読後録#10 『ヴァスコ・ダ・ガマの「聖戦」: 宗教対立の潮目を変えた大航海』

大航海時代前夜、ユーラシア大陸の東端に位置する、大西洋に面したポルトガルには、崇高な宗教心と野望を引っ提げて、大海原に出ていった荒れくれ者たちがいた...。
と書けば、何とロマンあふれる本だろうと思うことなかれ、これは史実に基づく一大ドキュメンタリーである。ポルトガルが何故大海に出向いたか、当時の地政学的な捉え方は...など全461ページにわたる大作です(しかも1ページ2段組構成)。読むのを躊躇する分厚さだが、意外にストーリーがテンポよく、ポルトガルが東回り航路(喜望峰ルート)を開拓し、アフリカ大陸東岸やインド、その先の香料列島(モルッカ諸島)に行き着いた経緯が読み進めるとわかる。

荒れくれ者を率いた大航海者ーヴァスコ・ダ・ガマ 
この人抜きにはこの本は語れないことはタイトルからも分かる。日本ではクリストファー・コロンブスが偉人として語られることが多いはずだが、このヴァスコは当時生きて帰ることすら奇跡のような大航海を3度実施した強者だ。彼を突き動かした動機やエネルギーはどこから来るのか。読了時に確信は出来なかったが、扉のページに掲載されるヴァスコの肖像画から推測するしか無いだろうか。

侵略と聖戦と蛮行の狭間で
ポルトガルはキリスト教の布教という崇高な意思に基づいて、外洋へと帆をあげ、行き着く先々で、時には攻撃し、時には当主を屈服させてきた。無論彼等の善行もあるのであろうが、善行よりも記憶に残るのは残忍な仕打ちであり、「侵略」であった。常に敗者から見る歴史は侵略者を酷に描写するものだが、時折表出する様々な記録の表現は想像に絶するほど(グロテスク)である。歴史に確かに名を刻んだヴァスコの活動譚であり、西洋人が非西洋国と接した際に生じた軋轢がよく読み取れるのではないか。