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交渉を有利に進める小技:アンカリング

アンカリングとそのかわし方

今回は、交渉を有利に進める小技として、アンカリングを紹介します。

アンカリングとは

アンカリングとは、要は、基準点作りです。最初に提示された条件に拘束されてしまうというヒトの心理的な性質を利用した戦術で、結構効くんですよね。

例えば、家電量販店で、2万3000円で売っている商品を値下げ交渉して2万円まで下げてもらえたらなんだか得した気分になりませんか。家に帰ってアマゾンで見たら1万8000円で買えたと分かってがっかりしたり。こんな経験結構ありますよね。

アンカリングは、提示された条件(2万3000円)がまるで船のいかり(アンカー:anchor)のような機能を有し、その付近に相手が誘導されるという交渉戦術なのです。

契約交渉でみるアンカリング

契約交渉でもアンカリングを感じることは多々あります。双方が最初の契約書の草案(ファーストドラフト)を作りたがる場合は、それぞれアンカリングを気にしているものです。弁護士費用がかからないようにと相手にファーストドラフトを任せるのは結構危険ですよ。

ファーストドラフトを作る側は自分に有利な条項や文言(同じような条項でも文言を調整してこちらに有利にすることができます。)を入れたり、後で譲歩してもいいような条項・文言を入れて、あとで交渉の材料に用いたりします。相手からファーストドラフトを受けたときは、それぞれどのような思惑で条項を設けているのか神経をとがらせて分析します。

交渉に慣れた人や会社を相手にすると、ファーストドラフトから条項や文言を変更しようしたときにその変更の理由・根拠を求められたりします。そもそもファーストドラフトの条項・文言が理由・根拠がなかったりするんですけどね。ファーストドラフトから条項・文言を変更するのは、ファーストドラフトに条項・文言を設定するよりハードルが高いのです。

ファーストドラフトを握るというのは、アンカリングの観点からは、交渉を有利に進める有効な手段なのです(但し、ファーストドラフトを握れなかったとしても、必ず不利になるわけではありません。)。

アンカリングの高度な用い方:そもそもをアンカリング

GWは、沖縄の海で遊ぼうか、グアムの海で遊ぼうか。

アンカリングは、価格交渉が例示で用いられることが多いのですが、その他の条件でも効力を発揮します。高度な用い方としては、その前提となる部分でアンカリングを使うというものがあります。

今、GW真っただ中ですが、その旅行先を決めるときに、「GWは、沖縄の海で遊ぼうか、グアムの海で遊ぼうか」などと言われると、「どちらも混んでて、高そうだし、近場の海で潮干狩りでもしようよ」みたいな反応をしてしまいがちです。

でも、そもそも、海に行くって誰が決めたの?という問題がありますよね。山に行ってもいいし、川に行ってもいいし、家でゴロゴロしててもいいんです。でも、海に行くことを前提とした提案をされると、どの海に行くかという土俵で考えてしまいがちですよね。これは、前提問題(=何をするか)をアンカリングされてしまっていると言えます。

気を付けないと、こういう隠れたアンカリングに結構引っかかってしまうのです。

アンカリングのかわし方

アンカリングのかわし方は、簡単で、交渉のキホンに戻ることです。交渉のキホンは、実はシンプルな交渉のコツで伝えたように、自分と相手の"want”を把握することです。

最初に条件提示を受けたとしても、これをおさえていれば、その条件が適切か相手に寄っているのか判断できます。基準点が相手の条件提示じゃなくて、自分と相手の"want"になるんですね。

また、あまりに適切な点から離れた提示がなされたら、交渉をやめるか、こちらから条件提示しなおすということも有効な手段です。契約書を作り直してこちらから提示したり、ほとんど修正をして原形をとどめない契約書を返すということも結構あります。

さらに、相手の提示条件の理由・根拠を聞いてしまうってのも有効です。この条項・文言って何で必要なんですかと聞いてしまう。そうすると相手の"want”がわかったりして、一石二鳥です。

相手の条件提示に惑わされないよう、自分の中に基準を作っておく。そのために、自分と相手の"want"を把握しておくことが重要です。

結語

いかがでしたでしょうか、アンカリングとそのかわし方。交渉では結構アンカリングが用いられており、これを知らないと、いつの間にかアンカリングに引っかかっているということはあります。アンカリングを使うというより、アンカリングに引っかからないように、アンカリングの特性とそのかわし方を知っておくというのが大事ですね。

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法律書よりビジネス書が好きな弁護士。弁護士業務や弁護士になるまでに培った経験をなるべく言語化して共有したいと考えております。皆様からサポート・リアクションをいただき本当に感謝しております。励みになります。