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きれいなムカデ(筆者:あおいみかん)

ぼくは、今までの人生で不思議な体験をいくつかしているが、その体験は人に話してもあまり信じてもらえないか、真剣に聞いてくれる人がいなかったために、今では人に話すことは無くなった。

その中の一つに「きれいなムカデ」との出会いがある。


よみがえった記憶

先日、子どもと昆虫博に行ってきた。
そのとき、その「きれいなムカデ」との出会いを思い出した。
ずっと忘れていた記憶が蘇ったのだ。
ぼくは子どもと標本の虫たちを見ていたが、ぼくの頭の中はあの時の光景を見ていた。

それは、あまりにも昔で、何歳だったかは思い出せないが、小学生だったことは確かだ。
ぼくたちは、いくつかの空き地を遊び場にしていた。
もう思い出せないが、その一つ一つに名前がついていた。

その中の二つの空き地で、ぼくはそれを見た。

それは、とてもきれいなムカデだった。
半透明の乳白色の体に、水色やピンクなどの淡い色の斑点があった。
体調は10センチほどで体の幅は2、3センチだった。

突如、ぼくの前に現れたそのムカデは、あっという間にゴロゴロとした石の中へと消えて行った。
ぼくは、そのムカデのきれいさにあっけに取られていた。
ハッとしてムカデが消えて行った場所の石ころたちをどかしたが、ムカデを見つけることはできなかった。

そのムカデのことを夕食時に親に話したが、「きれいな模様の虫は毒を持っていることがあるから、さわってはいけない」という言葉が返ってきただけで、とくに興味を示してはくれなかった。

再会

2、3日後ぼくはもう一度そのムカデと出会った。
その場所は一度目の場所とは全く違うところで、砂利の駐車場のような場所の中だった。
友人と遊んでいた時にまた突如としてそのムカデはぼくの足元に現れた。
「あのムカデだ!」
ムカデは、あっというまに石と石の隙間にその体を滑らせるように入って行った。ぼくは、あわててその石をどけた。
しかし、もうすでにそこにムカデの姿はなかった。辺りの石たちを次々にどけていったが、とうとう見つけることはできなかった。

一体なんなんだとぼくは思った。

それから、ぼくは、図書館の図鑑で調べたり、大人に聞いていたりして、そのムカデの正体を知ろうとしたが、そんなムカデは図鑑には載っていなかったし、知っている人にも出会うことはなかった。

ムカデの正体

いつのまにかそのムカデのことはすっかり忘れていた。
だけど、ぼくは昆虫博にいった日から、あのムカデのことを何度も思い出している。
まるで、あのムカデがぼくにその存在を知らせるかのように。

今は、あの頃とは違いインターネットがある。
早速ネットで調べてみた。
しかし、結果は図鑑にあたった時と同じで、ネット上にもその姿は見つけられなかった。

大人になってからぼくはあのムカデのことを、『となりのトトロ』のトトロのような存在だったのかもしれないと思うようになった。
トトロのように可愛くはないけれど……。
子どもにしか見えない。
しかも運が良ければという条件付きの存在。

昆虫博の帰り道、ぼくは子どもにそのきれいなムカデの話をした。
「ふ~ん」とあまり興味を示さなかった子どもにぼくは言った。

「きれいな模様の虫は毒を持っていることがあるから、さわっちゃダメだよ」

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