29_田んぼから生まれる工芸品(わら細工たくぼさんを訪ねて)
今週は田んぼの草取りweek。昨年は草がほとんど生えてこなかったので不意打ちをくらった感じ。草は伸びる一方で待ってはくれず、日中は暑すぎて動けない。早朝の時間帯しかない!と腹をくくり、1回目は5時過ぎから7時(6時からはすでに暑い)、2回目は5時過ぎから8時半まで作業をして、田んぼ全体の3割ほどの草を取った。得たものは奇妙な達成感(外から見ても変化なし)と、全身筋肉痛と極度の疲労感。草が生えづらい環境をどうやってつくるのか、が来年に向けた課題かな。
地域性
神山町は森林と里山と鮎喰川からなる地形。里山では石積みを施した田んぼを作り、おいしい山水で自分たちの食べる米を作ってきたその営みが垣間見える風景が広がっている。暮らしとともにある農のあり方。自分の家で食べる分の米や野菜は自分たちで作るという人も多く、立ち寄ると野菜や旬の果物をいただくことも多い。豊か。
数日前、北海道浦幌町から視察に来られた方々と話を交わしたら、浦幌町の食料自給率は3,800%だという(!!)。広大な面積をパワフルな大型機械で耕運、収穫する大規模農業が主流。直線で1km先まで見渡せそうな大地をイメージしながら話を伺った。
手と体を使い、黙々と続ける除草作業。わずかな気力を奪っていく暑さと湿度。来年どうしようか、できるのか…って、毎度考えてしまう。そして、わたしたちより上の世代は次々と引退していく。
この地で米作りがどんなふうに続いていくのか、今の時代にあう方法で続けられる手立てはないのか、給食がきっかけにならないか…という問いは頭の中でぐるぐるしてるけれど全然着地しないまま毎日、毎年が過ぎていく。
高千穂へ
先週末、宮崎県の高千穂郷へ行ってきた。徳島からは車で9時間程度の旅(愛媛県から大分県まではフェリー)。主目的は「わら工房たくぼ」さんのワークショップ。
前日に高千穂入りし「夜神楽」が見られる高千穂神社へ向かった。教科書でしか見たことのない「神楽」を目の前で見られた喜び。神楽の伝え手が丁寧にその歴史を教えてくれて、無知だった「神楽」がずいぶん身近になる体験だった。字面でイメージするよりラフで親しみやすい。お酒を飲みながら演じても良いくらい、ゆるい。比較的若い人たち(お面被ってて顔は見えなかったけれど20~40代くらいかなぁ)が場を持っているのもいいなぁと思えた。後を継ぐ人たちがちゃんといる。
そしてこれは地元の方々向けの不定期イベントかと思いきや、しっかりと観光客向けの目玉コンテンツになっている。会場は近隣の宿から集まる多くの観光客(1/3くらいは海外から)で溢れていた。
わら工房たくぼさんへ
翌朝「わら工房たくぼ」さんへ。工房の目の前が美しい棚田…!天気も相まって、天国みたいな風景(行ったことないけど)。一瞬にしてカメラロールは棚田の風景で埋め尽くされた。
斜面に沿った緩やかなカーブを描いている田んぼが多い。小さな機械を使って植え、端のほうは手植えをしているのだそう。それにしても、斜面の草刈り、かなり大変そう。どうやってるんですか?と尋ねたら、草刈機で定期的に刈っているとのこと(除草剤は使わない)。草の勢いがすごいこの時期はなかなか手が回らず…と。わかります、とても。
Googleマップで高千穂郷を見ると棚田の形がよくわかる。棚田が密集している地域があり、ひと目見たさに車を走らせる。ただ、神山で頻繁に目にする石積みが施された棚田はどこにもない。石が身近になかったという環境もあるのかな…などと考えを巡らせる。実際に、高千穂の山々は切り立っていて谷は深く、山から石を運ぶのも、川原の石を集めるのも難しそうな場所だ。神山の石積みの石はどこから運ばれたのだろう。
たくぼさんの田んぼは、36km上流の山から水を引いているそう。先人が手作業で水路を掘ったそうで、たくぼさんの場所が最下流部にあたるらしい。これまで水が切れたことは一度もなく、豊かな水資源にも恵まれていると話されていた。
「田んぼから、みんなでつくる工芸品なんです」
たくぼさんのワークショップへ。
たくぼさんに所属する作り手は6〜7名。年齢は26〜93歳(93歳の方は最近引退されたそう)。
例えば、器の作り手が土を集め、こね、成形して焼成まで一人でやることが多いのに比べて、たくぼさんのわら細工は、田んぼの作業から工芸品づくり(年間1,500~2,000個を作る)まで、みんなで作っている、という話。20代〜90代による、力の合わせ技。
一年の大部分を手仕事にあてているのかと思いきや、6~7割が田んぼの作業、3割は屋内の手仕事に時間をかけているとのこと。稲を育てるところ、それより前の土づくりから一貫して手がける面白さ。こういう、切れ目のない関わりかた、きっとわたしは好きなんだと思う。食農教育もそうなんだよねきっと。
たくぼさんでは「青刈り」と言って、穂が出る前に根本から刈り取って乾燥機にかける作業があるそうだ。ワークショップで使用する稲も青々とした稲を使った。工芸のための稲藁づくりだ。
秋の稲刈りは「素材確保」の農作業となる。収穫した稲は掛け干し(天日干し)して乾燥させ、余分な藁の部分を取ってきれいにしていく。ここで落とした藁の不要部分は牛の餌にし、牛糞は田んぼに戻す、というように資源は循環する。
今回、ワークショップで作ったのは祝亀。
準備してくださった藁はとても美しくて、見慣れた稲藁とは違った視点で「稲藁」を眺めた。
ものすごく集中しながら黙々と。
ほどけにくいのにほどきやすい紐の結び方も教わった。一つひとつ、勉強になる。こういう先人の知恵って、ほんとすごいよなぁー。
稲穂を刺す道具(空洞がある大きな針のようなもの)が大活躍。きっと、使う道具たちもたくぼさんで何十年も改良を重ねてきて今があるのだろう。
亀は大切に持ち帰り、先月喜寿を迎えた父にプレゼントした。
たくぼさんには他県から移住してきた若い作り手さんが何人かいらっしゃった。そのうちの一人は「この地域に魅せられて移住してきました。もう出るつもりもありません」とおっしゃっていて、たくぼさんの魅力がそこで働く人を通じてよりあらわになってる感じがした。
お会いした3名とも遠方から移住された方。兼業農家、農家しながら料理人、という人は知っているけれど、米作りから工芸まで一貫して携われる仕事を初めて目の当たりにして、なんだかカルチャーショックを受けている。
若い方々が嬉々としてその仕事に専念されていることにもいい意味で驚いている。
翌朝は宮崎市中心部の朝市へ。
野菜がおいしい町を見つけると、しばらく滞在したくなる。宮崎はごくごく普通の居酒屋でも野菜がおいしかった。
そして束の間、学生時代からの友人と合流。第三の人生を歩み始めていて、心底励まされた。
次回宮崎に行くときには彼女に洗髪してもらうぞ!