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『スパイダーバース:スパイダーゼロ』発売記念!東映版スパイダーマンの魅力に迫る!

7/25に「スパイダーバース」シリーズの最新刊『スパイダーバース:スパイダーゼロ』ShoPro Booksオンラインストア他、一部店舗限定で流通限定で発売になりました!

マルチバース存亡の危機を救うために、主人公のマイルス・モラレスが様々な次元で冒険を繰り広げる本作には、映画『スパイダーバース』シリーズでもお馴染みのキャラクターから、本作がお披露目となるキャラクターまで、数多くのスパイダーヒーローたちが登場します。

そんな特徴的なスパイダーたちで溢れるなか、ひときわ異彩を放つキャラクターといえば、やはり「東映版スパイダーマン」でしょう。

彼は、1978年から1979年にかけて、日本で製作・放映された特撮テレビドラマ「スパイダーマン」で誕生したキャラクター。「東映版スパイダーマン」という名でファンの間では知られていますが、キャラクターの成り立ちや歴史などを詳しく知らない方も多くいらっしゃるのではないかと思います。

そこで今回は、『スパイダーバース:スパイダーゼロ』本編に登場する「東映版スパイダーマン」について、ライター・翻訳者の小池さんに、詳しく解説していただきました!

【流通限定】『スパイダーバース:スパイダーゼロ』
ジェド・マッケイ 他[作] フアン・ゲデオン 他[画]  吉川 悠[訳]
小売希望価格 3,740円(10%税込)

文:小池顕久

「東映版スパイダーマン」誕生の歴史


今回紹介する、日本オリジナルのスパイダーマン(通称「東映版スパイダーマン)は、1978年5月~1979年3月にかけて、日本の東京12チャンネル(現・テレビ東京)で放映された連続特撮TVドラマ『スパイダーマン』の主役を務めたキャラクターです。
 
同作は、当時アメリカのマーベル・コミックス社と、日本の映像制作会社・東映とが、「3年の間、互いの会社のキャラクターを自由に使用して良い」という契約を結んだのを受けて製作された特撮ドラマで、コミック版の『スパイダーマン』の設定を大胆に脚色し、「スパイダー星人ガリアによって、超人的な力を与えられた青年・山城拓也が、スパイダーマンを名乗り、モンスター教授率いる鉄十字団と戦いを繰り広げる」という、特撮ヒーロー的なフォーマットの作品に仕上げられました。
 
スパイダーマンと戦う鉄十字団の刺客は「マシーンベム」と呼ばれる異形の怪人が主で、同じ東映の『仮面ライダー』的な雰囲気に仕上がっていましたが、『スパイダーマン』独自の要素として、巨大化するマシーンベムに対抗するため、スパイダー星の超技術で作られた巨大ロボット・レオパルドンにスパイダーマンが乗り込むという毎回の「見せ場」がありました。

『スパイダーバース:スパイダーゼロ』より、凶悪なビジュアルのマシーンベムたち。

この特撮版『スパイダーマン』のロボット戦は、日本の子どもたちに大受けし、巨大戦艦マーベラーからレオパルドンに変形する「超合金」のオモチャも大ヒットを飛ばすなど、マーチャンダイジング展開でも成功を収めることとなります。※下記リンクは2020年発売時のもの

なお東映は、翌年に「戦隊もの」の特撮番組『バトルフィーバーJ』*を製作していますが、同作は『スパイダーマン』の商業的成功に倣い、巨大ロボット「バトルフィーバーロボ」が登場。こちらのロボット戦も好評を博し、以降、「戦隊もの」のシリーズは、巨大ロボットが登場するのが定番となるのでした。

*『バトルフィーバーJ』……テレビ朝日系列で1979年2月から1980年1月まで放送された、東映制作の特撮テレビドラマ、およびその作中で主人公たちが変身するヒーローの名称のこと。5人組のグループヒーローという形式に加え、巨大ロボット(戦隊ロボ)の登場は後のスーパー戦隊シリーズの設定にも影響を与えている。 

また、当初は関東ローカルの東京12チャンネルのみの放送だった『スパイダーマン』でしたが、番組の好評を受けて、全国の地方局でも順に放送されていきました。 

余談ながら、それ以前の日本のメディアにおけるスパイダーマンの展開は、

・1970~1971年にかけて、講談社の少年誌「別冊少年マガジン」に、池上遼一・画のマンガ『スパイダーマン』が連載。
 
・1974~1975年にかけて、東京12チャンネルで、テレビアニメ『スパイダーマン』が放映(ただし他の地方局ではあまり放映されず)。
 
・1976年に、集英社の青年誌「週刊プレイボーイ」で、本家『アメイジング・スパイダーマン』誌に掲載されたコミックを再編集&2色カラー化したバージョンが連載(全10回)。

