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セミの脱け殻

夏休みを二日頂いた。
仕事を離れても口角炎は相変わらず治らない。心が苦しいのだろう。
 部屋に籠ると良くない。散歩でもしようと家を出た。アスファルトにセミの死骸を見つけた。夏も終わりかと近づいた。しかし、顔を近づけるなんとセミの脱け殻だった。
 このままでは踏みつけられてしまう、とセミの脱け殻をアスファルトから木陰に移そうとした。脱け殻に触れた瞬間、仮に潰れたとしても今のままが良いと思い直した。
 理由はこの灼熱のアスファルトの上でセミは死んだのではなく、成虫になったからだ。
 アスファルトの上で飛び立ったセミに八日目はない。でも、人間には八日目がある。
不思議と気が楽になった。口角炎が治らなくても、人生が辛くても八日目をぼちぼち生きていける幸せを噛み締めた。

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