MTGは40周年を迎えられるのか


Twitter(X)やRedditで、MTGはオワコンなのではないかと話題になっているらしい。
一人のプレイヤーとしてMTGには長く続いてほしいと思っているが、今の在り方に問題があるということも認識している。
今現状議論されている話題は大きく分けて以下の5つにまとめられる。

1トレンド
2競技の低迷
3販売形式・コラボ
4インフレと値下り
5競合

1 トレンド

まず、今回の話題の発端であろうトレンドについて。
これは10月9日にTwitterで発信された情報だが、Googleトレンドで最盛期(2011年)の約半分になっているという内容だ。
あくまでGoogleトレンドなのでそれがそのままMTGの人気を表しているとは言えないだろう。実際、日本でのGPの参加者数の最高を記録したのは2015年のGP千葉(モダンマスターズ2015リミテッド)である。
また、半分と言っても上下している箇所の頂点と比較しているものであり、平均的な数値は2018年ごろから緩やかに下落しているようにも見えるがほとんど横這いである。むしろ2000年代よりは高い位置にある。
このようなことから、トレンドから明確なMTGの衰退は見ることができない。

2 競技の低迷

競技的なプレイがMTGに占める割合は間違いなく減少していると思われる。
プロツアーへの憧れやプロプレイを目標とした行脚といったグラインダーがMTGというゲームにおける中心にあり、その裾野である周辺域にカジュアル層があった時代は終わった。
カジュアルの範囲や選択肢が大きく広がり、競技的なプレイが占める業域は“相対的”に小さくなった。
プロツアーの配信を憧れや崇敬を持って眺める時代から、YouTubeのゲーム実況を見るように配信そのものを楽しむ人の割合が多くなったのかもしれない。
ただ、MTGの楽しみ方が変わったのであって、カジュアルプレイを含めた全領域を考えればMTGが衰退したとは言えないだろう。


変化イメージ

スタンダードの衰退については別で書いているのでここでは割愛するが、楽しみ方のベクトルを調整しなければ今後の衰退を早める可能性は残っているだろう。

3 販売方式

(1)種類

ここ数年、拡張アートやフルアート、別イラストや特殊Foil加工など非常に多くの種類のカードが印刷されている。そういったカードが好きな人にとってはとても良いことのように見えるが、販売店にとってはシングル販売を思いとどまらせるのに十分な手間を発生させる。要は、多すぎるのである。
ユーザーと同様に小売店も大事にしなければMTGの長期的な発展はあり得ない。現状のままでは、地方の小店舗は大型店や専門店への対抗ができずMTGの取り扱いをやめてしまうだろう。ユーザーの裾野を広げたいのか狭めたいのかわからない。一見して良いことであってもやりすぎは毒である。飲みすぎたら水ですら毒になるように。

(2)価格

社会情勢の影響もあってそもそもの商品単価が高騰しているのはある程度やむを得ないところだろう。1パック500円でも14枚入りなので1枚当たりの単価35.71円であり国産TCGと比較しても安価である。(ポケカは1パック180円5枚入りなので36円/枚)
ドラフトやシールドで遊ぶ可能性を持たなければならないというゲーム上の都合からコモン等が多くなるのもある程度やむを得ないことである。
しかし、一部のマスターズ等の高額パックについてはやりすぎではないかと思うところがある。今年発売された統率者マスターズはドラフトブースターで当初1,870円、現在でも1,300円程度で販売されている。再録の優良カードが含まれているとはいえ、1枚単価100円超えの通常ブースターを開封できるのは一部のコアユーザーだけだろう。

(3)コラボ

2020年のイコリア以降、MTGはコラボ商品を大量に発表している。他のコンテンツとのコラボ自体が悪いことではない。より強いコンテンツに引っ張ってもらう形で上を目指そうとするのは一つの選択肢ではある。
だが、そのコラボ先がMTGそのものと何のかかわりもないような相手ではMTGにとってプラスにはならないだろう。マーベルのキャラクターを登場させてもマーベルファンがそのパックを購入する機会がその時だけ一時的に発生するにとどまり、MTGというゲームの面白さに気付くことはないだろう。
コラボするのであれば、双方に一定の関係性があってコラボによって価値を向上させ合えるものでなければならない。
節操なく手あたり次第にコラボを重ねると、一番守らなければいけないMTGの「ゲームとしての面白さ」という本質が見えなくなってしまう。果てはこれまで30年で築いてきたMTGというブランドその物傷つけかねない。
目先の利益に一喜一憂して、長期的な大きな損失から目を背けているだけに見える。

