ハイブリット学会(口頭発表)のやり方-日本科学教育学会第4回研究会(若手活性化委員会開催)の経験から-

*本記事は、2022年12月18日に実施された日本科学教育学会第4回研究会(若手活性化委員会開催)(https://jsse.jp/workgroup/2022-04)での運営統括としての経験と反省点をまとめたものです。理科教育 Advent Calendar 2022 の 21日目の記事を兼ねています。

記事の概要

コロナでオンライン授業やオンライン学会へのニーズが高まったここ数年ですが、コロナが収束しても、遠隔地からの参加の難しさ、小さなお子さんがいる研究者への配慮などの観点から、オンラインでの開催に対しての継続的なニーズはあると思われます。一方で、「やはり対面で会いたい!」というニーズもあることを踏まえると、これからはハイブリットの形式で学会を運営することが一つのスタンダートになると考えられます。一方で、ハイブリットで学会を運営するのはかなり大変です(というか大変でした!!)。そこで、2022年12月18日に日本科学教育学会第4回研究会(若手活性化委員会開催)に運営統括として関わり、この研究会ではハイブリット方式を採用していた経緯から、今回、自分たちのうまくいかなかったところも含めて書き、これからハイブリット方で学会の開催を検討される方に少しでも参考とできる記事を書きたいと思います。

ハイブリット学会の何が難しいか

大きく分けて、難しさの原因は次の3つです。
①考えないといけないパターン数が多い
②参加者のICT利用歴に差がある
③当日のトラブルに柔軟に対応する必要がある

順に説明していきます。

①考えないといけないパターン数が多い

対面のみで学会をしていた時は、発表者も参加者も対面という1パターンでした。一方で、ハイブリットの場合は、発表者(オンラインと対面)+参加者(オンラインと対面)の4パターンを考える必要があります。このように、パターンが4倍になることで、「この場合、音声ってどうなるんだっけ?」のように一つずつに対して考える必要があるので、難しかったです。

②参加者のICT利用歴に差がある

今回、発表者にお願いをしたことは、3つでした。
1.ブレイクアウトルームで自分の割り当てられた部屋に入る
2.画面を共有する
3.ミュートを解除して話す

後述するように、イラスト入りの資料も配布していたこと、また、コロナ禍になって2年半経つことから「まぁこれくらいなら余裕ですよね」と思っていました。そしてこれが大誤算でした。発表直前にzoomのアップデートを始める方、うまく画面共有できない方、画面共有できたが発表者ツールの方が表示されてパニックに陥る方などが多く見られました。私自身大学で働いている関係で、周囲ではみなさんzoomはもはや日常的なツールとなっていたのですが、この学会には現職の初等中等教育の先生方、大学生、学校外の方も多くいらっしゃいます。そうしたICT利用歴の差をしっかりと認識することができておりませんでした。

③当日のトラブルに柔軟に対応する必要がある

これは②とも関連するところですが、当日のトラブルへの種類が従来の対面のみでの開催時に比べて格段に増えてしまいます。また、このトラブルシュートも、今回私の想定が甘かったため、座長のICT利用歴および対応能力にかなり依存してしまうことになりました。そのため、ICT利用に長けている座長のところでは、うまくいかない場合には資料共有を先に行うなどの柔軟な対応が可能でしたが、そうでない場合にはなかなかうまくいかない、という会場も見られました。

じゃあどうすればいいのか?

実は、解決策として簡単に実行できそうなものが、オススメ順に5点あります(なお、これとは別に、各教室に備え付けのPC一台のみを使用して実施することでスムーズに進行を行う方法も考えられますが、USBでデータを移したり、慣れていないPCを使ってもらうことになるので私はできれば避けたほうがいいのかなぁ、と思っています)。これらは、今回やってみて気づいた反省点に基づくものになりますので、100%の解決をもたらすかはわかりませんが、かなりの程度、有用と考えています。
①学会・研究会当日に、1時間のバッファ時間を設ける
②オンライン対応委員を設ける
③発表間の交代時間を5分にする
④前のセッションの座長は次のセッションの座長のヘルプに回る
⑤アニメーションなどの使用は控え、note部分が表示されても問題ないように確認しておく

以下、順に説明していきます。

①学会・研究会当日に、1時間のバッファ時間を設ける

これは、一番オススメです。学会当日には、「事前に確認した時には大丈夫だったのに、会場でつなぐとうまくいかない!やばい!!」というケースがどうしても生じます。そのため、実際に使う発表会場で研究会の当日にリハーサルできるようにしておく、という方法です。この方法には、当日にあえて1時間取ることで、確認以外の時間は周囲の人と交流(まずは名刺交換ですかね)をする時間も取れるというメリットもあります。口頭発表だと、ポスター発表に比べてどうしても交流のタイミングが少なくなりがちなので、これは副次的なメリットではあるものの、良い対応と考えています。もちろん、第一義的な目的は、発表をスムーズにハイブリットで行うことです。

