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『ソー&ロキ:ダブル・トラブル』刊行記念! グリヒル先生インタビュー

凸凹兄弟、ソーとロキが巻き起こすドタバタを描いた『ソー&ロキ:ダブル・トラブル』が4月21日に刊行されました。これを記念して、アーティストのグリヒルさんにインタビューを実施! 制作の舞台裏を語っていただきました。

取材・文:三浦修一(編集部)

グリヒル
作画担当のササキと彩色担当のカワノで構成される日本のイラストレーターユニット。DCで『スーパーマン・スマッシュ・ザ・クラン』、マーベルにて『パワーパック』『グウェンプール』などを手がけている。

『ソー&ロキ:ダブル・トラブル 』2,420円(10%税込)

「ダブル・トラブル」シリーズ


──『ソー&ロキ:ダブル・トラブル』は『スパイダーマン&ヴェノム:ダブル・トラブル』(ヴィレッジブックス刊)に続く「ダブル・トラブル」シリーズ2冊目ですね。このシリーズのアートを担当することになったきっかけは?

ササキ:『グウェンプール』と『ワスプ』(共にヴィレッジブックス刊)のアートを担当した後、マーベルの編集部から「スパイダーマンとヴェノムのミニシリーズを担当しないか?」というお話をいただいたんです。その時はまだライターが決まっていなくて「誰と組みたい?」と編集者に聞かれたので、何人か候補を挙げました。でも実は、その時にマリコ・タマキさんのことはまだあまり意識していなかったんです。

カワノ:「ダブル・トラブル」シリーズはコメディ作品で、マリコさんには“コメディ作家”というイメージがなかったんですね。

ササキ:編集者から「マリコはどう?」と提案されて、初めて組むことになりました。

──グリヒルさんのアートありきで、それに合うライターを探す、という人選だったんですね。その時点で『ソー&ロキ』の刊行も決まっていたんでしょうか。

カワノ:そうですね。「ダブル・トラブル」シリーズは、最初に刊行された『スパイダーマン&ヴェノム』以外にもいくつかの候補があって、『ソー&ロキ』もその候補の中のひとつでした。

──『ソー&ロキ』の制作の流れを教えてください。

ササキ:マーベル作品はいつも同じ流れなんですが、まずライターから原稿が送られてきます。それを日本語に翻訳して、私がレイアウト(構図)→ペンシル(下書き)→インク(ペン入れ)まで担当します。

カワノ:それに私がカラーリング(彩色)して提出、という流れなんですが、基本的にすべての工程でマーベル編集部のチェックが入ります。ただ、インクのあとはすぐにカラーに入るので、インク→カラーの工程ではチェックが入らない場合がほとんどですね。アートが仕上がったら編集部とライターが確認する、という流れです。

ソーの登場シーン

マリコ・タマキの仕事スタイル

──マリコ・タマキさんとお仕事をしてみていかがでしたか?

カワノ:マリコさんの作品は、何気ない日常を扱いながら根底にジェンダーに関してなど深みを感じさせる作品が多い印象だったのですが、「ダブル・トラブル」シリーズでは完全にキャラクターメインで明るく楽しいコメディに振っていて、幅広い作風を書けるライターなんだなと思いました。

ササキ:今まで多くのライターさんと組ませていただきましたが、マリコさんは組んだことのないタイプのライターでしたね。プロットは最小限で、セリフも簡潔な感じです。大まかなストーリーの流れは変わらないんですが、アートを描いた後でセリフを変えてきたり、なかなか変化球のあるライターだなと感じました。セリフが書いてなくて「ここは後で考えます」みたいなこともありましたね(笑)。あまり細かい指示はせず、アーティストに任せてくれるタイプというか。

カワノ:最初に「1ページに何個コマがあって、こういうシーンで……」という指示はあるんですけど、マリコさんはアートができてからセリフをどんどん変えていくんです。

──最初の脚本の時点で、セリフなどをかっちり決めるタイプのライターも多いんでしょうか?

カワノ:かっちり決める人もいますし、脚本を読んだ時点で情景が浮かんでくるようなライターもいれば、セリフで長々と説明する人もいて、千差万別ですね。マリコさんの脚本は余白が大きいので、自分たちで自由にキャラクターを動かせました。

ササキ:他のライターさんとの仕事でも、こちらから提案してキャラクターの動きが変わることはあるんですが、マリコさんはアーティストの想像力に任せてくれている感じでした。いつもそういうスタイルなのか、「ダブル・トラブル」の時がたまたまそうだったのかはわからないですけどね。