※おまけ:「コアユーザーよりも新規・ライトユーザーを優遇するのは当然で、コラボに文句言っている人はWotCのターゲット層ではない。」という発言について反論。

コラボがライトユーザー向けなのは正しい。ライトユーザーを大事にしなければいけないのも正しい。だが、一番利益をもたらすのはコアユーザーであって、ライトユーザーではない。“映え”重視の軟派なスイーツ店がなぜポンポンと潰れていくのか理解していないのだろう。
表面的で短期的な話題でライトユーザーを引き入れるような商売はリピーターが発生せずに長続きしない。ライトユーザーへの門戸を広げながらライトからコアに取り込みつつコアユーザーを放さないだけの強みこそが企業や商品の価値である。
コラボが新規ユーザー獲得のための効果的な政策だったとしても、それによってコアユーザーを失うのであれば、それは損失が上回る可能性が高い。
因みに俺は、コラボ自体は賛成だけどコラボの方法には3年以上ずっと文句言ってる。選択肢を増やしてくれるゴジラ方式(絵違い別バージョン)のコラボならどんどんやってくれ。

※おまけ2:多元宇宙だからコラボもありなのでは?

様々な世界があるのはMTGの受け入れの広さの良いところではある。これはあくまで個人的感想だが、多元宇宙だからなんでもアリという感覚にはならない。MTG以外のキャラクター、特に写実的ではなくアニメチックなイラストなどはどんなに多元宇宙であっても世界の理に反している気がして違和感は拭えない。〇〇をモチーフにしたMTGの何かと、〇〇をそのままMTGに採用するのでは大きな隔たりを感じる。

4 インフレとデフレ

現在、スタンダードの衰退に伴ってEDHが隆盛したことでカードパワーの異常なインフレが発生している。
自分が良く知るレガシーでは、ウーロがアドバンテージの概念を破壊したと思ったら、指輪が塗り替え、豆の木がさらにその上を行く。まさにドラゴンボール状態である。
新規カードがゲームを上書きする状態が繰り返されているため、古いカードは一部を除きほとんど淘汰されていった。
一時期は環境を定義する程であった神ジェイスやヴェンディ、瞬唱にもはや以前のような活躍の舞台はない。ヴェンディに至っては300円でストレージに並ぶレベルだ。
インフレはンテンツの面白さを維持するうえで重要な要素であり、必要不可欠な物であるのは間違いないが、過度に進めばコンテンツの寿命を縮める諸刃の剣でもある。インフレと禁止による強制制御を繰り返す状態はMTGの寿命を削って利益を生み出しているようなものだ。今の在り方を続けるのであれば先は長くないかもしれない。
もう一つ懸念すべき点として、デュアルランドを始めとする再録禁止カードの値下がりがある。2021年2月以降、長く値下がりトレンドを維持したまま上昇していない。2年に1度起こる高騰が発生していない。長期的に見た時に基本的に右肩上がりになる筈の再録禁止カード群は、いわばWotCのこれまでの実績に対する株券である。今後も下落が続くのであれば、それはMTGというコンテンツの終わりに近づく指標になるかもしれない。

ま、個人的には値下がるなら買い増すだけなんだが。

5 競合

日本国内ではMTGはそれほど売れているTCGではないが、世界的には最も売れていると言われていた。しかし、ポケカの隆盛やFABのような国産ではない新たなカードゲームの登場により競争は激しくなっている。
他にも面白いカードゲームがあるのであれば、遊ぶのがMTGである必要性はない。先に述べたコラボやインフレに嫌気がさせば、乗り換えることもできるだろう。
つまり、「TCGで」ではなく「MTGを」遊びたいと思わせる強いブランド力がなければ生き残ることはできない。競合の少ない時代から、競合相手と生き残りをかけて切磋琢磨する時代になった。
MTGとは何か、そしてその守るべきブランドとは何かを明確にして打ち出していかなければならないだろう。







Q:MTGは40周年を迎えられるのか?

A:迎えられる可能性が高いでしょう。現状は自身の体力を削るように無理のある方法で利益を生み出しているような状態ではあるものの、これまでの実績があることから10年で完全に終了してしまう可能性は低い。ただ、あり方を考え直さなければその次の10年は怪しいのではないだろうか。今のWotCに投資すべき企業価値はあまりない。

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