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【アーティストインタビュー】 『スーペリア・フォーズ・オブ・スパイダーマン:嘘つきは泥棒(ヴィラン)のはじまり』

3月11日に、小社より『スーペリア・フォーズ・オブ・スパイダーマン:嘘つきは泥棒(ヴィラン)のはじまり』が発売されます。そこで編集部では、本作の作画を手がけたコミック・アーティストのスティーブ・リーバー氏にコンタクトを取り、オンライン・インタビューを実施。普段はなかなか知ることができない、アメコミ制作の貴重な裏話をお聞きしました。
取材・文:ケン・U・クニタ
構成:三浦修一(編集部)

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「とにかくマーベルが“止めろ”って言うまでジョークを盛り込んでやろう」と思って描き始めた

──なぜ『スーペリア・フォーズ・オブ・スパイダーマン』(以下:『スーペリア・フォーズ』)を描こうと思ったのですか? 何かインスピレーションはあったのでしょうか?

インスピレーションというよりも、もともとは「単なる仕事」だったんだ。ちょうどマーベルでホークアイのミニシリーズを描き終わったところで、その作品は人気もあったし、評価も高かった。で、編集部の一人が「同じような読者層に届くシリーズを作れないか」と聞いてきたんだ。当時のマーベル・コミックには、とにかくスケールの大きな、映画のようなストーリーを描くアーティストは大勢いたんだけど、僕はそういうタイプじゃなかったんだよね。マイナーなキャラクターに注目したり、イケメンや美女じゃないキャラクターとか、能力的にもピンこないようなキャラクターを描くアーティストがいなかったんだ。だから、僕のところに話が来たんだと思う。

──本作はコメディ色が強いのが特徴ですが、もともとコメディが得意分野だったのですか?

いや、実は最初にコメディっていう設定があったかどうかも曖昧なんだ。脚本も1回につき3〜5ページ程度しか来なくて、自分で面白いと思ったところから描き始めた。もともと僕はコメディ系ではなく、クライムストーリーのコミックアーティストなんだ。でも「とにかくマーベルが“止めろ”って言うまでジョークを盛り込んでやろう」と思って描き始めた。結局、止めろとは言われなかったんだけどね(笑)。脚本を担当していたニック・スペンサーが僕が面白おかしく描いているのを見て、彼も脚本を面白く書き始めたんだ。そうして、お互いがより面白く描いてやろうってことになっていったんだ。

スーペリアサンプル1

──なぜブーメランを主人公に選んだのですか?

脚本家(ニック・スペンサー)が選んだんだよ。もともと(新シニスター・シックスのような)ヴィランのグループは存在していて、ブーメランはそのメンバーの一員だったんだ。たぶんニックが、あんなばかばかしい能力を持ったスーパーヴィラン達(を主人公にする)というアイデアに影響を受けたんだと思う。あとはオーストラリア生まれの男(ブーメラン)がニューヨーク・メッツのピッチャーになって、そこから暗殺者になるっていうギャップにもね。そもそも、主人公がブーメランになったのは、彼はマーベルが守る必要のないキャラクターだったからだよ。ブーメラン達が主人公の映画なんて、当分の間は作られないだろうしね。だから、僕たちは自由にキャラクターをいじることができたんだ。そして、読者にも楽しんでもらえたんだよ。

スーペリアサンプル2

──『スーペリア・フォーズ』の中で最も好きなキャラクターは誰ですか?

ブーメランは描いていて楽しかったよ。というのも、僕が今まであった中でも面白い、と思う人たちは、完全にソシオパス(反社会性パーソナリティ)なんだ。そういう人間である彼を描いたり、彼のことを考えたりすることはとても面白かった。ショッカーも描いていて楽しかったな。ショッカーは(キャラクター性に)コントラストがあるんだ。スパイダーマンに怒りをむき出しにするスーパーヴィランとして描写されることもあるけど、僕たちが描いたショッカーは、もう犯罪に手を染めたくなくて、仕事の分前をもらったらニューヨークを出て、どこか暖かいところに引っ込みたいと考えているんだ。

──ジャニス(ビートル)のキャラクターがストーリーの中でどんどん変わっていきましたが、何か意図はあったんですか?

ニック・スペンサーが、シナリオを書きながら設定を決めていったんだと思う。正直に言うと、描き始めた時点ではキャラクターの細かい設定についてはほとんど何も決まっていなかったんだ。唯一最初から決まっていたのは、ショッカーのエピソードくらいかな。『スーペリア・フォーズ』を描き始めた頃、読者はおそらく誰もジャニスのことなんて知らなかったと思う。このストーリーが始まる前は、彼女は15コマくらいしかコミックに登場したことがなかったんじゃないかな。

──『スーペリア・フォーズ』で最も好きなシーンはどこでしょうか?

そうだな、僕の好きなシーンは……原稿を持ってきたから、それを見てもらった方が早いかな。

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僕はこのシーンがあるとは思っていなかったんだよ。さっきも言った通り、脚本が1度につき数ページしかこなかったんだけど、このシーンが含まれているのを見て、驚いた。予想外だったからね。笑っちゃったよ。笑いすぎて、絵が描けなかったくらいね。あとは、そうだな……パニッシャーが出てくるところかな。

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ここは唯一、僕の本来の姿である、クライムストーリー・アーティストとしての一面と、コメディアーティストとしての面を同時に出せたシーンだからね。あとは、ある意味ロマンティックでシニカルでもある、ブーメランとその彼女の会話も好きだな。特に面白かったのは、あのシーンを描くにあたって、友達にモデルになってもらったんだよ。実際に目の前に立ってもらって、演技をしてもらい、その写真を撮ったんだ。コマに合わせてね。で、友達の写真をそれぞれのシーンに描き起こしていった。モデルをやってくれた友達も、どんどん面白くなっていってね、それもすごく良かったんだ。

──ブーメランのガールフレンドは作中では本名が明かされませんが、彼女に名前はあるんですか?

