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人間が持ち込んだマングースの悲劇

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 20年ほど前の話だが、沖縄の修学旅行の引率をしていた関係で、沖縄には10回ほどは訪れているだろうか。たしか「琉球村」というテーマパークで「ハブとマングースの闘い」という今思えばとても残酷な催しが企画されていた。

 マングースは、ハブを駆除する目的で沖縄に入れられた後、沖縄や奄美大島で問題になった外来種だ。日本でマングースというと、日本に持ち込まれたフイリマングースを指すことが多い。マングース科の動物は、種類も30種以上あり、日本人にとって比較的馴染みのあるミーアキャットも、マングース科の動物にあたる。マングース科の動物は、アフリカ、インド、東南アジアにかけて分布し、森林からサバンナまで多様な環境に生息している。ハブを襲う動物として有名だが、日本に定着したフイリマングースは、昆虫類、鳥類、爬虫類、哺乳類から果実まで食べる雑食性で、昆虫類が主な食べ物であることがわかっている。

 1910年に、渡瀬庄三郎という動物学者によって、ガンジス川流域で捕獲されたフイリマングースが沖縄に持ち込まれた。その目的は、サトウキビ農園に害をもたらしていたネズミとハブの駆除だった。現在沖縄にいるマングースは、そのときに持ち込まれた、17頭のマングースの子孫にあたる。害獣の天敵を導入することによって、害獣をコントロールする方法を生物的防除というそうだ。当時、マングースによる生物的防除は、沖縄に限らず世界の他の地域でも行われた。沖縄にマングースを導入した渡瀬庄三郎は、生物の分布について研究し、渡瀬線という有名な生物分布の境界を提唱した学者だった。生物の分布について研究している学者ですら、ほんの100年前まで、外来の動物を自然界に導入する危険性について、それほど理解していなかったということだ。

 結果的に、マングースは、ハブの生息にほとんど影響を与えなかったと考えられている。その原因の一つは、マングースが昼行性で、ハブが夜行性であるということだ。また、マングースは、猛毒をもっている危険なハブとわざわざ戦ってハブを食べなくても、もっと安全に食べられる生き物が他にいたため、そちらを好んで食べていたようだ。 

 島に生息している肉食者は、大陸に生息している肉食者よりも種が限られていることが多く、そのため島では、天敵から逃げる能力の低い、飛べない鳥や動きの遅い爬虫類でも繁栄することができるのだが、そんなところに連れて来られたマングースは、片っ端から捕まえやすい生き物を捕食して、どんどん沖縄に広がったのだ。沖縄では、マングースが侵入した地域で顕著にヤンバルクイナが減少し、1985年からの20年間だけで生息域は、40%も減少してしまった。

 ヤンバルクイナに限らず、絶滅危惧種に指定されているハナサキガエルやオキナワキノボリトカゲ、鳥類のホントウアカヒゲなど、多くの分類群の希少種がマングースにより捕食されていることが明らかになった。奄美大島にもマングースが持ち込まれ、アマミノクロウサギ、ケナガネズミなどの希少種を捕食していることが確認されている。

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