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連載/デザインの根っこVol.19_鬼木 孝一郎

建築家やインテリアデザイナーにインタビューを行い、衝撃を受けた作品などのインプットについて語っていただく連載「デザインの根っこ 」。今回は「商店建築」2019年12月号掲載、鬼木孝一郎さんの回を公開します。

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整然とつくられた先に生まれる感動

 これまでを振り返ってみると、建築から多くの影響を受けましたし、映画や音楽も面白いと思うものはたくさんあります。でも「心を動かされる」経験で言うと、現代アートから得た衝撃がとても大きい。もっとも、現代アートとして、というよりは、それらを通して得た体験という方が近いかもしれません。

 一つ目が、まだ建築を学び始めたばかりの頃に写真で見た、美術家クリスト&ジャンヌ=クロードの「包まれたライヒスターク」。旧ドイツ帝国国会議事堂を布で包んだ作品です。引き算のデザインというか、情報を減らすことによる美しさを感じました。布で包むという行為も、それによって生まれたモノも分かりやすく、城という権威の象徴をあっさりと包んでしまう手さばきに感動しました。

 二つ目は、直島の地中美術館にあるジェームズ・タレルの「オープン・フィールド」。nendoに所属していた時、仕事で訪れた直島で出合い、衝撃を受けたのを覚えています。「包まれたライヒスターク」と同様、引き算によって、空間の概念さえも抽象化しているように感じました。均質な光で空間自体が消失して、有限なのか無限なのかも分からない。「怖い」という感覚を直接つくっているようで、「そんなことができるのか」と驚きました。

 次が日比谷の展示で見たテオ・ヤンセンの「ストランドビースト」です。思考のプロセスも展示されていて、彼の作品が昆虫や生物の模倣ではなく、物理や機能、要素の数を考えた結果、生物に近くなる様子が示されていました。機械的だけど生物的で、自然と人工の間に新たな関係を生み出しているようでした。空間デザインの視点から考えると、自然からインスピレーションを得る方法として、そのものを模倣するのではなく、空気感を表現することが重要だと意識しています。「ストランドビースト」にも同じようなものを感じました。さまざまな制約や条件がある中で、表現したい空気感を制作の過程で失わないためには、連立方程式を解くような作業が必要です。最初に思い描く空気感は漠然とした状態にとどめておいて、機能を加えていくことで形にします。最初から明確なイメージをつくって、条件を当てはめるような進め方だとどうしても表現が濁ってしまいます。

包まれたライヒスターク/クリスト&ジャンヌ=クロード

オープン・フィールド/ジェームズ・タレル

ストランドビースト/テオ・ヤンセン

シンプルな手法が生む大きなインパクト

 彼らの作品に共通しているのは、シンプルな手法から、大きなインパクトが生まれていること。数学的、科学的な所作から、感情に訴えかけるものが生まれていることです。着想自体はシンプルですが、出来上がったものには、簡単には捉えきれないような複雑さがあります。加えて、どれも自然発生的な状態であって、恣意性が感じられません。またモノとしてのアートよりも、人が入って初めて成立するようなインスタレーションに魅了されることが多く、空間デザインにも近いように感じます。一方で、インスタレーションは空間デザインよりも純粋な表現ができていることも衝撃を受ける大きな要因でしょう。私が空間を設計する時、要素はなるべく減らしたいと考えています。要素が多いとあちこちに目が行ってしまい、伝えたいことが伝わりきらないからです。インプットにしろアウトプットにしろ、具象よりも抽象の方が好きなのだと思います。逆説的ですが、分かりやすい具象よりも抽象的な表現の方が、より直接感情に作用するのではないでしょうか。   
〈談/文責編集部〉

おにき・こういちろう/1977年東京都生まれ。早稲田大学大学院卒業後、日建設計、nendoを経て2015年鬼木デザインスタジオ設立。建築やインテリア、展示会の空間デザインなどを手掛ける。最近の仕事に「CORD/CODE」(18年12月号)や「STUDIOUS Namba」(18年9月号)、「HERMÈS 祇園店」(17年2月号)など。
※内容は商店建築2019年12月号発売当時のものです。

紹介作品一覧

1.「包まれたライヒスターク」
クリスト&ジャンヌ=クロード
2.「オープン・フィールド」
ジェームズ・タレル
3.「ストランドビースト」
テオ・ヤンセン

掲載号の「商店建築」2019年12月号はこちらから!


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