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「ことば」はどのようにして生まれたのか?

 「ことば」はどのようにして生まれたのか?
 普段私たちが何気なく使っている言語。そもそも言語とは何だろうか。人類の進化の過程において、言語がどう生まれたのか、どのように、なぜ、いつ、どこで生まれたのか、数多くの仮説が存在する。〈字数:1509文字〉

 一つに、ヒトの言語は、もともとは動物の鳴き声のようなもので、それが複雑化して現在のような形になったという説がある。しかし、動物の発する声とヒトの言語とを比べると、そこには単に複雑さの度合いではない本質的な違いが存在する。ヒト以外の動物の発声は、ヒトに系統上近いチンパンジーやボノボのような類人猿であっても意図的にコントロールされたものではなく、感情の表出や外からの刺激に対する反応だ。

 一方、ヒトは刺激に対して思わず声が出てしまうという場面ももちろんあるのだが、通常は発声をコントロールして言語をアウトプットする。よって、同じ音声といっても似て非なるもので、そこに進化上の連続性を求めるのは難しい。

 他に、言語はジェスチャーから進化したという説がある。言語というと、まず音声言語を思い浮かべるかもしれないが、手や顔の動きと位置関係を使う手話も、主に聾者ろうしゃの間で広く用いられている。手話は、音声言語を身振りに置き換えたものとよく誤解されることが多いのだが、各手話には手の位置、形、動きの独自の組み合わせがあり、そのようにして作り上げられたサインを変化させたりすることで、音声言語と同様の複雑な構造を成している。さらに手話を使用しているときに、大脳左半球のブローカ野と呼ばれる言語を司る領域が活性化することが分かっており、手話話者が左半球を損傷すると、音声言語の失語症に相当する手話の障害がおこる。これらの事実から音声言語も手話言語も脳内の基盤となる能力は共通しているといえ、もともと言語がジェスチャーから進化してきたという説も妥当性を帯びてくるのだ。また、発声をコントロールできないヒト以外の霊長類も、手と前腕は大脳皮質の高次中枢で制御されるため意図的な制御が可能であり、グルーミングなどの他者に向けたコミュニケーションの手段として使われる。ここに原始的な言語の萌芽が見られるといえる。

 ジェスチャーが言語の起源だとすると、そこから音声言語へと、どのように変わっていったのだろうか。500〜600万年前、現在のヒトの祖先はチンパンジーやボノボへとつながる系統と分岐し、二足歩行を始めた。これにより、手がより自由に使えるようになり、多彩なジェスチャーを行うようになったと考えられる。さらに、二足歩行は喉頭の降下を引き起こし、それまで不可能だったさまざまな種類の発声が可能となった。ジェスチャーには発声が伴うようになり、徐々に暗闇でも使える音声中心の情報伝達へと移行していくことになる。

 音声言語の誕生により、手が情報伝達の役割から解放され、道具づくりなどを始め、芸術が生まれ、ヒトは高度な文化を発展させていったと考えられる。自分が話しているとき、自分の手や腕がどうなっているかを意識したことがあるだろうか。そこにも進化の痕跡が見られるのかもしれない。

 世界には7,168の言語があり、2022年時点で、母語として使用されている言語の中で最も多いのは中国語(北京語)、次にスペイン語、英語と続く。第二言語以上として使われているのは、英語、中国語(北京語)、ヒンディー語の順だ。中国語(北京語)の話者は38カ国であるのに対し、英語は146カ国と分散している。これは、英語が第二言語以上の言語として広い範囲で使われているからだ。

 なぜ人間だけが言語を持つに至ったのか、考えるだけで面白い。

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