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芥川龍之介の『白』に学ぶ

 『白』は、1923年8月に雑誌『女性改造』で発表された芥川龍之介の短編小説だ。友人を見殺しにしてしまった犬が、自身の臆病さに苦しむ様子が描かれていく。

 ここからは、小説『白』のあらすじを紹介する。『白』という短編小説を先に読みたい方は、ここから先はネタバレにご注意いただきたい。

主人公である犬の白は、人の言葉を理解できるオスの飼い犬。生まれたときから牛乳のように真っ白だったことから白と名付けられた。ある日、友だちの黒が「印半纏を着た犬殺し」に殺される場面に遭遇してしまう。白は黒を助けたいと思ったが、恐怖で逃げ出してしまう。

 白は走って飼い主のお嬢さんと坊っちゃんのもとに帰った。しかし、2人は「どこの犬だろう?」と首をかしげる。それもそのはず、真っ白だった白の身体は、真っ黒になっていたのだ。ショックのあまり吠えに吠える白を見て狂犬病を疑った2人は、白を追い出してしまうのだ。

 家を追い出された白は鏡や水たまりに自分が映るのを避けるようにしながら東京中を歩き回る。そんなとき、小学生にいじめられている茶色の子犬を見かけ、白は、子どもたちに吠えかかり、子犬を助け出す。ナポレオンというその子犬は、カフェで飼われている犬だった。引き留めるナポレオンをよそに、白はカフェを後にする。

 その後、白は自らを危険にさらして何度も人命救助を行う。ある時は電車の線路内に立ち入った四歳の男児を救い出し、ある時はペルシャ猫を襲おうとした蛇と格闘し、またある時には暴風雨で道に迷った登山者の道案内をして安全なところに導いたり。新聞記事には、そういう殊勝な黒犬を称える事例がいくつも紹介され、白の勇気ある行動がたたえられ、白は「義犬」「たくましい黒犬」 などと呼ばれる。白はそんなことは知る由もない。

 身体も心も疲れ果てた白は、受け入れられないと知りつつも、ある秋の夜、とうとう飼い主の家に帰って来る。そして、寂しい気持ちを月に向かって語りかける。

「わたしはお嬢さんや坊ちゃんにお別れ申してから、あらゆる危険と戦って来ました。それは一つには何かの拍子に煤よりも黒い体を見ると、臆病を恥じる気が起ったからです。けれどもしまいには黒いのがいやさに、この黒いわたしを殺したさに、或いは火の中へ飛び込んだり、或は又狼と戦ったりしました…。お嬢さんや坊ちゃんはあしたにもわたしの姿を見ると、きっと又野良犬と思うでしょう。ことによれば坊ちゃんのバットに打ち殺されてしまうかも知れません。しかしそれでも本望です。」

 翌朝、白はお嬢さんと坊ちゃんの声で目覚める。坊ちゃんは、「白が帰って来ましたよ!」と叫んだ。白は、お嬢さんの瞳の中に小さな白い犬がいるのを見たのだ。

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