先が読めない展開

──印象に残っている制作中のエピソードがあれば教えてください。

カワノ:アメコミってどんなセリフが入るのか先に決まっているので、「このへんにセリフが入るだろうな」という空間を空けておくんですけど……

ササキ:マリコさんの脚本にセリフがあまり詳しく書いてなかったページは「どうしよう?」ってなりましたね(笑)。

カワノ:あと、今回はロキが魅力的なキャラクターとして登場するんですけど、彼を動かすのが楽しかったです。

ササキ:ロキは以前から描きたかったキャラクターなので、今回メインで登場したのがうれしかったですね。

ロキの登場シーン

──確かにロキがすごくいきいきしていて、ソーとのどつき漫才のようなやりとりが楽しかったです。

ササキ:そうですね(笑)。思いっきりギャグ方向に振って、自由に描きました。

カワノ:雰囲気をかなりカートゥーン寄りにしていますね。トリックスター感全開というか。

──全く先の読めない展開でした。

ササキ:それは私たちもそうで、実は1話目の脚本をもらった時点で、今後の展開がわからなかったので、レディ・ソーとレディ・ロキが登場することも知らなかったんです。最初に完結するまでのプロットをくれるライターさんもいるんですが、マリコさんは1号ずつ脚本を送ってくるタイプなので。途中でソーとロキが穴に落ちるんですが、穴に落ちた彼らがどこに行くのか、私たちも知らなかったんです(笑)。

カワノ:「とりあえず落としましょう」っていう感じでした(笑)。

女性版ロキとソー
二人が落ちていく場所は……?

──えっ、そうだったんですか!

カワノ:ストーリーを知るより先にカバーアートを作る場合もあったので、#2のカバーはどんな話なのか知らない状態で描きました(笑)。

ササキ:「この話はどこに向かうんだろう?」って思いながら龍を描いたんです。

#2カバーアート

マーベルとの仕事と、その変化

──では、グリヒルさんの普段のお仕事について聞かせてください。マーベルでは自由に創作ができると思いますか? それとも制約が多いと感じますか?

カワノ:マーベルに関しては、キャラクターのカラーを守っていればある程度外見が変わってもいいし、むしろ「どんどんアイデアを出してほしい」という雰囲気です。

ササキ:アート面での制約はほとんどないですね。自由にやらせてもらえます。

カワノ:最近変わってきたな、と感じるのは、人種に関する細かい指示が増えたことです。昔はモブキャラに関する指示はなかったんですが、今は脚本に「日系」とか「韓国系」「インド系」という具体的な指示があったりします。もちろん全キャラにというわけではないですが。カラーリングに関しては、「黒人の肌の色指定」とか「唇を強調しすぎないように」といった指示が増えましたね。昔はそういうことはなかったんですね。

ササキ:過去に担当したオールエイジ(全年齢向け)の作品だと、暴力描写に関してはシビアで、「銃をリアルに描いてはいけない」とか「刃物の先端を描いてはいけない」という制約がありました。ウルヴァリンの爪の先端がコマの外に出るように配慮したりとか(笑)。最近はそういうことがなくなってきて、人種やジェンダーに気を遣うことが増えた印象です。

カワノ:ミズ・マーベル (カマラ・カーン)の登場以降は特にそう感じるようになりましたね。

※編注:カマラ・カーンの初登場は『キャプテン・マーベル』#14(2013年8月号)

グリヒル流の仕事術と、これからについて

──仕事をする際、クリエイティビティを上げる秘訣があれば教えてください。

ササキ:コーヒーを飲むことかな。

カワノ:インスタントですけど(笑)。

ササキ:あと、私は特撮ファンなのでやる気をブーストしたい時は特撮ソングをかけます。「やらなきゃ!」という時の最終手段ですね。ただ、最初のレイアウト作業の時は無音じゃないとできないんですけど。

カワノ:私は集中したい時はポッドキャストを聴くことが多いですね。YouTubeとかで映像があると気が散ってしまうので。

──今後、仕事をしたいライターはいますか?

ササキ:DCの『スーパーマン・スマッシュ・ザ・クラン』(小社刊)で組んだジーン・ルエン・ヤンさんの脚本は本当に素晴らしいので、また一緒に仕事をしたいですね。彼の脚本は読んでいるだけで絵が浮かんでくるし、涙がでてきてしまうんです。本当に泣きながら絵を描きましたから。

カワノ:機会があればマーベルでもジーンさんと一緒にやりたいですね。彼は作品によってはアートも担当しているので、脚本の情景描写がすごく上手で、アーティストに伝わりやすい言葉で書く人なんです。

──今後、コミックを描いてみたいマーベルのキャラクターは?

ササキ:ムーンガールとデビルダイナソーは描いていて楽しそうだなと思います。

カワノ:私はパワーパックをまた描きたいのと、ファンタスティック・フォーが好きなので、描いてみたいですね。

──今後予定されているアメコミの仕事について、可能であれば教えてください。

カワノ:マーベルではサメのジェフを主人公にした『イッツ・ジェフ』の続きを描く予定です。セリフがないので、誰でも読んでいただけると思います。

──最後に、読者にメッセージをお願いします。

ササキ:『ソー&ロキ』は読み切り作品で、予備知識がなくても気楽に楽しめるので、ぜひ読んでみてください。

カワノ:アメコミの入り口としてもとっつきやすいと思います。

──ありがとうございました。「ダブル・トラブル」シリーズの続きも楽しみにしています!