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【おしえて!キャプテン】#29 アメリカ先住民のマーベル・ヒーローたち

キャプテンYことアメコミ翻訳者・ライターの吉川悠さんによる連載コラム。今回は読者の皆様からいただいた質問に回答していただきました!

モホーク族の新ヒーロー

連載コラムも29回目。
今回は、質問箱に寄せられた話題からピックアップしてお送りします!

配信アニメ『ホワット・イフ…?』第2シーズンにアメリカ先住民のヒーローが登場するというニュース、見逃していたので詳しく確認しました。
同タイトルは、歴史がどこかで違う並行世界を舞台とするアンソロジーですが、話題にあがっているヒーローはヨーロッパ人到来前のアメリカにテセラクト(あるいはインフィニティ・ストーンのスペース・ストーン)が墜落した世界の出身ということです。テセラクトは湖を宇宙へのゲートと変え、モホーク族の若き女性カホーティに力を与える冒険が始まる……という概要が発表されていました(彼女の名前のスペルはKahhoriですが、発音はKAH-HORTIだそうです)。

このエピソードについては、専門家のアドバイスのもとに、モホーク族の文化を全面的に取り入れた話作りをするということで、なかなか興味深いことになりそうです。それ以上に興味深いのは、ひょっとしたらついにマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)初めてのオリジナル・ヒーローが登場するかもしれないというところですね。フィル・コールソンを除けばですが……。コールソンや、アニメ出身のファイアスターのようにコミックに逆輸入される可能性もあるので、要注目キャラクターと言えるでしょう。

またアメリカ先住民のマーベル・ヒーローといえば、MCUではすでにアラコア・コックスが演じるエコーことマヤ・ロペスが、配信ドラマ『ホークアイ』に登場しています。同作で凄まじい気迫を見せた彼女が主役となる配信ドラマ『エコー』は、今年2023年の公開の予定……だったのが、遅れそうという報道も出ているようです。非常に楽しみなんですけどね……。

コミックにおける先住民ヒーローたち

さて、マーベルのコミックにおけるアメリカ先住民のヒーローとなると、2020年に刊行された『マーベル・ボイセズ:インディジェナス・ボイセズ』#1と2022年に刊行された『マーベル・ボイセズ:ヘリテイジ』#1が、いい導入になりそうです。この2冊は様々なアメリカ先住民キャラクターを紹介するアンソロジー。興味を持った読者向けに、巻末には他のコミックの簡単なガイドも掲載されています。

中でも『インディジェナス・ボイセズ』の冒頭ではウォッチャーが語る形で、それまでマーベル・ユニバースに登場してきた主なアメリカ先住民ヒーローたちが紹介されています(こういう企画のとき、ウォッチャーは本当に便利ですね……)。

『マーベル・ボイセズ:インディジェナス・ボイセズ』#1より。

紹介されているのは、左上から反時計回りに:

