33_小さなまちの「地産地食」
農業関連企業に勤める若手社員(1年目〜4年目)と話をする機会がもてた。子ども時代に食べたおいしい給食や畑づくりの体験、米づくり、バケツ稲の栽培…が現在も「食育」に関心を持ち続けている原体験になっているという。「小学校で野菜を育てた経験がとても楽しかった」「食肉がどのように育っているかを知る機会はほとんどなかった」「食はないがしろにされがち」だから「食への意識を変えるような取り組みが必要」などなど…話を聞かせてもらえて元気をもらった。
子ども時代の体験を経て食や農業に関心を持ち続けている大人に出会うと、「(食農教育を)やっててよかった」と思う。
地域で育て地域で食べる「地産地食」という言葉が生まれて9年目。この小さなまちで「地産地食」を日常化していくための手立てを考えていきたいなーというのが最近の関心ごと。
循環の仕組みづくり
「まちの食農教育」は神山町の地方創生戦略 つなプロの「循環の仕組みづくり」領域の施策に位置付けられ、活動してきた。先月から町幹部や神山つなぐ公社の理事たちと次期(2026-)に向けての検討が始まっていて、改めて「循環」ってなんだ?を考えている。
子どもたちへの食農プログラムが積み重なっていくその先に、まちでどんな状況が生まれると良いのか。農業や林業、地域の経済とどのように関連していくのか。「循環の仕組みづくり」領域でできる教育NPOの役割って?などなど、まだ混線状態の頭の中を整理するためにも一旦noteに書いてみることにした。
〝おいしい〟が循環する食堂の仕組み
食堂「かま屋」で「カマスのチャルモラ」を2回も食べた今週。「チャルモラ」はスパイス、ジンジャー、ニンニクを入れたマリネソースの呼び名だそう。モロッコ料理。
自分では作れない料理が食べられる、新鮮でおいしい野菜がたっぷり摂れる、そんな食堂が近くにあってありがたい。
「かま屋」では、近隣の農家から翌週に調達できる食材をリストアップし、それを見ながら週替わりでメニューを組んでいる。今ある食材を使う。畑を見て、調達する。新鮮な食材のポテンシャルを生かした料理が食べられるのは、料理人がいてこそ。気に入った料理はその場で料理人に作り方を聞き、横のかまパンで食材を買って帰ることもできる。これって〝おいしい〟の循環。
学校給食の食材費から見える、お金の循環
学校給食でも地域の食材を積極的に使うことが推奨されている。毎年、6月と11月に地場産物・国産食材の使用状況調査(文科省)が実施され、全国のデータが見える。割合が最も高いのが山口県の87.2%(令和5年度)。全国平均は55.4%(参考:令和5年度学校給食における地場産物・国産食材の使用状況調査 )。
冒頭の話に戻るけれど、給食の食材生産者が学校に来て、食材にまつわる話をしてくれたり一緒に野菜ダンスを踊ったりしたことがとても印象に残っているという話もあった。給食で地域の食材を使うことの目的の一つは「食育」だといわれるけれど、近い距離で採れる新鮮な食材のおいしさもさることながら、人が見える、一緒に体験することを通して、感覚を伴う個別具体の出来事になっていく(食べ物が身近になる)ことが大事なんだろうなと思う。
地域でお金が巡ると新たな仕事が生まれる可能性がある。だからお金をどこで使うか、って大事。学校給食の地産地食化によって地域にどれほどお金が残るのか、手元にある数字を紐解いてみた。
資料1は、神山町の学校給食と寮の食堂で使われている地場産物の割合。学校給食センターでは町内の農産物を優先的に使い、足りないものは町外から調達する流れをくんでいる。
資料2は、給食の食材にかかる費用を食材ごとに分けた場合のおおよその配分。神山町の場合、①〜⑥のうち、①牛乳 ③水産物 ④畜産物 ⑤加工品・調味料は町外から調達せざるを得ない(調味料類は町内のスーパーでも調達)。町内で生産・調達できる可能性があるのは②米orパンと⑥野菜その他残り だけになる。米が町内産→県内産に切り替わったため、②が町内産である可能性は低い。それでも、食材の67.2%が神山町産って、なかなかすごいことなのでは。
給食食材の67.2%分のお金がまちに入ると、いくらになるのか?
給食喫食数が仮に250名、給食提供日数が200日だとして、1食あたりの食材費が300円だった場合、年間の食材費(全体)は1,500万円(実際の数字とは誤差あり)。
1,500万円の食材費のうち町内に落ちるお金は②米orパンと⑥野菜で、食材全体の約1/5を占めるとする。1,500万円の1/5は300万円。食材をめいっぱい町内から調達したとして、まちに入るお金は年間300万円。
(思ったより少ない…)
現状、可能な限りの食材を町内で調達できているとしたら。給食以外の食材(つまり家庭の食事)をどこで買うか、どこで食べるかを考えた方が、いい議論ができそうな気がする。
資料1に戻って、寮の食事における地場産物の使用は平均71.1%(徳島県内産)。2027年には学生が約200名、スタッフが50名になると想定して、朝 200食+昼 250食+ 夜 200食、計 650食 / 日 の食材費が巡る。まちの人口の約5%にあたる学生がまちで生活し、毎日ごはんを食べることで生まれる経済循環は大きい。
地域でお金を巡らせる
地域でお金を使うとはどういうことなのか。1万円を手に持ち、まちで8千円の買い物をする。その8千円は地域に残る。町外で8千円の買い物をしたら、まちに残るお金は2千円。その積み重ねを4巡すると、まちに残るお金に3倍の差が生まれる。
家にいながら何でも購入できる便利な時代だけど、食べるものは身近で採れる新鮮な食材がいい。日常生活のインフラにちゃんと地域の食材をいれていけるともっといい。そこに働きかけるには、子ども時代から食や農を身近に感じているだろう子どもたちの存在はとても頼りになるなーとも思います。
心強さをつくる、食の風景
今年、町内の高校生と小学生でレトルトカレーを作ってマルシェで販売する取り組みを行った。安心・安全な給食づくりについて栄養教諭から教わったのは貴重な経験。カレーの試作を食べた調理スタッフからはプロの目で厳しいコメントをいただき、毎日〝おいしい〟を目指して調理してくださっていることがひしひしと伝わってきた。情報ではなく、人を知ることから始まるなぁと思ったプロジェクト。
小学校(地域)の防災訓練で毎年作っているカレーの食材を、子どもたちが育てた野菜で作れるといい。ジャガイモ、人参、玉ねぎを栽培し、保管できないか?と小学校の先生から相談があった。学びの場でも「地産地食」を。今年は防災訓練の時期が予定より早まってしまい栽培が間に合わなかったのだけど、「畑で芋を育てている」「学校に芋が保管されている」というのは心強い日常の風景。次年度以降ぜひ、と思っている。
地域で育て地域で食べるその仕組みが、仕事づくりまでつながるように。安心・安全な暮らしと地続きであるようにと、思いや願いにはキリがない。
この数年でわたしたちができることも増えてきているし、まちの人たちで共有できるものごとや、育つものもある。変化を受け止めながら次に進んでいけるのは、とても健やかな道のりだなぁとつくづく。