……と、1970年代を通じて散発的に露出を重ね、それなりの知名度を獲得していました。しかし、当時の最先端のメディアであるテレビで、東映版『スパイダーマン』が(地方局の遅れ放送とはいえ)全国的に放映されたことと、同作のマーチャンダイジング展開の成功は、日本国内でのスパイダーマンの知名度を飛躍的に拡大させたのでした。

ちなみに、この東映版『スパイダーマン』の放送と同時期には、「冒険王」(秋田書店・刊)、「テレビマガジン」(講談社・刊)、「テレビランド」(徳間書店・刊)、「楽しい幼稚園」(講談社・刊)などの児童誌・幼年誌で『スパイダーマン』のマンガの連載も行われていました(変わり種では、当時アメコミ的な画風で知られるマンガ家の板橋しゅうほうが手掛けた絵本なんてものも)。

人気低迷からの再ブレイク


さて、そのように好評を博した東映版『スパイダーマン』でしたが、本放送後は、マーベルとの権利関係のせいか、ソフト化などの機会も少なく、極端に露出度は減っていきます。 

……が、本放送から30年が経とうとしていた2005年末に、東映から「最初で最後」と銘打たれた上でDVD-BOXが発売。さらに2000年代後半に、東映版『スパイダーマン』の特徴的な「名乗り口上」をまとめた動画が動画サイトで好評を博したことをきっかけに、東映版『スパイダーマン』は、新たな世代のファンを獲得することとなります。

一方、2009年には、本家マーベル・コミックス社の公式サイト内で、東映版『スパイダーマン(英語字幕版)』が配信されるという画期的な出来事があり、「SUPAIDAMAN」(北米での東映版『スパイダーマン』の愛称)は、本場アメリカでも熱心なファンを獲得するのでした。
 

コミックにおける活躍

『スパイダーバース』

そうした東映版『スパイダーマン』の熱心なファンの一人が、コミック作家のダン・スロットでした。彼は長らく『アメイジング・スパイダーマン』誌のライターを務め、さらに2014年度の大型イベント「スパイダーバース」のメインライターも務めるという当時のマーベルを代表する作家でした。

『スパイダーバース』(ヴィレッジブックス刊)
※現在は絶版

そして、マルチバース中から様々なスパイダーヒーローが大挙して登場する「スパイダーバース」の物語を展開するにあたり、スロットは、物語の中心的なメンバーとして、東映版スパイダーマンを登場させたのです。 

しかも、同作のクライマックスでは、東映版スパイダーマンが駆る巨大ロボット・レオパルドンがインヘリターズ(同作に登場する悪役。並行世界のスパイダーヒーローたちの魂を食らう邪悪な種族)に大打撃を与えるという活躍も見せました。 

ちなみにダン・スロットが後にTwitterで明かした裏話によれば、当初スロットは、東映版スパイダーマンを東映側の許諾を得ずに作中に登場させており、この件を知った東映側から「二度とこうしたことはしないでください」と注意されたそうです。
 
が、やがて東映側は態度を軟化させ(スロットは、「東映版スパイダーマンの登場が、日本のファンに大好評を博したため、東映側が方針を変えた」と言及していますが、実際のところは不明です)、以降も東映版スパイダーマンをコミックに登場させることを認めたといわれています。 

ちなみに、マーベルの並行世界は、それぞれ「アース616」「アース1610」などと、世界ごとに異なるナンバーが振られているのですが、東映版『スパイダーマン』の舞台となった並行世界は、『スパイダーバース』の作中で「アース51778」というナンバーが与えられました。

『スパイダーバース:スパイダーゼロ』の本編より。アース51778は白黒で表現されています。

また、『スパイダーバース』には、2004~2005年にかけて講談社の児童誌「コミックボンボン」で連載されていた『スパイダーマンJ』の主人公スパイダーマンJ(天野 翔)が数コマ登場していたり(日本のマンガを意識して、モノクロ調に彩色されていました)、池上遼一版スパイダーマン(小森ユウ)の参加がセリフで言及されているのですが、彼らの住む並行世界は、それぞれアース7041アース70019とナンバリングされ、マーベル・ユニバース内に組み込まれています(これらのナンバーは2008年度に刊行された設定資料集『オフィシャル・ハンドブック・オブ・ザ・マーベル・ユニバース A to Z』が初出)。

『デッドプール:トゥー・スーン? インフィニット・コミックス』

こうしてスパイダーバースで華々しいデビューを飾り、その後の再登場の許諾も得た東映版スパイダーマンは、その後、2016年に刊行されたデジタルコミック『デッドプール:トゥー・スーン? インフィニット・コミックス』#6(11/2016)に再登場しました。