  • ワイアット・ウィングフット:ファンタスティック・フォーの良き友。

  • レッドウルフ:マーベル初のアメリカ先住民のヒーロー。何人かに名前を受け継がれた。

  • サンダーバード:X-MENの勇士。加入直後に戦死したが、近年復活した。

  • シャーマン:アルファ・フライトのメンバーで強力な魔術師。カナダ先住民を代表するヒーロー。

  • スノーバード:アルファ・フライトのメンバーで女神。カナダ土着の生き物に変身する。

  • アメリカン・イーグル:部族を守るために戦う超人戦士。

  • ミラージュ(ダニ・ムーンスター):ニュー・ミュータンツのメンバー。幻影を作り出す。

  • タリスマン:アルファ・フライトのメンバーでシャーマンの娘。父親を超える魔力を秘める。

  • エコー:視認した相手のあらゆる動きを模倣できる最強レベルの暗殺者。

  • リスク:無機物を圧縮し、投射する能力を持つミュータント。

  • シルバーフォックス:再生能力を持つミュータント。ウルヴァリンの恋人だった。

  • ピューマ:部族が知恵を結集し、10世代かけて生み出された獣人戦士。

  • フォージ:X-MENの1人で、工学と発明の才能はトニー・スタークに匹敵する。

  • ポータル:テレポート能力を持ち、異星技術で作られたアーマーを着て戦う。

  • ウォーパス:サンダーバードの弟。怪力を誇りXフォースの1人として活躍する。

  • ブラック・クロウ:事故で車椅子生活を余儀なくされているが、神秘の戦士へと変身する。

…といった様々なヒーローが紹介されています。

また上記のページを描いた、クララム族出身のアーティスト、ジェフリー・ヴェレゲは『インディジェナス・ボイセズ』刊行にあわせてバリアントカバー企画も担当しました。こちらではマーベルヒーローたちをアメリカ先住民アート風にアレンジし、鮮烈な姿で描き出してます。筆者は普段『アメイジング・スパイダーマン』誌は電子で購読しているのですが、このバリアントカバーはかっこよすぎてわざわざ紙で予約しました。

2020年の「ネイティブ・アメリカン・トリビュート・バリアント」企画で発表されたカバー群。

ちなみに、「インディジェナス(Indigenous)」とは「(その地域)原産の、土着の、先住の」と言った意味で、自分がTwitter上でフォローしている英語圏のアカウントのあいだでは「ネイティブ・アメリカン」と「インディジェナス・ピープル」という呼称が半々くらいで使われています。その上で、最近では「十把一絡げにせず部族名を用いるべきだ」という考え方も出てきているようです。この記事でもそれに従ってみようかと思ったのですが、紹介したキャラクターの部族に架空のものが混じっており、同列に扱うべきか決めあぐねたので断念しました。

時代の変化と共に

このようにアメリカ先住民のキャラクターは昔から登場してはいるのですが、一方で時代の変化にあわせステレオタイプを脱しようと模索を続けていることもうかがえます。例えばアメリカン・イーグルは登場時はいかにも「酋長」のようなコスチュームだったのですが、2000年代にひさびさに現れたときは、いわゆるバッドアスなバイカーのようなキャラにイメチェンしています。

左から80年代、90年代、2000年代のアメリカン・イーグル。なにがあったのかと思うが、
彼自身も2007年の『サンダーボルツ』#112で昔のコスチュームを見て
「オレはなんでこんなの着てたんだ…」と呆れている。

また、存在の有無や描かれ方とは別に、出番の問題もあります。彼ら・彼女らの個人タイトルのコミックはいまだに少ないのが現状です。先ほどのウォッチャーが紹介したキャラクターたちでも、リスクやブラック・クロウはまだ20回も登場していません。だからこそ、フォージやムーンスター、ウォーパスがチームの一員としてプレゼンスを高めてきたことが重要だったと言えます(奇しくも全員X-MEN関係者ですね)。冒頭で挙げたように、カホーティやエコーを打ち出したのも、そうした試みの一環と考えられます。

上記で紹介したキャラクター以外にも、アメリカ先住民のヒーローたちは現在進行形で追加されています。チャンピオンズに加わったカナダ先住民(イヌイット)のスノーガード、19世紀から来たアパッチ族出身の至高魔術師、スピリットライダーなどが挙げられます。後者のスピリットライダーこと、アパッチ族出身のクシャラはデザインが非常にバッドアスなので、個人的には特に気になるヒーローですね。

19世紀の至高魔術師クシャラ。現代でも活躍する。

こうしてマーベルの世界が広がっていくだけで、新しい視点から物語を楽しむ面白さが増していくので、今後も注目していきたい要素です。

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◆筆者プロフィール
吉川 悠
翻訳家、ライター。アメコミ関連の記事執筆を行いながらコミック及びアナログゲーム翻訳を手がける。訳書近刊に『コズミック・ゴーストライダー:ベビーサノス・マスト・ダイ』『スパイダーマン:スパイダーアイランド』(いずれも小社刊)など。Twitterでは「キャプテンY」の名義で活動中(ID:@Captain_Y1)。

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