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【イラストレーターインタビュー】 『スーペリア・フォーズ・オブ・スパイダーマン:嘘つきは泥棒(ヴィラン)のはじまり』

3月11日に、小社より『スーペリア・フォーズ・オブ・スパイダーマン:嘘つきは泥棒(ヴィラン)のはじまり』が発売されました。ヘッポコなヴィランが犯罪チーム「新シニスター・シックス」を結成して成り上がりのために奮闘するという本作。以前からこの作品の大ファンで、日本語版のカバーアートとセリフ監修を担当したイラストレーターのスーパーログさんに、本作への熱い想いを語っていただきました。
取材・文:三浦修一(編集部)

「スーパーログさんが好きな、ダメヴィランしか出てこない作品ですよ!」

──この邦訳の出版前から『スーペリア・フォーズ・オブ・スパイダーマン』(以下:『スーペリア・フォーズ』)はスーパーログさんの猛プッシュタイトルでした。本作との出会いは?

2013年頃、今のヴァースコミックス(※1)の店長、大橋徹二さんに「スーパーログさんが好きそうなタイトルが出ましたよ」ってすすめられたのがきっかけでした。その場ですぐに1話目を読んで「これは読まなきゃヤバいな!」と。それ以来ずっと追いかけています。

──特にグッと来たポイントは?

しょうもないヴィランばっかり出てくるところですね。大橋さんにも「スーパーログさんが好きな、ダメヴィランしか出てこない作品ですよ!」ってすすめられましたから(笑)。

──『スーペリア・フォーズ』は本国でも刊行当時から話題作だったのでしょうか?

ライターはニック・スペンサーさんだし、アーティストはスティーブ・リーバーさんなんで、話題作ではあったと思います。たしか当時のプレビューズ(※2)でも比較的大きく紹介されていたんじゃないかと。ただ、日本では詳しい方は注目されてるけど……って感じでした。僕はこのタイトルは個人的に大ハマりしたんで、これだけ読んでも面白さがわかるっていう部分も含め、イベントやTwitterでコツコツ紹介し続けてました。

──本国ではTPB(ソフトカバー)に加えてハードカバーも発売されていますね。

そうなんですよ! ハードカバー以外にも「マーベルレジェンズ」(※3)のシリーズでメインキャラクターのフィギュアまで発売されましたからね! こういう短編のキャラクターのオモチャが出ることって珍しいんですよ。ブーメランなんかこの本がなかったら絶対なってないです。このことからも、本国での人気の高さがうかがえると思います。

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▲写っているフィギュアなどはすべてスーパーログ氏の私物(撮影:編集部)

──特に推しのキャラクターはいますか?

僕が『スーペリア・フォーズ』に惹かれたのは、これまでスポットライトが当たらなかったキャラクターにフォーカスするという、ストーリーが際立っていたからなんです。だから特定のキャラクターというより、全体が好きなんですね。それこそさっきも言った通りブーメランなんて、元々はフィギュア化されるような人気ヴィランじゃないんですよね。彼は本編1ページ目のモノローグで「スパイダーマンの敵はたくさんいるけど、誰も俺の話なんてしてないだろ?」って自虐をしているんですけど……僕自身、誰かの話題に登るような人気イラストレーターじゃないんで(笑)。まずそこで共感したというのが、本作に引き込まれたフックとして大きいんです。

──1ページ目のモノローグでいきなり引き込まれたと。

そうです。「誰の興味の対象にもなってないヤツが主人公だなんて、面白くないはずねぇ!」って。ネタバレにならないように言いますけど、最終的に主人公たち新シスター・シックスが成し遂げることって、マーベルユニバースの正史に残るようなことじゃないんですよ。たぶん。でも、クズはクズなりにデカイことをやった。それがこのストーリーのグッとくるポイントで、やっぱり共感しちゃいますよね。結果が良いか悪いは別として。

──彼らはヒーローではないし、誰もが知っているスーパーヴィランでもないから、歴史には残らないんですね。

そうなんです。この作品の魅力として「ヒーローじゃなくて3流ヴィランが主人公」っていうのは大きいですよね。例えばアベンジャーズは基本みんな正義の味方で、憧れられる存在だったりしますけど、『スーペリア・フォーズ』の主人公たちは正しくないし、ヴィランだからずるいことばっかりしている、けどスーパーヴィランのように悪にも徹しきれない。そういう意味では、彼らの方が普通に生きている人間に近いんですよね。もちろん僕もアベンジャーズは好きですよ(笑)! でも読者が理解しやすいのは、歴史に名前すら残らない、新シニスター・シックスみたいなヴィランの方なんじゃないかな、と。僕はクズなんで共感もしてます。

キャラクターをあえて6.5頭身くらいにしました

──プロのイラストレーターとして見たスティーブ・リーバー氏の絵の魅力を教えてください。

絵の魅力を言葉で説明するのは難しいんですけど、スティーブさんの絵の最大の魅力は、シンプルな線でリアルなデッサンを保ちつつ、シリアス路線にもコメディ路線にも自然に見える絵柄が完成されてるところですね。これは見る側はすごく楽なんですけど、描く側としたら相当難しいことだと思います。

──今回のカバーアートを描くときに意識したことはありますか?