『デッドプール:トゥー・スーン?』(小社刊)
ジョシュア・コリン[作] トッド・ナウク[画] 中沢俊介[訳]
定価 2,200円(10%税込)※現在は電子版のみ

同作は、マーベルのコメディ系キャラクターを狙う謎の暗殺者をデッドプールが追うというスラプスティックな内容。

作中でデッドプールがスパイダーハムに暗殺者について警告に向かったところ、彼は並行世界のスパイダーマンたちによる野球チーム「アメイジング・アラクノイズ」の一員として、並行世界のウルヴァリンらのチーム「シージング・スニクターズ」と対戦中だった……というシーンで、特徴的なスパイダーブレスレット(東映版スパイダーマンが左手に着ける装備。コスチュームや通信機、ウェブ発射装置などを内蔵)を着けた東映版スパイダーマンの姿が確認できます。

『スパイダーゲドン』

また2018年に、『スパイダーバース』の続編である『スパイダーゲドン』が刊行されたのですが、こちらにも東映版スパイダーマン&レオパルドンが再登場。今度のクライマックスでは、紆余曲折あって超存在キャプテン・ユニバースのパワーを得たスパイダーマン(マイルス・モラレス)が、レオパルドンのソードビッカーを投げ、インヘリターズの頭であるソラスを討ち倒すという胸躍るシーンも描かれました。

『スパイダーゲドン』(ヴィレッジブックス刊)
※現在は絶版

また、『スパイダーゲドン』とタイインして2018年12月に刊行された全2号の短編集『ボールト・オブ・スパイダーズ』の#1(同号の表紙には、レオパルドンも大きく描かれています)では、「第78章 最終銀河戦」と題された、東映版スパイダーマンを主役にした短編が掲載されました。 

『Vault Of Spiders (2018)』#1

同作は、東映版『スパイダーマン』の最終回で倒されたはずのモンスター教授が復活。今や「モンスター総理大臣」と自称する彼が、マシーンベム・ギガ・モンスター・ベガを繰り出し、スパイダーマンに決戦を挑む……という内容で、ラストはマシーンベムを打ち倒したスパイダーマンが、首だけになって生き延びていたモンスター総理大臣に裁きを下すべく、すべての始まりであるスパイダー星に向かうシーンで締めくくられていました。

『スパイダーバース:スパイダーゼロ』

続いて東映版スパイダーマンは、2019年に刊行されたリミテッド・シリーズ『スパイダーバース(vol. 3)』#1-6に登場します。

このシリーズは、この度、流通限定で発売される邦訳『スパイダーバース:スパイダーゼロ』の原本であり、『スパイダーゲドン』でも大活躍をしたスパイダーマン(マイルス・モラレス)が主役を務めます。ひょんなことから無数の並行世界を巡ることになったマイルスは、謎の少女「スパイダーゼロ」と遭遇。やがて彼らは、並行世界中のスパイダーたちの運命に関わる重大な事件に立ち向かっていきます。

【流通限定】『スパイダーバース:スパイダーゼロ』
ジェド・マッケイ 他[作] フアン・ゲデオン 他[画]  吉川 悠[訳]

作中での東映版スパイダーマンは、アース51778のスパイダー星に顕現してしまったマイルスに、スパイダーゼロの正体について、謎めいた助言を与えます。

『スパイダーバース:スパイダーゼロ』の本編より。急に熱唱する東映版スパイダーマン

さらに物語の後半では、オリジナルの東映版『スパイダーマン』のファンが驚くような展開も待ち受けていますが……それは実際に『スパイダーバース:スパイダーゼロ』を読んでのお楽しみとしておきましょう。

『エンド・オブ・ザ・スパイダーバース』以降

ちなみにその後、『スパイダーバース』の物語は、2022年に創刊された『スパイダーマン(vol. 3)』の#1-7で展開されたストーリーライン「エンド・オブ・ザ・スパイダーバース」にて、ひとまずの完結を見ています(邦訳版は小学館集英社プロダクションより2025年頃刊行予定)。

『SPIDER-MAN VOL. 1: END OF THE SPIDER-VERSE』

ちなみに、今月(2024年7月)刊行された『スパイダーボーイ』#9(9/2024)に、2年ぶりに東映版スパイダーマンがゲスト出演。本シリーズは、「エンド・オブ・ザ・スパイダーバース」のラストで初登場した、謎の少年スパイダーボーイの次元を超越した冒険を描いた作品で、同号では、ひょんなことからアース51778に転移してしまったスパイダーボーイが、レオパルドンでマシーンベムと戦う羽目に陥る……という話が展開されました。

『Spider-Boy』#9

そんな訳で、東映版スパイダーマンは、現在もアース51778にて、元気にマシーンベムと戦っている模様です。ぜひ、彼の活躍を7月新刊『スパイダーバース:スパイダーゼロ』でもチェックしてみてくださいね。


小池顕久

編集者、ライター、翻訳家。『トランスフォーマー』『スパイダーマン:クローン・サーガ』他のコミックの翻訳、単行本『石川賢マンガ大全』(双葉社)の構成・編集・執筆を担当。

@AtomJaw

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