いじわる神さま〈410字のショートショート〉
「あぁ,やっと辿り着いたぞ」
50歳はとうに超えているだろう風貌の男は,ポツリとこぼした.
男の村にはある伝説があった.
なんでも山の洞穴の奥深くに,願いを叶えてくれる神さまがいるという.
これまでも多くの男たちが村にやってきて,野望を叶えるため山へ向かった.
そして長い時間が過ぎたあと,虚な目をして,喪失感に溢れた様子で帰ってくるのだ.
人生のほとんどを空虚な時間に捧げてしまったのだから,無理もない.
しかし男はたしかに辿り着いたのだった.
それは山の中をひたすら細いトンネルを掘り進み見つけた先の,洞穴の中に神々しく立っていた.
「よく辿り着いたな男よ」
「人生の全てをかけました」
「では願いを聞こう.なんでもいいぞ.金銀財宝か,永遠の命か」
「では私に...」
と言い終わる前に,突然大きな音と共に崩れ落ちるトンネル.
「おっと驚いた.この辺りは地盤が軟らかいからなあ」
「さあ,あらためて願いをきこう」
男には神の顔が悪魔のように見えた.
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