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連載/デザインの根っこVol.26_佐藤 航(前編)

建築家やインテリアデザイナーにインタビューを行い、衝撃を受けた作品などのインプットについて語っていただく連載「デザインの根っこ 」。今回は「商店建築」2020年7月号掲載、佐藤航さんの回(前編)を公開します。

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個と全体をつなぎ、
異なるスケールを接続する

 衝撃を受けたものについて、今のデザインワークにどう生きているのか、という点からこれまでを振り返って考えました。いくつか考えるうちに、個と全体の関係、あらゆるスケールを考えること、想像の楽しさ、抽象度を高めることなどのテーマが浮かび上がったので、それに沿ってお話しします。

 一つ目は幼少期の思い出です。僕は子どもの頃、親に連れられて自然の中で多くの時間を過ごしました。日帰りだったり、山小屋に泊まったりと、山に接する時間の中で、虫や鳥の声、川で魚が跳ねる音など、姿は見えないけど存在を感じることが、なんとなく心地良かったのを覚えています。音だけでも存在感があるというか、人間が見えている世界だけではないという感覚です。石をひっくり返したりと、見えないところを見るのが好きで、色々なスケールの生き物たちの世界を感じていました。

 似た話だと、小学校1年生から高校生までサッカーをしていたのですが、たまに、誰がどこにいて、どう動いているのかを俯瞰できる瞬間がありました。自分は小さい一つの個体なのですが、チームやフィールド全体が見えている感覚です。自分が見ているレイヤーと、それ以外のレイヤーが同時に存在していて、それらが隣り合っていたり、つながっていると感じる経験があったのです。

 映画「メン・イン・ブラック」で、宇宙が入れ子状に描かれたシーンがあります。そのシーンを見て、自分の考えに近いように感じました。

五色沼の風景

人体から宇宙へ、
スケールを超えて考える

 あらゆるスケールをつなぐことの面白さは、イームズ夫妻が制作した映像作品「パワーズ・オブ・テン」で表現されています。身体のスケールから宇宙のスケールへ、そこから再び体内に潜り込んでいくと、宇宙の世界と同じ世界が人体にもあるんですよね。聞いた話ですが、私たちの身体の中にはおよそ100兆個の細菌がいるそうです。ということは、人間自体がひとつの宇宙で、一種のエコシステムですよね。エコシステムである人間が集まって、国家をつくってという、地球規模で見た時のエコシステムと同じ構成のものが体内にあるわけです。

『パワーズ・オブ・テン』(1977年) チャールズ&レイ イームズ

動詞を単位に動きを捉える

 フランスの作家でジョルジュ・ペレックという方がいます。1冊を通してアルファベットの“e”を一度も使わない小説「煙滅」など、実験的な作品を書く作家です。彼が空間を題材にした「さまざまな空間」では、まず本の誌面構成から始まって、ベッドの話、寝室、アパート、通り、街、国、世界へとどんどんスケールを拡大していきます。感傷的でもストーリー仕立てでもなく、記録的に展開していくのです。パリを舞台に、人の動きを動詞で考え、異なるスケールを違和感なくつなぐ手法は、デザイナーの目線に近いなと思いました。空間を単位に考えると、「オフィス」や「公園」など固定概念の中でデザインが固まってしまいますが、「働く」や「会話する」など動詞を単位にすることで、空間やデザインに縛りがなくなります。そうすると、身の回りでも建築でも街でも、ひと続きのものとして捉えることができるのではないでしょうか。(次回後編へ続く)
〈談/文責編集部〉

「さまざまな空間」 ジョルジュ・ペレック(2003年・水声社)


さとう・わたる/1979年神奈川県茅ヶ崎生まれ。2003年東京工業大学大学院修了後、コクヨ入社。18年よりクリエイティブデザイン部部長兼チーフデザイナー。オフィスやショールーム、飲食店など幅広くデザインを手掛ける。最近の仕事に「BBTower 5G Workplace TRANSIT TUNNEL」(18年10月号)や「SPARX House」(17年9月号)など。
※内容は商店建築2020年7月号発売当時のものです。

紹介作品一覧

1.草木越しに大きな湖沼が見える五色沼の風景
2.『パワーズ・オブ・テン』(1977年)
チャールズ&レイ イームズ
3.「さまざまな空間」
ジョルジュ・ペレック(2003年・水声社)

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