②オンライン対応委員を設ける

対面の教室で行っている発表が無事にオンライン側に音声、映像共に届いているのかを確認する役割の人を、各教室に1名設けると良いでしょう。「え、そこまでする必要ある?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、今回、「対面会場ではスクリーンに投影されているので当然それがオンライン側にも届いている」「対面会場では当然のように声が聞こえているので、オンライン側にも届いている」という誤った認識のせいで、実際には画面共有がオンになっていなかったり、ミュートが解除されていないケースが見られました。そして、「ないものはない」ので、オンライン会場側ではこれに気づきにくいのです(実際、オンライン側からこれらに対してのヘルプは寄せられなかったり、あるいは、寄せられても、そもそも発表者が同じブレイクアウトルームにいないのでメッセージが一生届かない、ということがあったようです)。この役は座長がやっても良いと思いますが、座長もなかなか緊張感のある仕事であるため、もし可能であれば、別で各部屋に一人ずつ、オンライン対応委員を設けるといいと思います。

③発表間の交代時間を5分にする

対面時の交代時間は、私の参加した限りでは、2-3分というものが多かったように思います。一方でハイブリットで実施の場合は、少し長めに、5分を見ておくといいかなと思います。

④前のセッションの座長は次のセッションの座長のヘルプに回る

一つのセッションを終えた座長は、今やトラブルシュートも乗り越えた貴重な戦力です。この座長に、次のセッションではヘルプに回ってもらうようにすれば、次のセッションの座長も安心できると思います(やっぱり、一人で対応は辛いですが、その時に一人、間違いなく助けてくれる人がいるととてもありがたいですよね)。実際、今回臨機応変にそのように対応してくれた座長がいらっしゃり、全体をみている中でとても良いなと思いました。

⑤アニメーションなどの使用は控え、note部分が表示されても問題ないように確認しておく

今回見ていて、全画面表示でpptを映した時にトラブルが起きているケースが多かったようです。私、実は全画面表示をあまり信用していない方で、大学の講義でも、全画面表示にしないでスライドを映すことのほうが多いです(そのほうが、前後のスライドをサムネイルでちらっと確認できて便利という理由もあります)。そのため、全画面にしないで表示した場合にもプレゼンに問題が生じないように、アニメーションは使用しない、noteには見られても構わない内容だけを書いておく、というように、事前にスライドのフォーマットについて指示を出しておくことを個人的にはオススメします(どうしても使用したいという場合には、必ずリハーサルで確認するようにするべし)。

最後に

今回ハイブリット学会を運営するにあたり、色々な方の協力を得て行ったものの、やはり結構大変でした。そのため、今後同様のことを検討される方にとって参考になればと思い、2つのpptを添付しておきます。

共有A:発表者、参加者、座長たちに向けて事前に送った資料です。よろしければご活用ください。なお、この資料の送付で安心してしまったのが、私の今回の大きなミスです。上の「じゃあどうればいいのか?」を取り入れることを再度強くお勧めします。
共有B:当日司会として使用した資料です。適宜修正して自由にお使いください。見てもらうとわかりますが、当日に再度資料を見せながら口頭発表の方法の話をしております。「これでも」うまくいかないのです。なので、再三になりますが、上の「じゃあどうればいいのか?」を取り入れることを強くお勧めします。


追伸1:

昨今の大学教員の多忙さは、もはや言うまでもないものと思います。その中でも、学会運営は、多くの大学教員がかかわり、かつ、頭を悩ませるものと思いますが、私は、先生方の素晴らしい脳みそや貴重な時間を、学会運営ではなく、研究に使用してほしいです。そのような思いから、今回、このような記事を書きました。なので、少しでも多くの学会運営に関わる方、あるいは将来関わる方に届けば嬉しく思います

追伸2:

今回私が運営統括として関わった本研究会は、タイトルにも副題で記載している通り、「若手活性化委員会」が主催し、ほぼ若手で頑張って2010年代から企画・運営しているものです。学会・研究会はどうしても敷居が高いと思われがちですが、若手を中心に元気よくやっているためか、「アットホームな雰囲気で良かった!」という声をしばしばいただきます。この研究会、私は今回初めて運営側に立ちましたが、大好きな研究会です(手前味噌で恐縮ですが)。また来年も開催いたしますので、興味のある方はご参加いただけますと幸いです

最後までお読みいただき、ありがとうございました!




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