「カバーアートと中身の絵柄が全然違う」というのはアメコミあるあるではあるんですが、今回は中身を何度も読んでましたんで、なるべくスティーブさんのテイストに寄せて、「カッコつけすぎず、かといって面白く見えすぎないよう」に、そして若干自分のテイストが出るくらいに気をつけました。

──具体的にどのようにしてスティーブさんのイラストにアプローチしたのでしょうか。

大きなところだとキャラクターの頭身ですね。アメコミのキャラクターって、基本的に8頭身から9頭身、最低でも7頭身以上にして、パッと見カッコ良いのをわかるようにしてるんですけど、。今回はそこをあえて6.5頭身くらいにしました。表紙にいるキャラクターの中ではオーバードライブとビートルだけは年齢が若いという設定なので、彼らだけは頭身を高めにしてあります。ブーメランとショッカーに関しては、30代後半くらいのリアルな体型を意識しました。

──アメコミの表紙で、こういうリアルな中年の体型が描かれるのは珍しいですね。

正直な話、見栄えが良くないですからね。わかりやすい例でいうと、最近『シャンチー #1』のバリアントカバーを9頭身で描いたんですけど、それと『スーペリア・フォーズ』のカバーアートを見比べてもらうと、どれくらいブーメランとショッカーの体型がリアルなのかがわかると思います。

──今回、スーパーログさんにはセリフの監修もしてもらいました。監修するときに意識した作品はありますか?

直接的に引用したわけではないですが、マンガの『子連れ狼』が好きなので、原作者の小池一夫さんのセリフまわしには影響を受けています。この前インタビューに同席した時、スティーブさんも『子連れ狼』がお好きだっておっしゃっていましたね。

──先ほど『シャンチー』の例があったように、スーパーログさんは『スーペリア・フォーズ』以外に本国のオフィシャル仕事を数多くこなされていますが、アメコミのカバーアートを描くとき、心掛けていることはありますか?

僕の場合、「アメコミっぽさ」を意識しすぎないようにしています。表紙を描くときに、他のアメコミの表紙は見ないようにしていますし、「アメコミっぽくしよう!」と思って描いたことは実は一度もないんです。個人的な考えでは、アメリカの文化の中で生まれ育った人と、日本の文化の中で生まれ育った人の描くイラストには、同じコンセプトや題材だとしてもやっぱり根本的な違いがあると思うんです。日本で生まれ育った僕が「アメコミ」をわかったふりをして真似ても面白いものは絶対描けないと思ってまして。だから僕は、日本で今まで自分が吸収してきたモノでオーダーされたキャラクターの魅力を表現するようにしています。だから長年オーダーもらえてるんじゃないか、と。いや、正解を直接聞いたことがないので本当のところはわかりませんが。

──なるほど。ありがとうございます。では最後に、『スーペリア・フォーズ』の読者にメッセージを。

タイトルに「スパイダーマン」と入ってはいますが、特にスパイダーマンに詳しくある必要はありませんし、むしろアメコミをあまり読んだことのない方にもオススメです。先ほども言ったように、この本の3流ヴィランたちは犯罪者ですけど、普通に生きている僕たちと重なる部分がたくさんあると思うんです。ヒーローであれば絶対に許さない・妥協しないことでも、ヒーローでない僕らは妥協したり、許容したり、ズルしてごまかしたりしてしまう。そういう人間らしいダメなところだらけの、理解しやすい、共感できるヤツしか出てこないのが『スーペリア・フォーズ・オブ・スパイダーマン』です。……つまりは「スパイダーマンの真の強敵(スーペリア・フォーズ)」は僕らかもしれないってことですよ! でも本当の犯罪にだけは手出さない感じで、続刊も含め、ぜひ最後まで読んでいただけると。

(※1)池袋にあるアメコミ専門店 http://versecomics.jp/
(※2)ダイヤモンド社が発行している、各出版社が発売するコミックの月毎のカタログ
(※3)ハズブロ社の6inchフィギュアシリーズ

◆プロフィール
スーパーログ Superlog
日本在住のイラストレーター。マーベルコミックスで『サベージ・アベンジャーズ』『ファンタスティック・フォー』『ヴェノム』『エターナルズ』『シャンチー』のカバーアートを担当するなど、多くの作品に携わっている。
https://twitter.com/superlog
https://www.superlog.info/


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