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母になるわたしへ(妊婦生活の記録)


2021年の5月の終わりに妊娠が判明してから、お腹の中の子はすくすく育ち、2022年の年明けに臨月を迎えた。

産休中は穏やかに寝たり食べたり起きたりちょっと動いたりを繰り返し、刻々とお腹の中の3kg程の生命がこの世に降りてくるのを待つ日々である。
あまりにも暇なので、これまでの妊婦生活をちょっと振り返ってみることにした。


一番最初の検診では6.3ミリのまめつぶだった私の中に宿る生命も、その次の検診では四肢が分かるようになり、ドラえもんみたいな丸い手足をふねふねさせていて、「あ、本当にここに生き物がいるのだな」としみじみ感じた。

そこから週を追うごとにぐんぐん成長し、白黒のエコーで垣間見える背骨や足の骨の形にいちいち感動していたら、あっという間におなかはパンパン、胎動ズンドコ、膀胱グリグリ、みたいな感じになり、はずせない肉壁の抱っこ紐を常時つけているような気持ちに度々なって、おなかの中にいる別の生命との共同生活をしんどく感じる瞬間もあったけど、慣れた。今は、早く会えますようにという気持ち。

つわりとかマイナートラブル

妊娠初期に現れるとされる「つわり」について、これはもう本当にただ運がよかっただけなのだけど、幸いにもテレビやネットの事前情報で想像していたような不調に見舞われることなく、健やかに平穏に過ごせた。
私の場合は妊娠3.4ヶ月めくらいに若干の食欲不振・吐き気があったくらいで、トイレにこもりっきりになるようなこともほとんどなく、基本的には通期、なんでも食べたいものをもりもり食べていた。
前評判どおり、マクドナルドのフライドポテトはいつ食べても本当においしくて、もともと好きだったのにさらに拍車をかけて摂取していた。あのポテトはなんだ。なんか入ってんのか。と常々思っている。
早く安定的に供給されてほしいと切に願う。Sサイズではだめだ。

たまに自らの不摂生(油っこいものを寝る前に食べるなど)による胃もたれ・胃酸の逆流があったけど、これは完全に私のせい。
あと、白ごはんの炊ける匂いがなんとなく嫌になったり(しかし、炊けた米は普通に食べるのであった)、急に柑橘系のゼリー・ジュースを爆買いして摂取するブームが一瞬巻き起こり、一瞬にして去ったりした。

安定期以降はよりいっそう食欲マシマシになり、「今しかゆっくり食べられないかも」というのを免罪符に、こじゃれたレストランのディナーとか、鉄板焼きとか、焼き肉とか、とにかく夫と連れ立って、食べに行った。

比較的元気な妊婦であるという自負はあったけど、腰痛・シミ・便秘・痔・むくみ・息切れ・虫歯・日中の眠気・へそ周りの体毛の著しい成長といった、ここに詳らかに書くに及ばないようなマイナートラブルはたくさんあったので、まあやっぱり、おなかのなかで違う生命をはぐくむというのは、とても大変なことなのだな、としみじみ思ったりする。世の中のお母さんは本当にすごい。(でも肌の調子はすこぶるよくてほとんどニキビができなかった。この点のみ嬉しい)


仕事と通勤

夏頃に繁忙期を迎える仕事のため、ピーク期はまあまあ夜遅くなる日もあったけど、基本的にフレックスなので、元気のいいときに作業をがんばる、しんどい時は無理しない、というスタンスでなんとかなったのと、理解のある上司のおかげで色々と仕事量も配慮してもらい、仕事上のストレスはほぼなかった。コロナの関係でテレワーク中心だったので、腰が痛いときは寝姿勢で仕事したりもしていたし、職場に行かなければならないときはなるべく朝の通勤ラッシュを避けて午後から行っていた。

おなかが大きくなり、パッと見で妊婦とわかる姿になってくる時期にさしかかると、通勤電車が満席の場合にどのあたりにポジショニングするのが正解なのか、これは結構いつも悩んでいた。
都内までの通勤はまあまあ時間がかかるので、できれば座りたいのだけど、普通の席の前に立つと、なんだか気を使わせてしまうかもしれないし、かといって優先席の前に立っても、妊婦なので席を譲れアピールと思われないか、など無駄な心配をしてしまっていた。
けっきょく、乗車したら優先席と一般席の間のドア付近に立つ、という折衷案にたどりつき、あまりにも長いこと座れないときは優先席の方にぬるぬる移動してさりげにマタニティマークをちらつかせてみる、ということをしたこともあった。
(実際は8割くらいの方がこちらに気づくとすぐに席を譲ってくださって、優しい世界だなと思った。世の中怖い人ばかりではないです)


