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平手友梨奈は神格化されたのか?〜欅坂46が伝説となる理由〜 |僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46

映画「僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46」を観た。

観終わった後、すごく疲れた。
ずっと座っていただけなのに息が上がってた。
パソコンに向かってキーボードを叩いている今も呼吸が浅い。

やるせなさというか、違和感というか、普通の映画、アイドルのドキュメンタリーを観た後に、今まで感じることが無かった感情に包まれた。

もちろん映画はとても素晴らしい作品だったのは間違いない。

言葉では言い表せない、アンビバレントな感情を抱いた。


※この映画はこれまでの欅坂46の軌跡を表したドキュメンタリー映画であることもあり、本noteに映画のネタバレ的要素は直接的には含んでいませんが、観た人の感想を多大に含む内容のため、これから映画を観る予定の方でまっさらな気持ちで観たい方は、読まないほうが良いかも知れません。自分のnoteが多くの人に読まれるよりも、多くの人に欅坂46の、平手友梨奈の魅力を知ってほしいと思っています。

欅坂46の世界観

デビュー曲、サイレントマジョリティー

ミュージックビデオは今の渋谷ストリームが出来る前の工事現場で撮影された。

変わり続ける渋谷の街。自分たちは果たしてこのまま変わらなくて良いのだろうか。

君は君らしく生きていく自由があるんだ
大人たちに支配されるな
―欅坂46「サイレントマジョリティー」より

自分の意志を持て、自分の意志で生きろ、自分の行きたい道を歩め、邪魔をしてくる大人は相手にするな

そんな意志の強さを感じさせる楽曲でデビューした欅坂46はまたたく間に話題になり、デビューシングルは26.2万枚を売り上げ、「女性アーティストの1stシングルによる初週売上枚数」で歴代1位(当時)となった。

欅坂46の世界観を、アイドルを全く知らない人に簡潔に話すとするならば、僕はこう説明する。

必ずしもハッピーエンドとは限らない、みにくいアヒルの子

楽曲の歌詞が表している主人公は、まさに「みにくいアヒルの子」

生まれたときから他人とは違うことを自分でも認識しているのにも関わらず、そのことを他人からいじめられ、信頼している人(親鳥)からも裏切られ、どこにいっても相手にされず、一人ぼっちで悲しい時を過ごしていた。でもこれが自分だから仕方がない。

童話では、成長した自分に美しい白鳥の群れが近づいてきた時、白鳥の群れに殺されることも覚悟した「みにくいアヒルの子」だが、実は自分も美しい白鳥の姿になっていて、迎え入れられたというハッピーエンドの物語。

しかし、欅坂46が描く世界は必ずしもハッピーエンドになるとは限らない

黒い羊 そうだ 僕だけがいなくなればいいんだ
―欅坂46「黒い羊」より
殴ればいいさ 一度妥協したら死んだも同然
支配したいなら 僕を倒してから行けよ!

―欅坂46「不協和音」より

楽曲が表している方向性はサイレントマジョリティーと同様、自分の意志で生きることを貫け、ということは間違いない。
しかしその一方で、自分の意志を貫いたとしても、必ず成功するとは限らないということも表されていると感じた。

欅坂46の世界観の代弁者、平手友梨奈

そして欅坂46の世界観を表しているのが、全ての表題曲でセンターを務めた「平手友梨奈」である。

平手友梨奈が、必ず幸せになれるとは限らないみにくいアヒルの子なのだ。

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デビュー曲、サイレントマジョリティーから表題曲でセンターを務めた平手友梨奈。
彼女こそ、自分の意志を貫いて生きるという欅坂46の世界観の代弁者だったのだと僕は思う。

それと同時に、その重圧はとてつもないものだったとも思う。
世の中の不特定多数に向けて、意志を示すことの大変さ。そしてそれを反対する者からの攻撃。平手友梨奈が欅坂46が表す世界観の主人公だったからこそ、他のアイドルでは表現できなかった世界観を生み出せたのだと思う。

平手のダンスはよく“憑依型”と形容されているが、演じているのではなく、彼女の内側から本当の感情を爆発させているような脆さと危うさを感じさせる。完全にその楽曲の“主人公=平手友梨奈”とリンクしているのだ。観るものにも憑依しているのかもしれないと思う
―戸塚安友奈「欅坂46 平手友梨奈、なぜ他アーティストからも愛される? 憑依型ダンスの表現力に迫る」Real Sound, 2019年2月26日,https://realsound.jp/2019/02/post-323578.html

