見出し画像

日本のODAでカンボジアに橋を架ける!

 外国の紙幣に日本の国旗がデザインされているのをご存知の方はどれぐらいいるだろう。「日の丸」がデザインさているのは、カンボジアの紙幣500リエル札の裏面だ。カンボジアの貨幣価値がどれくらいかというと、4000リエルが1アメリカドルになるから、500リエルはその8分の1の価値なので、約19円ということになる。さらに、500リエル紙幣には2つの橋が描かれている。2つの橋は、通称「きずな橋」と「つばさ橋」と呼ばれ、ともに日本のODA(政府開発援助)による無償協力によって、JICA(国際協力機構)が支援活動を担い、カンボジアを南北に流れる大河メコン川に架けられた。どちらもカンボジアの発展と人々の生活に欠かかせないものとなっている。500リエル紙幣に記された二つの橋と日の丸には、カンボジアの人々の日本への思いが込められている。

 カンボジアの首都プノンペンの北東部、コンポンチャム地区にある「きずな橋」は2001年に完成した。メコン川に初めて架けられたこの橋の開通によって、農産物の産地である東北地方から首都プノンペンへの交通が劇的に改善。現地ではクメール語で橋を意味する「スピエン」に日本語の「きずな」をそのまま組み合わせて、「スピエン・キズナ」と呼ばれ親しまれ、英語表記ではKIZUNA Bridgeになっている。ちなみに「きずな橋」は、紙幣だけでなく切手にもなったとのことだ。

 一方の「つばさ橋」は、2015年の4月に完成したばかり。同じく日本の協力で整備が進められている国道1号線を、プノンペンから1時間半ほど走ると姿を現す全長2,215メートルの大きな橋だ。地元の人たちは地名をとってネアックルン橋と呼ぶそうだが、2羽の鳥が翼を広げているように見える特徴的なデザインから、こちらも日本語をそのまま用いて「スピエン・ツバサ(つばさ橋)」と命名。橋の完成によりベトナム、カンボジア、タイをつなぐ大動脈が生まれ、ASEAN経済共同体が発足したことで今後ますます大きな役割を担うことが期待されている。

 「つばさ橋」の建設プロジェクトは2004年にスタートし、10年以上の歳月をかけて完成した。建設作業は、さまざまな困難に直面した。建設地付近には1970年代にカンボジアを支配したポル・ポト派の弾薬庫があり、工事開始前に不発弾の処理は行っていたものの完全に処理することはできず、2012年7月に不発弾の爆発事故が発生した。幸い負傷者は出なかったが、数ヶ月間の工事中断を余儀なくされた。そんな苦労の末に造られた橋は、2014年に発行された新札に日の丸を添えて描かれることになった。

 これらの橋を無償で建設してくれた日本への感謝の気持ちは、広く一般のカンボジアの人々の中にもあり、日本人にフレンドリーな人も多い。現地で日本語通訳の方が以下のように語ってくれている。

 「これらの橋を日本に造っていただいたことは、もちろんみんな知っていますし、大事に使おうとしています。たとえば農家の人たちが新鮮な農作物を市場に運ぶにも、妊婦が出産のために病院へ行くにも、橋ができる前は小さなボートで1時間もかけて川を渡らなければいけませんでした。カンボジアの人々の生活にとって、言葉で言えないくらい大きな意味を持っているんです」

 実は、日本の協力で造られた橋が、カンボジアにはもう一つある。雨季と乾季の面積が3倍以上も変わる大きな湖「トンレサップ湖」に架かる橋で、通称はずばり「日本橋」。「きずな橋」や「つばさ橋」よりもはるか以前、1966年に造られた。重要な輸送路であったため、内戦時に爆破されてしまったが、1994年に再び日本の援助の手によって復旧した。その際にもポル・ポト派により橋の爆破予告がされるなど、作業は命懸けだった。「日本橋」の再建はカンボジア復興の第一歩となり、命懸けで作業を続けた男たちの姿は当時の1000リエル紙幣に描かれていたそうだ。

 カンボジアを訪れた際には、ぜひ500リエル札を手に入れ、裏面を確認してみてほしい。そこにはカンボジアの発展と生活を支える二つの橋が日の丸とともにあり、そこに託されたカンボジアの人々の日本への強い思いを感じとることができるだろう。

 2000年当時、カンボジアの国道1号線はメコン川で分断され、対岸に渡るにはフェリーしか手段がなかった。利用する人や車が増え、ピーク時には7時間待ちということもあったそうだ。つばさ橋の完成で、ホーチミン(ベトナム)とバンコク(タイ)をつなぐ南部経済回廊がつながり、ホーチミンとカンボジアの首都プノンペンまで、12時間かかっていたものが6時間で行けるようになった。

 橋が架かり、人々が自由に、安心して行き来できるのは、その地域が平和である証しなのだ。橋が機能する社会のために、そして、開発援助を必要とするすべての国と地域のために、これからもJICA(国際協力機構)による活躍は続く。


カンボジア 500リエル札の裏側

私の記事を読んでくださり、心から感謝申し上げます。とても励みになります。いただいたサポートは私の創作活動の一助として大切に使わせていただくつもりです。 これからも応援よろしくお願いいたします。