あふれる育児情報、夫婦間のコミュニケーション

昨今、妊婦ライフをサポートしてくれる便利なアプリがあり、私が主に使っているのは「ninaru」と「トツキトオカ」というもので、夫にもこれをダウンロードさせ、日々の胎児のステータス・コンディションを夫婦間で常に共有していた。
ninaruをひらけば「今週の赤ちゃんは野菜で例えるとこれくらいの大きさですよ」ということをイラスト付きで教えてくれるので大変分かりやすい。ダウンロード当初はサンショウウオの幼生みたいだった胎児の姿は、37週現在しっかりとむちっと感のある人間の姿に成長している。

それから、この週数にはこれこれこういうことをするのがよい、こういった身体の変化が起きるということも逐一、適切なタイミングで懇切丁寧にアプリにご教示いただいた。
このおかげで、戌の日の安産祈願も一応こなし、適切な時期からベビー用品の収集をはじめ、区役所の母親学級に通ってプレママ友を作ったり、保育園の情報収集をしたりした。
夜中に突如こむら返りに襲われたときも、「今はそういう時期とのことだったわね、ははーん」という心の余裕もあった。痛かったけど。

ちなみにトツキトオカの方には夫婦で写真付きの日記を共有できる機能があるのだけど、出産までって特に共有するような写真なくないか…。結局、我々はそれぞれの姿を撮影した面白写真をアップするだけで最終的に画像大喜利みたいな使い方しかしなかった。これはみんなどうやって活用していたのだろうか、よくわからない。

Instagramを開けば、プレママから助産師まで幅広い層がマタニティライフや子育てに役立つ情報を提供しており、もはや写真の投稿というよりある種のミニマガジンのような体をなしていて、ベビー用品はこういうのを揃えておくのがよい、入院準備バッグにはこういうのを入れた方がよい、みたいな情報が投稿を左スワイプするだけでいくらでも入手できた。

ベビー用品のいるもの・いらないもの論争は各ご家庭の状況によるだろと思って参考程度に見ていたけど、IKEAのワゴンにおむつを格納せよ、ペットボトルにつけるストローキャップを入院準備バッグに入れよ、おしりふきウォーマーは不要という3大意見はおおむね共通していたように思う。

私がアプリやInstagram、たまごクラブ、ゼクシィBabyといった媒体から情報をせっせと集め、Googleのスプレッドシートでベビー用品の購入リストを作成し、出産までのTodoをちまちま整理している傍ら、エビデンスに基づいて行動したい夫は、「科学的に正しい子育て」とか「医者が教える赤ちゃん快眠メソッド」といったタイトルの本をAmazonで購入して読んでは子育てのイメトレをしているようだった。

実際の育児は予想できない事態の連続だと思うのだけど、あふれまくっている子育て情報の渦から少しでも根拠が確かなものを採用しようとする夫の心がけにはほんとうに感心していて、ありがたいなと思う。
最新のテクノロジーやサービスを使って楽できる部分はどんどん活用していくという方針は夫婦間で共通しているので、便利家電の購入とか、ネットスーパーの利用とか、産後ヘルパーの活用とか、できることは一通りやるつもりでいる。(この辺は、産後にちゃんと記録しておけるといいなと思う)

ちなみに、現在の夫の主な関心は効率的な授乳・寝かしつけの方法を身に着けることのようで、睡眠コンサルタントの「ねんねママ」なる人物の言うことに素直に従い、寝室の窓に遮光用の黒い布を仕込んで暗さを確保したりだとか、夫なりのスタイルで色々準備をやってくれている。サンキューである。


産休中のルーティン

産休に入ってからのここ1カ月、何の予定もない平日のわたしの一日のルーティンはこんな感じである。

5時、ズンドコ胎動と尿意により起床。とりあえず目が覚めてしまうので、妊婦御用達のラズベリーリーフティーを飲む。

7時、出勤する夫を見送り朝ごはん。朝早い時間なら何を食べても許されると思っているので、チョコレート系の甘いパンはここで食べておく。ドラム式洗濯機とお掃除ロボットを稼働。

8時、ラヴィットを見始める(今一番おもしろい生放送大喜利番組だと思っている)。
たいていオープニングトークが終わったあたりでソファで寝落ちし二度寝開始。

10時-11時の間にふたたび目覚め、そのままオンラインのヨガレッスンを受ける。レッスンのない日はyoutubeでまりこ先生のマタニティヨガ(*1)をやる。

お昼ご飯は家にあるものを適当に食べる。撮りためたテレビ番組やアマプラ、TVerを見たりする。


天気のよい日は14時頃から近所にお散歩に出かける。医者から歩けと言われているので、隣駅のショッピングモールまで歩いて行ってみたり、仕事関連の本をカフェで読んだり、おやつや翌朝たべるパンを調達したりする。
日の入りまでには帰宅し、晩御飯をつくり、なるべく20時までに食べ終わるようにする。

