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野生の経営

私は自称、直感派の所謂、右脳経営者です。元大工から全く経営の勉強をせずに勢いと成り行きだけで経営者になった経緯から見てもそれは歴然ですが、周りからの評価は意外と理論派というか、事業の構造や建て付けをロジカルに組み立てていると言われる事が少なからずあります。ま、元大工だけに構造にはうるさい方なのかも知れませんが、決して理論ありきで計画や行動を行っているわけではなく、圧倒的に直感に頼っている部分が多いと自己分析しています。ただ、何でも直感で判断してしまうのはあまりにも乱暴で危なっかしい事くらいは認識しており、法人設立した後のこの20年間は直感+判断材料にすべき理論も原理原則論を中心にある程度は学び、実践してきました。そんな私が久しぶりに痺れる〜と感じた経営書に出逢いました。以下にその書籍をご紹介します。

野生の経営

本書の「野生の経営」とのタイトルを見ると直感重視どころではなく理論やセオリーなど全く無視して本能の赴くままに事業を行うことを推奨しているかのように捉えられるかもしれませんが、もちろんそんな単純な内容ではありません。野生とは野蛮とは全く違い、人間誰しもが本来生まれ持っている生き抜く強靭な力を指しており、激しく移り変わる環境の変化に臨機応変にしなやかに適応し、人類最大の武器と言われる言語を操り、コミュニケーションを駆使して共感を呼び起こし、集合知を生み出すことで個ではなし得ないことを集団の力で実現する。未来を信じてより良い世界の実現へと情熱を燃やすことを含めて著者の野中郁次郎さんは「野生」だと定義されています。書籍の帯に書かれた「直感やアート思考を超越する世界的経営学者の最新作」との文言は決して大袈裟ではないと読了して大いに納得した次第です。

釜石の奇跡

人が野生を発揮した事例として本書の冒頭に東日本大震災の際の「釜石の奇跡」を挙げられていました。地震が起こり、巨大な津波が押し寄せた岩手県釜石市で小中学校の生徒の生存率が99.8%だったのは中学生を中心に自分たちで考え即行動に移して小学生の手を引いて避難したことに起因しており、避難場所に逃げた後もこの場所が危険だと察知して更なる高台へと移動を繰り返した判断と行動によって多くの命が救われた事例です。その子供達は以前から津波防災訓練の教育を受けていたとの事で、「想定にとらわれるな」「最善を尽くせ」「率先避難者たれ」の避難三原則を叩き込まれており、自分の命を率先して救う行動が周りの命をも救うのだと教えを実践した結果であり、まさに野生を磨いたことにより、ハザードマップに頼らずに自然の脅威にリアルに向き合い、その感性を行動に移した事で被害を最小限に抑えてサバイブ出来たとのことです。

解決出来ない課題を解決する力

野生の強靭な力を経営に生かした例として、SONYの復活劇やMicrosoftの革新的な変容の事例など、私たちに身近な企業も挙げられておられますが、多くの紙面を割いて中心的な事例として紹介されているのはゴールデントライアングルと言われ、麻薬生産の無法地帯として世界的に有名なエリアの一角、タイ王国の主要な麻薬生産地だったドイトゥンで実際に行われた「ドイトゥン開発プロジェクト」で行われた想像を絶する取り組みとその成果です。ケシの栽培、アヘンの生産以外に生活の糧を得る方法がなく、住人自らも麻薬を生産しながら麻薬に侵され依存して、アヘンを購入するために低賃金で過酷な労働を強いられ、金銭的に行き詰まると子供や娘を売り飛ばす、解決不可能だと思われていた地獄のようなサバイバル・ワールドをコーヒーやマカダミアナッツの代替作物の栽培や現地の伝統的な織物、手漉き紙、陶器などの手工芸品の販売、そして観光地として多くの人が訪れる花が咲き乱れる美しい村に変革した事例はまさにロジックや既存のスキームの枠内でできる事ではなく、野生の強靭な力を発揮しのだと納得させられました。しかもそれがタイ国内だけではなく、近隣諸国にも同じように広がりを見せた再現性は野生の経営が確固たるモデルとして存在していることを実証しています。

野生を経営に生かすSECIモデル

本質的な経営理論、経営哲学の研究者として世界的に有名な野中郁次郎先生はその奇跡のプロジェクトのモデルを1990年代初頭から提唱されていたとのことでそれを「SECIモデル」として本書の中で非常に分かりやすく解説されています。あらゆる社会変革はまず初めに一人の人間の強烈な善なる想い(主観)があり、それを熱く語り、伝える事で共感する人が現れる(我々の主観の創出)この一人称から二人称への「共同化(Socialization)」が更に議論やディスカッションの場に広がることで「表出化(Externalzation)」され概念が形成される。更にその概念が多くの人との知的コンバットによって他の知と自在に繋がり、編集され体系化されるのが「連結化(combination)」で初めの一人称の際の「いま・ここ・私だけ」の想いが「いつでも・どこでも・誰でも」応用可能な集合知へと作り出される。そして、その集合知となった概念を実践し試行錯誤を積み重ね身体化して新たな暗黙知を生み出していく「内面化(Internalzation)」、これがスパイラルアップすることで新たな価値が持続的に創出され、より良い世界の実現へと歩みを進めるとのPDCAとは全くリアリティーが違う実践理論です。

やっぱり、信じるところから始めよう

この「野生の経営」を読んで改めて、必ず実現したい理想を掲げ、熱い想いを滾らせ、一人ずつの人にそれを伝えること、そしてその前に想いを聴いてもらえるようにラポールを築く、信頼されるに値する在り方を突き詰めること、共感される信念を持つことの当たり前の原則を突きつけられたのと同時に、未来を信じること、人の良知を信じること、人が持つ大きな可能性を信じる事の重要性をひしひしと感じさせられました。そして「ウオーク・ザ・ウオーク」の現場主義、野生の強靭さとしなやかさを持って実践知を積み重ねる必要性も同時に考えさせられました。
最後に自分自身への備忘録として野生の発現に必要な考え方、一見相反するような行動を偏る事なくバランスを取りながら進める「あれかこれか」の二項対立ではなく「あれもこれも」の二項動態的な思考と実践の概念についてメモしておきます。この6項目は本当に痺れました。
「野生の経営」是非ともご一読を強くお勧めします!

・共通善を追い求める&「いま・ここ」を歩き、感じる
・人々を信じ、衆智を生かす&対話し覚悟を問う
・言葉に魂を込める&共に汗を流す
・壮大な物語を描く&小さくてもすぐに成果を出す
・大胆に挑戦する&細部にこだわる
・誰(何)にでも共感する(二人称)&生きる意味を見出す(一人称)&人々を巻き込みスクラムを組む(三人称)

野生の経営より抜粋

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