平手友梨奈自身が納得する形で、心から欅坂46が伝えたいメッセージを伝えたい。そういう強い意志を感じる。


と同時に、鋭い刃が向けられるのも、平手友梨奈だったのだとも思う。
平手友梨奈が欅坂46から離れることが発表された後のラジオでこう語っている。

お願いというか、約束してほしい。言葉の暴力というのは、本当にもう、しないであげてほしいです。言葉の暴力というのは、今、体罰だったり、パワハラだったり、やってはいけないことが増えている中で、一番人の心を傷つけてしまう。最悪の場合、死にたいって思っちゃう人もいる。だから、言葉の暴力というのは本当にやめてほしいなって思います。
―2020年3月19日「SCHOOL OF LOCK!」及び2020年3月20日日刊スポーツよりhttps://www.nikkansports.com/entertainment/news/202003200000086.html

「楽曲の世界観を今の自分では満足に表現できない」

平手友梨奈はこのような理由でライブを休演したり、MV撮影に顔を出さなかったことがあった。

ふざけるな!そんな理由は甘えだ!
こっちは金を払ってるんだから、そんな自分勝手な理由で休むなんて許されない!

平手友梨奈が欅坂46の代弁者であることを理解していない人なら、こう思うことも不思議ではない。

しかし、欅坂46の世界観の代弁者であるということを平手友梨奈自身が世界で一番理解していたからこそ、こういった理由で休むのだと思う。

センターがいない公演なんて申し訳ない、平手友梨奈が出演しない公演なんて申し訳ない。
そんな気持ちよりも、欅坂46のセンターとして、不十分な世界観を伝えるのが一番申し訳ない。と思っていたのだろうと考える。

ただもちろん、平手友梨奈自身の本当の気持ちは、彼女自身にしか分からない。

「その件については、今は話したいと思わないので、いつか自分が話したいと思った時に、どこか機会があればお話しさせていただこうかなと思っております」と語るにとどめ、脱退理由には言及しなかった。
―「欅坂46脱退の平手友梨奈「今は話したいと思わないので、いつか」」, Music Voice, 2020年1月23日, https://www.musicvoice.jp/news/202001230139329/

平手友梨奈に限らず、真実なんて、他人は分からないのだ。

結局何が嘘で何が真実なのかなんて、本当のことは分からない。
でも分からなくていいのではないだろうか。

自分の信じるものが真実なのだろう。

伝説の不協和音と平手友梨奈の神格化

10月7日に欅坂46のベストアルバム「永遠より長い一瞬 ~あの頃、確かに存在した私たち~」がリリースされる。

ライブ映像の一部が収録されたBlu-ray Discがアルバムの収録特典となるのだが、TYPE-Bに収録される予定だった楽曲の一部がカットされることとなった。

2017年8月30日に幕張メッセで行われた、全国アリーナツアーで披露された「不協和音」
カットされたパフォーマンスの一部の映像がYoutubeにアップされていた。

過激な表現が含まれていることを改めて考査し、映像収録が見送りになったということだ。
この映像だけでは伝わらないが、このパフォーマンスは平手友梨奈が銃で打たれて血だらけになるというパフォーマンスである。
勿論血糊ではあるが、かなり過激な流血を表しているため収録見送りは残念だが仕方がないことだとは思う。

しかしこの所謂血まみれ不協和音はファンの間ではかなり人気があったパフォーマンスだ。

欅坂46初の全国ツアーでもあるが、欅坂46の歴史上語りたいけど語れない、劇中でも一切触れられることはなかった「あの事件」の後のツアーであったのもある。更にそんな中、初日の公演中に平手が倒れてしまい(ツアー途中から復帰)、そしてツアー前から活動休止をしていた今泉佑唯がこの最終日に復帰し久しぶりに欅坂46全員が揃った、そしてこれまで全く披露されなかった平手友梨奈のソロ曲「自分の棺」を披露し、このカットされたパフォーマンスをするという、当時の欅坂46のファンであれば、語ることが山ほどある伝説のライブの締めくくりのパフォーマンスだ。

欅坂46の冠番組や映画中でも一部映像が流れたものの、今回のアルバムに収録されないということは、この欅坂46が作り上げてきたストーリーの締めくくり、いわば欅坂46の第一章の幕切れのパフォーマンスの一部始終を見ることができたのは、その場にいた約1万8000人だけとなる。(自分もその一人になれたのは今思うととても運が良かったと思う)

この行為こそ、僕は平手友梨奈の神格化につながっているのではないかと思う。

神格化(シンカクカ)
絶対的な存在とみなして崇めること、不可侵の神的存在として扱うことなどを意味する表現。

―実用日本語表現辞典

このパフォーマンスにおいて、様々な壁を乗り越えた欅坂46(=その代弁者である平手友梨奈)が絶対的な存在という立ち位置を確立し、そしてその当時をすべて明かさないことで、不可侵な領域となる。

欅坂46が改名されることで、"欅坂46"としてのイメージはこれ以降大きくは変わらない、不可侵かつ不可逆的なものとなる。


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角を曲がるとそこには、伝説となった欅坂46というアイドルが存在した。画像3



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