夫が帰ってくるまであつまれどうぶつの森をプレイしたり、寝落ちして見逃したラヴィットの残りを録画で見たりする。

23時、2セット目のヨガに取り組んだあとお風呂。
風呂あがりは会陰や乳首を義務的にいじくりまわす(れっきとしたマッサージである)
出過ぎたおなかに高保湿のローションを塗りたくり、冷え防止の腹巻とむくみ解消の着圧ソックスを装着。
寝室の加湿機と暖房をつけ、湿度50%以上、室温20℃になるように就寝環境を調整する。

24時以降、ねむくなるまで、間接照明の中で読書。
長年の積読であったジョン・ウィリアムズの「ストーナー」を最近やっと読み終えたので、今は川上未映子氏の子育てエッセイとか、夫が買ってきた科学的根拠に基づいた育児本を読んでいる。


だいたい1時半くらいまでに就寝。おなかがでかくて寝ポジを定めるのが大変なので、IKEAのサメのでっかいぬいぐるみを股に挟み、シムス体位で寝る。

~以降、金曜日まで繰り返し~


たまに人と会ったり、LINEで電話したり、週一で検診に赴いたりしているけど、基本的に一人のときは徒歩圏内しか移動しないようにしているので、もっぱら日々こんな感じである。
なんか、こんなに規則的に毎日同じ生活をしていることって人生であんまりなかったので、あらためて文字にしてみたものの、実にしょうもないというか、もっとやることあるやろ、という感じはするけど、時間ができたからといって、お裁縫を頑張ったり、パン作りに目覚めたりすることは、まったくなかった。市販のものが基本的においしいから仕方ない。
今日は、牛乳をあっためて「もと」を入れて冷やし固めるだけで作れる杏仁豆腐をタッパーいっぱいに作ってみた。

出産前の最後の平和という感じがする。


新たな属性が付与されるということ

きっと出産後はすべての世界ががらりと変わってしまうから、子どもが生まれる前の今の気持ちをなるべく正直に言葉にすると、もうすぐ夫と二人で出かける日々も終わるんだなとか、ゆっくりお風呂に入ったり、一人の時間を確保することも難しくなるんだろうなとか、そうした今までの当たり前がなくなってしまうことに、ここ最近ずっと寂しさを感じていた。

安定期の途中、突然思い立って、翌日が休みの日の仕事終わりに会社からそのまま大浴場付きのビジネスホテルに泊まり、翌日一人で劇団四季の演劇を観に行ったことがあって、思い付きで行動ができる自由をかみしめたことがあった。

たぶん、子供が生まれたらそれはそれで、新しいタイプの楽しさや幸福が待っているのだろうと思う。
それでも、これまで自分の裁量で自由に過ごせた一人の時間、友達との時間、家族との時間は尊いものだったし、無駄なものはひとつもなかった。何に感謝すればいいのかわからないけど、妊娠中も含めて、本当に、今までずっと楽しかった。

ちょうど、最近ネットで見た記事(*2)の中で、お笑い芸人の空気階段・鈴木もぐら氏が「子どもが生まれた瞬間『自分の物語が終わった。俺はもうサブキャラ』と感じるようになった。ドラえもんで言ったら、もうのび太のおやじ。たまにしか出てこない人。」という旨のことをテレビ番組で話していたというのを見て、ものすごくその言葉がわかるなと思った。

これまでは自分の名前とか、あだ名とかで呼ばれていたところに、新たに「〇〇のママ」という属性が付与されるということ、そこには自分の名前の痕跡はなくて、ただ、子供の名前が先にきて、その母親であるということ、そういう風に呼ばれることが増えるであろうことに、自分自身のアイデンティティの揺らぎみたいな、そういうものを感じてしまう。もちろん、そんなものはすぐに慣れるのだろうけど。


でも、私たち夫婦が望んで、親になりたくて、願いどおりに授かった奇跡のような命であることには間違いないのであって、本当に、感覚としては、「母親にさせていただく」というような、恐れ多い気持ちでいっぱいである。

ベビー用品が家の中に増えていくたびに、生まれてくるわが子との生活を想像し、「こんなことを一緒にできたらなあ」とか、色々、未来に対する楽しみや期待も増していっているのも事実である。


ただ、これから人生が子どもを中心に回るとしても、自分らしさや、「こうありたい」みたいな軸のようなものは、忘れずに持っていたいなあ、と思う。
向上心のような立派なものが、確固としてあるわけじゃないけど、ひとりの私という人間としての基本的な欲求とか願望とか、そういうものはなるべくつぶさずに・諦めずに生きていけるといいな…と、取り止めもなく、そんな風に思う。


とにかく、わが子よ、君に会えるのを楽しみにしているぞ。


*1 まりこ大先生のマタニティヨガ
https://www.youtube.com/playlist?list=PLzBAwob7UcDfEewc1YCvNo-pxv2-jKkHF

*2 鈴木もぐらの対談記事「空気階段・鈴木もぐら、子どもが生まれた瞬間「自分の物語が終わった。俺はもうサブキャラ」
https://www.fujitv-view.jp/article/post-467061/3/

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