いいや。実は、彼女を登場させてから6話くらい話が進んでから、名前を決めていないことに気がついたんだ。そこで、「ブーメランはどうしようもない男で、彼女の名前すら聞いていない」という設定を思いついて採用したんだよ。

ブーメランが仲間を救出するシーンは『ブレイキング・バッド』を参考にした

──本作のイースターエッグ(隠し絵)について少しだけ教えてください。

イースターエッグはたくさんあるよ。例えば、この作品の中でロシア語で書いてある言葉は全てジョークになっている。僕は高校の時にロシア語を勉強していたからね(笑)。あとは、いろんなところで箱に入っている猫が出てくるんだけど、あれは僕の飼い猫なんだよ。

──背景にロックジョーのポスターもありましたが、特に意味はないんですか?

そうだね。まぁ、だいたい描いてる時間が夜中の1時とか2時だから、あまり寝てなくて、何でもおかしく思えてきちゃうと、そういうものを描き込んじゃうんだよね。

──参考にした映画やテレビシリーズはありますか?

テレビシリーズは大きなものだと、3つは確実に思い当たる番組があるよ。まずヴィランが主役のドラマ『ブレイキング・バッド』(2008〜2013年)。ブーメランが警察に捕まった仲間を救出するシーンがあるけど、あそこは『ブレイキング・バッド』を参考にしているよ。それと、たぶん多くの読者は気にしなかったと思うけど、ブーメランがソファに座っているシーンの部屋の壁には『マッドメン』(2007〜2015年)のポスターを描いた。そして3番目の作品は、これはエンディングまで取っておくよ。3冊目の終わりまで、ぜひ楽しみにしていてね。

──このコミックに登場するスパイダーマンは、スーペリア・スパイダーマンですか?

それはなんとも言えないな。僕がこのコミックの中でスパイダーマンを描くときは、それぞれのキャラクターが、自分が遭遇したスパイダーマンのことを思い出しているだけなんだ。だから、スパイダーマンのマスクをかぶっているのがドクター・オクトパスか、ピーター・パーカーかということは大きな問題じゃないんだよ。

──続編の予定はありますか?

直接的な続編はないね。でも、ニック・スペンサーはスパイダーマンのライターでもあり、マーベルで『アメイジング・スパイダーマン』を手がけているんだ。そこでブーメランは重要なキャラクターなんだよね。たしか、6ページくらいだったかな。『スーペリア・フォーズ』のストーリーがそのスパイダーマンのコミックに出てくる。だから、それが続編といえば続編かな。

──本作以外で、スティーブさんが注目しているキャラクターがいたら教えてください。

あえていうなら、マンシングという沼に出没するモンスターがいるんだけど、彼を描いてみたいね。あとはサブマリナーこと、プリンス・ネイモアかな。彼は海底王国の王なのに、水着を着たケンカっ早いロクデナシなんだよね。

辰巳ヨシヒロのコミックはお気に入りだね

──日本のコミックで好きな作家・作品は?

まず、谷口ジローが好きだ。それからゾンビコミック『アイアムアヒーロー』の花沢健吾。もちろん手塚治虫や伊藤潤二もファンだよ。伊藤潤二はアメリカで大人気だね。『子連れ狼』(小池一夫・作/小島剛夕・画)も好きだ。あと、僕のお気に入りは辰巳ヨシヒロだね。彼の作品は特にインパクトがある。僕はありふれた日常の話が好きなんだけど、彼はそういうストーリーを描くのがうまいよね。短編で悲哀に満ちた話、現実世界のエピソードとかね。

──日本でご自身のコミックが発売されると聞いて、どう思いましたか?

興奮したし、同時に心配にもなったよ。日本は世界一のコミック文化を有している国だからね。本当にたくさんの種類やジャンルのコミックがあるし。読者には、本当にたくさんの素晴らしい選択肢があるわけだから。翻訳も難しいと思うよ。ユーモアの部分とかね。英語で意図した意味の翻訳になっているのか、心配だったね。でも、それと同時にすごく興奮もしたよ。世界で最も大切な読者がいるマーケットだからね。

──日本のファンにメッセージをお願いします。

コミックを楽しんでください。心からお伝えします。本当に長い時間をかけて、一生懸命に作り上げた作品なので。他のマーベルコミックでは、まず伝えられないようなストーリーですから。そして何より、『スーペリア・フォーズ』が世に出て、こんなに時間が経っても読者がいてくれたことは、本当に嬉しいです。

──ちなみに、今取り組んでいる仕事は?

最近はDCコミックで『ジミー・オルセン』を描き終えた。これはマット・フラクションがライターのコメディなんだ。『ハーレイ・クイン』『スーパーマン』も描き終えた。今はインディペンデントで、グレッグ・ルッカ原作の『オールド・ガード』っていう作品を描いているよ。

──楽しみにしています。今日はありがとうございました。

僕の作品を日本の読者に届けてくれて、本当にありがとう!

◆プロフィール
スティーブ・リーバー……1993年、DCコミックス刊行『ホークマン』でアーティストとしてデビュー。その後1998年に連載が開始された『ホワイトアウト』でその地位を確立した。2000年に『ホワイトアウト:メルト』でアイズナー賞を受賞し、同作品は2009年にケイト・ベッキンセール主演で映画化もされた。

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