!


話題に上がった「UNIQLO PARK 横浜ベイサイド店」は、2020年8月号で掲載しています。


西倉美祝さんのnoteも、ぜひ合わせてご覧ください。


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