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歯の痛み 除去

歯の痛みから一週間、ようやく予約した日がやってきました。

歯が痛い1週間の悶絶の様子はこちらから

歯の痛み、というか骨折でも腹痛でも風邪でも恐ろしいのは、痛みに波があることです。とんでもない痛みが迸ってそのまま昇天するのではないかと思った一時間の後、痛みが和らいで平時の暮らしができてしまう数時間がきたりします。僕自身、その仕組みのせいで、足の骨を骨折したまま六か月間運動をし続けてしまった過去があるのですが、それはまたどこかで。
今回の場合は、二日前がピークでした。痛みのあまり食べることもできず、飢えと痛みで雨に打たれて縮こまる子犬よろしく、布団の中にうずくまっていました。
ですが、人は適応しようと努力するのですかね。僕は痛みを和らげようと、ほぼ無意識的に食べ物の嚙み方も変えましたし、痛み止めを飲むタイミングも意識しましたし、喋り方すらも変えて、なるべく痛む歯に刺激を与えないよう努力していました。

結果、歯医者に向かう道中の僕の歯は、我慢できる程の痛みにまで治まっていました。

そして、僕は歯医者に行けばこの痛みも完全になくなると思い込んでいました。決して間違いではありませんが、僕のゴールが、歯医者で治療してもらうこと、ではなくて、歯医者に行くこと、になっていたのは事実です。

前に住んでいたところから引っ越したので、今回は新しい歯医者さんにお世話になりました。自慢ではないですが(むしろ自虐)、僕は歯医者慣れをしているので、ある程度の流れは理解しています。緊張せずに淡々と問診表を記入し、順番を待ち、部屋へと案内されます。余裕です。僕の中では歯医者に行くという目的を果たしたのですから、後は痛みがさっと引いて、笑顔で帰るだけです。

あぁ、僕はなんて愚かなんでしょう。
痛いのだから、原因があるのです。原因を取り除かなければ、痛みは取れないのです。痛い原因を取り除くのですから、その工程には痛みを伴うのが自然なのです。

僕の左上の歯が痛みの根源でした。以前別の歯医者で虫歯治療をしてもらっていて、銀歯をはめてもらっていたのですが、銀歯の下で神経が化膿しており、痛みを生み出していた、とのこと。で、銀歯を外した時に、神経が生きていたならば血が出るらしいのですが、僕の神経はどうやら知らぬ間に天国に旅立っていたらしく、血の代わりに臭いが強烈なガスを出しただけでした。となると、神経の死体を除去しなければなりません。これが痛みの原因と、対処方法でした。

問題なのは、銀歯を外すまで、神経がどういう状態になっているかがわからなかったことです。何やら、痛みというものも神経の生死を見極める大事な要素になっているらしく、銀歯を外す時は麻酔しないでいくとの話でした。
「はい」
僕は興味なく返事をしました。銀歯を取るだけなら、痛くなんてありません。実際は少しの痛みがありましたが、余裕で耐えられます。
「あ、これは神経死んでますね」
(そうだんだ)
「これは除去しないといけませんね」
「はい」
(早くしてくれ。痛みがとれるならなんでもいいや)
「痛かったら言ってくださいね」
「はい」

……麻酔は????????????

死んでいる神経を除去する時には麻酔なしでやれることも知ってはいますが、でも、銀歯を外しただけで多少痛む歯に、これから採掘道具で穴を掘っていくだなんて、痛くないわけがないですよね。

考えがまとまる前に、けたたましい音を立てる長い棒が口の中にぶちこまれました。

痛い。

痛い。

痛い!

なんというか、外側から殴られているのではなく、内側の大事な核の部分を何度も繰り返し鋭利な槍でえぐりとられている感じがして、回避不能の、体の中で地震が起きているかのような、体の中で地割れが起きているかのような、生命を削られるタイプの重い痛みが、左の奥歯から円を描いて押し寄せます。

痛かったら教えて下さい、とのお医者様の優しい言葉を思い出しました。(言い忘れていましたが、お医者さんの態度や言葉遣いは、今まで出会ったお医者さんの中でもトップクラスに優しくて、安心できました)
痛いと主張すれば、麻酔でもしてくれるかもしれないと僕は思い、手を上げて痛みを伝えました。

お医者様「あ、痛いですよね」

再びドリルが口の中に。

どうして……どうして……

目からは涙がこぼれ、痛いポイントに差し掛かる度に、体が痙攣のようなおかしな反応を示しました。


歯医者さんが完全に悪いと言うつもりはありません。まぁちょっとは悪い気もしますが、一番は、歯医者に行くことが目的になっていた僕と、意見をより強固に主張できなかった日本人気質の僕と、そもそも歯を悪くしてしまった僕です。

僕なのです。

歯を大切に。この話はどこまで辿っても、そのメッセージにしか辿り着かない話です。
ひとまず、痛みからは解放されましたので、ハッピーエンドに無理矢理しておくことにしましょう。

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