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【特急湘南26号 Vol.13】同じアイテムを身に着けたオシャレではないやつが、同じ車両に存在した件

いつものように、午前8時11分藤沢駅発の特急湘南26号に乗って、渋谷へと向かう。僕の居場所は相変わらず3号車8番のA席。車内のいつメンたちとともに過ごしているのだが、知らないヒトたちなので今のところ交流は一切ない。

今日は反対側の座席にカップルが座っていた。見たことのないふたり。いつメンではない。窓際には彼女らしき方が座って、パソコンでなにやら作業をしている。男性は無地の黒いリュック、そしてちらっと見える靴下……リュックも靴下も僕と同じではないか。靴下に入っているワンポイントのラインでわかった。男性の全体を見渡してみると、お世辞にもオシャレとは呼べない人だった。つまり、僕もオシャレではないということだ。気は合いそうだけどオシャレではないふたり。僕は慌てて隣の席に置いているリュックを自分のカーディガンで隠した。彼はオシャレではないということは僕もオシャレではないという事実を突きつけられるだなんて、朝からこんな悲しいことあるのだろうか。まだ大船も通過していないのに。

わかる人には一目でわかるブランドのリュック

僕はオシャレが嫌いもしくは興味がないというタイプの人間ではない。家の近くにはロンハーマンを常に置いておきたいと思っているし(都内に住んでいたときはロンハーマンの真裏に住んでいた。店舗を利用したことは一回もないが)、それなりにお金を出して洋服を買っているつもりだ。ただ、トゥーマッチな物持ちの良さゆえ、冬のアウターはもうかれこれ20年以上同じものを着ている。メンズノンノで長瀬智也が着ていたモンクレールのダウンだ。今の薄型ダウンと違って、ガチのやつで着るとミシュランもしくはベイマックスみたいになる。(ちなみに、モンクレールは途中で社長が退社して2002年にドゥベチカを作ったので、それ以降のモンクレールは質が低くなっているとアパレル系の友人に聞いたことがある。つまり僕が持っているのは高品質の時代のものだ。高品質=かっこいいというわけではないが)
昔の写真と今を見比べるとまわりの人間は変わってゆくのに、自分だけまったく同じ格好だ。そこだけ確実に時が止まっているように見えなくもないが、髪が若干薄くて、太っている姿で「いま」を感じることができる。服のほかにも観葉植物を買うようなオシャレ心も持ち合わせているし、最近はちょっと香水なんかも気になり始めているし、それなりにオシャレなクルマもオシャレな電動自転車も持っている。そのはずなのに、反対側の座席の彼ははっきり言ってオシャレではなかった。僕と同じアイテムを2つも身につけているのであればせめてオシャレでいて欲しかった。朝からこんな思いをさせないでくれ! 他人がオシャレであることをこんなにも願ったことなど初めての経験だ。

そもそもこの車両にいるいつメンたちには申し訳ないが、みんなのことをオシャレだと思ったことはない。ひょっとすると特急湘南はオシャレ不毛の列車なのかもしれない。湘南エリアに住むホンモノのオシャレな人はおそらくクルマで通勤している気がする(スタイリストさんとか)。ネオクラシックカーなんかに乗って、都内へと繰り出しているのではないだろうか。

よく考えたら、こうして電車の中でキングダムの最新刊を読んでいる(しかも電子書籍ではなく紙での単行本で)ような中年がオシャレなわけがあるまい。そんなことより桓騎がいないキングダムをこの先どうやって楽しめばよいのだろうか……。なんてことを考えていたらいつのまにか渋谷駅。こうして僕は明日も知らないヒトたちと一緒に渋谷を目指し、夜になると藤沢に帰るのだ。

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