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で? 前橋シティFMはどうなった? 84.5Mzから流れ出した決意

84.5Mzから流れ出した決意

     神宮みかん

 ケヤキウォーク前橋の映画館の更に奥にある影響であろうか。この前橋シティFMのスタジオを知る人は少ない。

 実際、私もこのコーナーに応募するまでこのスタジオの存在を全く知らなかった。

「前橋は水曜日の18時を回りました。まだまだ暑い盛りが続きますが、みなさんいかがお過ごしですか? 『小説でこの街を元気にしようの!』、水曜日、本日の朗読は……」

 パーソナリティが私を高校三年生。高校三年の夏に思い出を作りたくてこのコーナーに応募し、朗読に挑戦することを説明している。

 いつも聴き流しているだけのラジオに出演している私の心は怯えつつも、メディアから初めて自分の声が流れていることに心臓が嬉しさで震えている。

私の声を84.5Mzに電波を合わせてくれている人、スマホアプリのリスラジで聴いてくれている人の耳に生放送で届いている。

「プロデューサーの石原さんが言うには非常に積極的に朗読に取り組んでくれたそうですね。どうですか? これからラジオで朗読されるのは」

「ラジオで自分の声が流れる。最初で最後かもしれません。なかなかできない経験です」

この答えが正解だろうか。己に問う。だが、生放送、悩んでいる時間なんてない。落ち着け、落ち着け、と己に言い聞かせる。

 にわかに、自分で発した、最後かもしれません、という一文が頭に浮かんだ。私は心の中で、嘘、仕事にしたいんでしょ、と思った。でも、この世界への挑戦はこの朗読が終わったら、止める。夢は夢のままで終わらせ安定した暮らしを目指すことに決めている。

 私が朗読した『親方ホルモン』が流れ始めた。

 引用されたスピッツの歌詞は歌ってはどうだろう? 僕も歌ったんだという石原さんにアドバイスをもらい。自宅で何度も何度も朗読の練習をした。

 録音の時、石原さんは私に言った。

「素敵な声だね。きっと、君の声で強くなれる人がいるよ」

 私は夢を話したくなった。でも、勇気がでなかった。

 私の朗読はついに最終盤の歌詞入りの部分に入った。

 ♪〝愛してる〝の響きだけで 強くなれる気がしたよ

 私はもうじき終わる。もうじき……。私の夢、叶ったんだ、と思った。

「どうでしたか?」

「自分の声がラジオから流れていると思うと本当に不思議な感じでした」

「ところで、メールが来ています。オレンジ色さんからです。明るい白い提灯。きっと、あなたのようなまだ群青に染まらない人を意味するのですね。まだ何にでも成れる高校三年生。受験頑張ってください。この番組の石原さんも難病を乗り越えて頑張っています。ぜひ夢を叶えてください」

 パーソナリティが言った。

「そういえば将来の夢は何なのですか?」

 私は誰にも本当の夢について口にしたことはなかった。でも、口をついてでた。

「明確には決めていませんが、声の仕事に就きたいです」

「素敵ですね。それでは、本日のリクエスト曲にうつりたいと思います」

 曲が流れ出し、一息つける時間がやってきた。

 パーソナリティが言った。

「お母さんからメール着ているけど読んでいいかな? あなたの夢を応援しているってメールなんだけど」

 私は首をよこにふった。

「私だけの大事な思い出にさせてください。わがまま言ってすみません」

 曲が明けた後、多くの応援メールが私宛に送られてきていた。

「石原さんからです。本当に素敵なお声ですね。私も多くの挫折を経験してきました。でも、必死に活動を続け仲間の輪が広がり、多くのことにチャレンジできています。この『親方ホルモン』にも出てきますが、成功は失敗の途中です。頑張ってください。私たちもがんばりますから」

 パーソナリティが短時間にメールを出来るだけ読み上げていく。いつも投稿をしている人が大勢いる。

 声という想像が作り出す作業。本当に面白いと思った。

 口に出せた夢。その夢が現実になることはないかもしれない。でも、可能性はゼロじゃない。口に出し、この電波を聴く全ての人に宣言できるほど強い意志を持つのだから。

 今日、私の夢は前橋シティFM84.5Mzで動き出した。

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